記憶喪失になったぼくが見た世界 (朝日文庫) 坪倉 優介

この本がずっと気になっていた。最近「記憶喪失になったぼくが見た世界」というタイトルになって文庫にもなった。

あえて文庫になる前の単行本を読んでみた。

これはダニエル・キースの「アルジャーノンに花束を」の逆だと思った。18歳の美大生が交通事故で全ての記憶を無くす。

何が起きたか。

自分の家、部屋、友達、食べ物。全てがなんだか理解できない。まるで光と音だけの世界になってしまう。

本人は必死で過去を思い出そうとするが、断片的にしか思い出せない。母親になぜ世界がこうなっているのが朝から晩まで聞きまくる。

体は大人だが、心が赤ちゃんになってしまったわけだ。

母親はこう表現している。

テレビも、動くものに対して目が行くだけで、喋っていることが理解できないのでおもしろくない、プラモデルを作るのが好きだったが、作る気が起きない。毎日何から始めれば良いのか、途方に暮れている。

みんなの真似をしてすこしずつ世界を知っていく。辛いものを食べたり、女性と付き合ったらり。読んでいてハッとしたのは、新しい記憶を積み重ねた筆者は、いつの間にか昔に戻ることを恐れ始めていることだった。

せっかく新しい人生を歩み出したのに、またその記憶を失いたくない。この気持ち、人間の記憶というものの謎と貴重さを教えてくれる。

筆者は染め物の世界に入り、いまは独り立ちしている。フェイスブックもやっているので、友人申請をした。この本の中にも「記憶を失ったことを言い訳にしない」と書いてあるが、仕事のことが書いてあるだけだった。

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