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ファイヤープロレスリングワールド GWF奮闘記 幕間:太田と藤戸の他団体移動の話

松山空港。愛媛の窓口であるここに二人のレスラーがいた。
「えぇと、俺は東京か」
「私は宮城県ですね」
太田天兵と藤戸初花はそれぞれ、スマートフォンを眺めながら、専務の高杉まひろが入力してくれたスケジュールを見ていた。
「あ、でも私大阪経由だ。迷わなきゃいいけどなぁ」
「そんなに飛行場で迷うか?」
「太田さんには分からないかもしれないけど、私は迷うのです」
「藤戸が特別なだけだと思うけどなぁ……」
「あ、それはひどい!」
藤戸はよく道に迷う事が多い。デビュー当初も青コーナー入場口にいるはずなのに、なぜか赤コーナー入場口にいた事がある。
その時は対戦相手の火神が気を利かせて、青コーナーから出てきたが赤コーナーイコール格上と思っていたお客さんはどよめいたものだった。
しかし、現実は甘くない。藤戸得意の空手仕込みの技を全て火神が受け切って必殺技のファイヤーボールボムで3カウントを取った。
「まぁ、河北プロレスさんに迎えに来てくれるように、専務がお願いしてたしあっちにいけば迷う事は無いだろ」
「そうですけど、太田さんは大丈夫なんですか」
「まぁ、勘で何とかなる」
「勘、ですか」
「そう、勘」
かくいう太田は必ずと言っていいほど道に迷う事なく時間前集合に来る。
もっとも、あまりに早いのでたまにコンビニで時間を潰していたという事もありまた、時間ギリギリに来る事もある。
チケット営業などに一緒に行く事がある営業の話によると、早すぎるので、時々困ることがあるらしい。もっとも、太田としては時間前行動というのは当たり前、そのように梶原や黒木に教育されたのでギリギリに来るのがよく分らないらしい。

「いいなぁ、太田さんは。そうやって道に迷う事ないのだから」
「まぁ、プロレスラーの仕事は戦って、勝って、いい試合をお客さんに見せる事だから。後、俺は強い相手と戦えるならそれでいい」
「プロレスリングガンジュさんの『鬼の手形』でしたっけ?いきなり琉球サーター・アンダギー選手とじゃないですか」
「強いからいいじゃない。それに次に勝ったら蒼羽選手か」
「因縁の城戸選手ですか」
太田は無言。だが、拳を握って微笑んだ。城戸とは道場マッチで大将の小暮を破ったが、太田自身は別の団体での試合で何度か戦い、勝った事もある。
「どちらが、勝っても面白い。城戸さんともまた戦いたいし、蒼羽選手とも戦いたい……もっとも、それにはアンダギー選手を倒さなきゃ」
「強いですねぇ。まぁ、私も第一試合でデビュー戦相手の子なんですが、何か強そうだしなぁ」
「しっかりしろよ、藤戸。火神さんにまたどやされるぞ」
「そうですよねぇ。よし、勝とう!勝ったらずんだ餅が私を待っている!」
「食べ物かよ……まぁ、俺も石川で何か食べたいしな。東京じゃ、時間なさそうだからそんなに食べられないと思うし」
「また、感想言って食堂の店長にレパートリー増やしてもらわなきゃいけませんしね!」
「その前に」
「えぇ、勝ちますとも!藤戸初花、勝ちに行ってきます!」
「勿論、俺も。9月のIKKI先輩のベルト戦に華を添えたいしね」
「それじゃ!」
「ん、お互いに行ってきます」

二人は、ハイタッチを交わすと、それぞれの飛行機へ乗り込んだ。


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