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北朝鮮が国境を開放した理由

 

北朝鮮が自国民の帰国を認めた

 朝鮮中央通信が8月27日、国外に滞在する自国民の帰国を承認すると発表したからだ。これまでは、新型コロナウイルス対策を理由に帰国が規制されていた。開放は、コロナによる国境封鎖から実に3年7カ月ぶりとなる。

 これに先だって北朝鮮国営の高麗航空の旅客機が平壌と中国・北京、またロシア極東ウラジオストクの空港を往復していた。
 開放を示す兆しは、これ以外にもいくつかあった。
 まず北朝鮮は7月末に、中国共産党中央委員会の幹部らとロシアのショイグ国防長官を団長とするロシア軍事代表団を平壌に招待した。隔離期間もなく、金正恩(キム・ジョンウン)総書記をはじめとする北朝鮮の政府要人と直接面会している。コロナ感染拡大を強く警戒してきた北朝鮮としては、異例の対応だった。

ツアー再開を旅行社に通報

 さらに北朝鮮側は、中国や欧州で北朝鮮ツアーを実施していた旅行社に、8月中の国境開放を伝えていた。北朝鮮ツアーを扱ってきたスウェーデンの旅行社は、RFA(自由アジア放送)の取材に対して、「正確な日付は不明だが、現地のパートナーによると(外国人観光再開が)数ヶ月以内に行われるだろう」との見通しを語っている。
当面は自国民の往来に限られる。帰国後は1週間ほどの隔離が求められるが、これは一時的なことで、まもなく隔離期間も廃止され、外国人観光客の入国も認められそうだ。

 日本の旅行社も、「国境が開放され次第、再開する」という条件で平壌観光の商品をホームページに掲載している。

 旅行社がホームページに掲載している旅行プランによれば、平壌の有名観光地を巡るほか、非武装地帯(DMZ)や開城などの地方都市を訪問できるという。

 このほか、高麗航空の旧ソ連製ヘリコプターMi―17乗って40分間、空から平壌市内を観覧する観光オプションも用意されている。ロシアのヘリで、平壌市内を空から見るというのは、まさに秘境ツアー。ファンなら、とびつきたくなるかもしれない。旅費は1週間で10万円程度になるという。

 ただ、北朝鮮は、核開発やミサイル発射をめぐり国連などから厳しい制裁を受けている。これまで2回発射に失敗した「軍事偵察衛星」の打ち上げを10月に行うとも宣言しており、国際的な非難を浴びている。世界的には、コロナの再流行の兆しも出ている。

金正恩総書記もロシア訪問


 そういった流動的な要素はあるものの、国境の開放は、もう止められないだろう。
 9月には金正恩総書記が、長期間ロシアの極東地域を訪問し、ロシアのプーチン大統領と首脳会談を行っている。

なぜ今になって開放したのか


 北朝鮮は、これ以上国境閉鎖によるモノ不足に耐えられそうになくなっている。
 韓国統一省も「北朝鮮は全般的に防疫を緩和する措置をしており、国際スポーツ行事参加を準備する動向もあり、国境開放は時間の問題」と明らかにしている。
 スポーツ行事とは、まず9月に行われる中国・杭州アジアゲームだ。選手やコーチ、応援団などの派遣を計画し、じっさいに20人ほどが参加した。国威発揚はミサイル発射を繰り返しているだけでは実現しない。国際大会で自国の選手が活躍する方が、住民の心を動かすだろう。

国際支援再開の可能性も

 国境開放は、北朝鮮にとってプラスの要素が少なくない。不足する食糧や医療品が輸入され、多少なりとも住民生活の安定に寄与するだろう。国際的な人道支援が始まる可能性もあるからだ。
米国のリンダ・グリーンフィールド国連大使は、オンラインの記者懇談会で、北朝鮮の食糧難に関して「私たちは北朝鮮の食糧不安定問題をよく知っている」と述べた上で、「北朝鮮が、もし国境を再開すれば、私たちはもちろん他の国々も、北朝鮮住民に必要な支援をすることができるだろう」と述べている。

 制裁とは切り離し、国際社会が北朝鮮へ食料支援できるとの考えを示したものだ。

脱北監視が強まる


 一方で、混乱をもたらすことも予想される。
北朝鮮国境が開放されれば、中国とロシア内の北朝鮮側収容施設に拘留された脱北民が一斉に強制送還される可能性があるからだ。
 韓国での報道によれば、中国公安(警察)は、今年に入って中国南方地域で大規模な脱北民取り締まりを行い、500人ほどの身柄を拘束したという。中国全土には、脱北者が2000人いるとの推計もある。この人たちが、いっせいに北朝鮮に送還されるだろう。
 中国やロシアなどに長期間滞在していた労働者や留学生、外交官なども帰国対象となる。労働者の場合、中国には10万人、ロシアでは1万人ほどいる。

 家族の待つ故郷への帰国を望む人もいるだろうが、コロナの期間中に味わった自由を捨てられず、この機会に脱北を図る人も出てきそうだ。
 脱北を防ぐため北朝鮮は、監視と統制を強めており、日頃、北朝鮮の政権に敵対的な言動を行ってきた労働者を選び、先に帰国させる方針だという。

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