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ファイヤープロレスリングワールド GWF奮闘記 2-1 高杉まひろの感傷

「綺麗に分かれましたね」
「うむ。これで、お客様が集まれば御の字じゃな」
久松と専務の高杉まひろはお茶を飲みながら、自分たちで作っていたトーナメント表に満足をしていた。
「しかし、くじ引きの密を避けるためとは言え社長……このくじ引き私たちが作ったって怒られませんかね」
「仕方あるまい。トーナメントランダム表で適当に作ったらこうなった。としか言えんわい」
高杉はお茶を飲み干すと、新たに自分と久松のお茶を入れた。トーナメント表を改めて見ると、因縁深い相手ばかりになっている。
「いきなり、八坂君と三条君ですか。何か因縁深い相手ですね」
「うむ、八坂も三条も古流の使い手と聞いておる。マッスルから三条の紹介してもらった時は結構な年かと思ったが……」
「髭を剃ったら、好青年って感じでしたものね。IKKI君とあまり変わらない年だったとは……」


三条太一が現れた時は白髪に髭を生やした中年の男性かと思っていた。それが、東北の方言を早口でまくし立てるのだから、インパクトはある。
しかし、マッスルにたしなめられ髭を剃ると途端に若々しく見えた。ただ、白髪ばかりは本人曰く若白髪と言っているため染める気はないらしい。
「三条流か。聞いたことないのう」
「それを言ったら、会長が連れてきた八坂君の八坂流も聞いた事なかったですよ」
会長はどこからともなく、スカウトをしてきた。経営の腕はともかくとして、スカウトの眼は確かだった。八坂自身古武道の腕を磨きながら、
ここ最近では古武術にこだわらず、プロレスに対して真剣であろうとしている。
仲のいい太田がヘビー級に移ることで八坂と、陣内はさらにプロレスの表現が求められる事になるだろう。高杉はそう思った。


「それにしても、社長。招待選手がお二人というのは寂しい気がしませんか」
高杉が久松に聴くと久松は湯飲みのお茶を見ながら答えた。
「確かにな、会長ならもっと呼ぶじゃろうな。ワシの臆病さから来たものだと思ってくれ」
「臆病?」
「このトーナメントの優勝者にはGWFのジュニアヘビー級のベルトを賭けておる。ただ、いきなりそれがGWF以外の者がまくのは怖くてな。
 そして、昨今の流行りを考えるとあまり呼べなかった。かと言って、弱い者しか呼ばなかったというのはGWFの沽券にかかわるのでな。
 ギリギリのところを招待したわけじゃよ。そして、もう一つ」
「もう一つ、ですか」
「うむ。GWFの予算でそこまでの招待選手を呼びきれるかという事じゃ。そして、陣内もいずれかはヘビー級にいくじゃろうてそれを考えると
 三条以外にももっと選手の質量ともに増やさねばいかぬ。そうして初めてジュニアヘビー級のオープントーナメントを開こうかと考えておるわい」
「八坂君はヘビー級にいかないのですか」
「あ奴に一度聞いたのじゃが、これ以上体重を増やすと飛べなくなるらしい。じゃから、ジュニアヘビーのままでいつかヘビーを取る。と言っておったわい」
「そうですか……」
久松の湯飲みがいつの間にか空になっているのを見て、高杉はお茶を入れようとしたが、久松は手で制した。もういらないという事だろう。


「それにしても、社長。私も一つお聞きしたいのですが」
「何かね」
「そろそろ、レフェリー業をお辞めになる事は考えられませんか」
「レフェリー業を、か」
久松は窓から空を見た。目を細め青空に目をやっている。
「昔の血かのう。儂も格闘家のはしくれじゃったから、近くで見ていたいというのがあるのじゃがな。高杉さん」
「そうは申しましても、レフェリーでいつ巻き込まれるか分からないという事で事務方からすれば冷や冷やするものがあります。社長がレスラーに巻き込まれて倒れた。などでは業務も差し障りますし」
「そうじゃの」
「ご検討をお願いいたします」
「うむ」
久松は曖昧ながらもうなづいた。高杉は格闘技の事はあまり分からないが近くで見ていたいものなのだろうか。

「楽しいよ、プロレス。それを支える事も、見る事も」
そう言って自分の交渉・会計等の腕を買って採用してくれた会長は今どの辺りだろうか。南米と聞いたが、たまに入ってくる業務連絡でしか分からない。
彼女にふと、会いたくなった。


GWFジュニアヘビー級トーナメント
第一試合
八坂一真 対 三条太一

第二試合
IKKI 対 ファントム・ヤマプロ(ヤマプロ)

第三試合
パク・カンヨル 対 陣内瞬

メインイベント
チェ・ディバーノ 対 嬉野・スパイダーJr. (新がばいプロレス)

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