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ファイヤープロレスリングワールド GWF奮闘記 2-6 挑戦の始まり

3カウント。間違いなく入った。IKKIはゴングが聞こえたようなので、技を外した。相手の陣内は倒れている。勝ち名乗りを挙げていると、八坂や太田が陣内のセコンドについて頭を冷やしていた。
背中を軽く叩かれる。レフェリーの久松が後ろにはいた。片手を上げると場内から拍手が起こった。
―これが、歓声なら。
今は、歓声は出せないので仕方ない。ただ、これで自分がジュニアのトップに立つ始まりだと思った。
IKKIはマイクを取るとスイッチが入っているのを確認し、叫ぶ。
「優勝しましたぁッ!!これが、始まりです!!」
周りから、拍手が起こる。
「ヤマプロ選手、八坂、陣内と強かったです。でも俺っちはもっと強い。それを証明できました!でも、これが始まりです。俺っちがジュニアで一番強いという事を決めたいと思います。まずは」


言葉が詰まる。帰っていた。あの奇術師が。ペイントこそしていないが間違いはない。奇術師は口で笑うと客席からゆっくり出ていった。
「まずは……まずは、帰ってきたらレイヴンズのジョーカー!!見ていたら、俺っちの挑戦を受けろぉ!!」
拍手がひときわ大きくなった。その中でただ一人冷静に、あの奇術師は出口で手を振っていた。IKKIはコーナーに上る。
拍手は大きくなる分、ひときわ小さくなるあの奇術師が、ジョーカーが強く印象に残った。


「いいのですか?リングに上がらなくて」
「いいデスよ。ワタクシ、ペイントもしてないしネ。それに」
「それに?」
「奇術師が、相手の挑発にのってはダメでしょう。こちらが面白くしないとネ」
専務の高杉まひろに引き留められたジョーカーは微笑んだ。
「それに高杉サン。ワタクシ、飛行機乗り継いできたのでお腹すいてるのデスよ。食堂って開いてます?」
「開いてますけど、他のレイヴンズの方に挨拶しなくていいのですか?」
「まずは、腹ごしらえから。今は店長のジャコカツが食べたいデスからネ」
それでは、というとタクシーを止めていたらしいジョーカーは去っていった。
相変わらず、雲をつかむような人。高杉はそう思った。
「あんのぉ、専務さん」
声がしたので横を見ると、三条がいつの間にかいた。
「はい、何ですか?」
「いやぁ、お客さんのお帰りが始まったので、ワシはどこ行ったらいいのかと思って」
「あぁ、そうですね。お見送りが本当はあるのですが、今回は三条君は控室で待機。私がヤマプロ選手や嬉野選手を寮まで送り届けるので、
 先輩方に従って、リングの片付けをしてください」
「わっかりました」
三条はふと、出口を見た。
「あれが、ジョーカー選手か。いつか……シシッ」
と、笑うと三条は高杉に頭を下げると控室に戻っていった。
ただでさえ多いのに、レイヴンズは変わり者が増えた。高杉は小さくため息をついた。

八坂 一真
「負けました。IKKI先輩は強かったです。でも、こんなんで俺の、俺たちの時代を作るために始まったばかりですので、ここから頑張ります」

三条 太一
「始めて上がって負けましたが、まぁ、今回はパクさんから一本とれたので。まだまだこっからですよ」

パク・カンヨル
「悔しいですね。一回戦で負け、後輩にも取られ……修業、しなおしてきます」

陣内 瞬
「……こっからっすよ」

チェ・ディバーノ
※ノーコメント


IKKI
「とりあえず、勝ちましたけど。まだ、出来立てホヤホヤの王者ですから。GWFのチャンピオンは凄いという事を、ベルトに価値があるという事をしっかりと見せたい。まずは、ジョーカー戦。それにまず勝ってから色々考えようと思います」

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