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ファイヤープロレスリングワールド GWF奮闘記 1-2:藤戸初花の疑問

「ウチの団体で微妙に不思議ですよねえ」

「何がってんだい?」

GWF女子レスラーの藤戸 初花はカレーを食べながら、首を傾げた。前には、先輩レスラーである火神 祥子が同じく飯を食べている。ただ、火神の方は量は控えめだが、多くの料理を取り揃えていた。火神の話だと年を食うと健康に気をつけなきゃいけなくなる。カロリーやビタミン等の計算もしているとの事だ。

「いや、スカウトされてから、ようやく気付いたっていうか。こういった、食堂も運営してますし、いくら温泉があるからって、寮にも温泉とか引いてますし……」

「福利厚生が多くて結構じゃないか。アタシが前にいた団体なんかそうはいかなかったよ。水飲むのは禁止、女性らしさより、男らしさが求められる。後、25歳定年が暗黙の了解のウチにあったからねぇ」

「はぁ、それはブラックな」

「ブラックの一言で片づけなさんな。アタシにとっては一応、青春の一つなんだから」

今でも火神は青春ど真ん中にいると藤戸は思う。確かに藤戸が昔見ていた火神の全盛期に比べ衰えはあったが、熱さ、試合のインパクトなどはまだまだ、自分には遠い存在だと感じた。

「それに外国人、多いですよね。私がもっか戦ってるエミリーとか」

「あー。あのお嬢ちゃんとかね。言われてみれば、ウチの団体は多いかもなぁ」

火神はチキンソテーをよく噛むとゆっくりと飲み込んだ。顔には皺が増えているらしいが、体は同年代のそれとは違い引き締まっている。藤戸は同い年になった時に火神のようにいられるか疑問ではあった。ただ、能天気さは受け継ぎたくないかなと思う。

「元々、ウチの団体は今の会長がプロレスの世界ネットワークを作るんだーって息巻いて作った団体だからね。藤戸みたいに空手やりながらとか他の格闘技やってた選手もプロレスやってみないかと誘ってきたもんさ。アタシはまぁ、ちょうど前の団体が閉店ガラガラーってなったからね。だからちょうどよかったのだけどね。でも」

「でも?」

「ちょーっと放漫経営が過ぎたかな。だから、今の久松の爺さん……現社長がちょっとキレて、会長に追いやって実際の経営から追いやったワケ」

「クーデターですね」

「まぁ、そんなもんかな。でも現会長もお人よし過ぎたとこがあるからね。ちょうど、引き締まってスカウティングに専念する事になったから、適材適所ってヤツでちょうどよかったかもしれないね」

成程、とうなづくと藤戸はカレーの残りを平らげた。故郷に比べると若干辛口の味だが、これにも慣れてきた気がする。それだけ、ここに馴染んできたという事なのか。

「おー、よく食えよく食え。それだけ、体も大きくしないとな。それに次の道場マッチ、アタシらが第一試合だかんね」

「そうなんですか!?」

思わず、むせそうになったが、火神はリストを前に出してきた。そこには、確かに自分の名前があった。

「相手は……エミリーとウィッチさんか」

「まぁ、女子は4人しかいないからね。まずは華がある女性陣からやりたいんだろうさ」

「ウィッチさんって謎ですよね。あれだけキックと関節とかやれるし、飛び技もできる……結構色んな団体いたんじゃないですか?」

「それは、アタシは聞かない事にしている。何かマッスルとタフネスの兄弟たちがスカウトしてきたが、どこにいたかは聞くなって言われたしね」

「はぁ……また、謎ですね」

藤戸は水を飲み干すと、相手のマスクウーマンについて思考を巡らせ始めていた。すると、

「すみません、少し後ろを開けていただきますでしょうか」

黒髪の長髪美人がおずおずと手をあげていた。どうも、自分が思ってたより椅子と机の間を開けていたらしい。

「あぁ、すみませんでした!どうぞどうぞ」

藤戸は慌てて椅子を引くと女性は一礼をして

「試合楽しみにしてますね」

と言って、食堂を出ていった。

「美人さんでしたねー、ウチの食堂にあんな人が来るなんて。誰かのファンなのかな?」

藤戸がそう言うと、火神はくっくっと笑いをあげた。

「火神さん、なにがおかしいんですか?」

「あれ、ウイッチだぞ」

「ええっ!?」

出口を見ながら、茫然となる藤戸だった。

「やっぱり、この団体不思議だよ……」

その日、食堂や各メディアにてGWFの試合発表がされた。


第一試合

火神祥子 藤戸初花 VS ザ・ウイッチ エミリー・オーウェン


第二試合

梶原敏一 永野勇 太田天兵 VS 御堂筋条介 是害坊 ランディ・ハワード 


メインイベント

小暮康生 マスク・ザ・マッスル VS 桜神(桃炎隊) 城戸真絃(桃炎隊/STAR GEAR)


※無観客放送試合


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