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ファイヤープロレスリングワールド GWF奮闘記 2-4 IKKI、オリジナルホールドを考える

夜遅く、食堂の厨房の中で一人IKKIは揚げ物をしていた。客席では、二人の男が話しているが何を言っているかは聞こえない。
否、聞こえない程に集中している。厨房の後ろでは、陣内瞬が卵を器用に片手で割り、鉄板の上で目玉焼きを作っていた。

食堂は本来、責任者がいない時は使えないが、GWFの選手が許可を得てたまに使う事がある。
もちろん、料理の具材は衛生上許可を得た上で持ちこまなければならない。
鍵は責任者の店長が近くに住んでいるので、締めた後必ず返しにいく。
また、山奥にあるためお酒はご法度である。しかもタクシーを呼ぶより寮に歩いて帰った方が早い。
そして、こうやってお客さんがいなくなった後、特別に夜食を作る事もある。

IKKIは食堂の店員たちに頼んでおいた、ダシに漬け込んでくれた鶏肉を揚げながら考えていた。
「オリジナルホールドって何なんだろうな」
「え?」
陣内がIKKIの唐突の言葉に反応する。
「いや、オリジナルホールドって何なんだろうなと思ってな。この人にはこの技ってのがあるじゃないか。それがふと気になっただけさ」
「成程」
陣内は曖昧に答えた。
「昔のレスラーで誰だったかな『小指の角度が違う』って言って、自分のオリジナルホールドに昇華した人いるだろ。俺っちたちも微妙な違いをつけては、オリジナルホールドにしているような気がしてな」
「オリジナルホールドって大事ですものね」
「そうそう。例えば今作ってるせんざんき、この鳥の料理だが」
ちらと、客席に座っている客。マスクマンであるファントム・ヤマプロと嬉野・スパイダーJr.を見た。
「こちら愛媛の今治ではせんざんき、新居浜ではざんき。ところが、ヤマプロ選手の地元北海道にはざんぎというのがある」
「微妙に違うんすか」
「いや、調べたらホント変わりがなかった。料理人だったら、もっと詳しく分るのかもしれないけど俺っちが調べたところ調理方法は同じに見えた」
「へぇ、で、オリジナルホールドで何かあったんすか」
「同じ料理なのに、別の名前、別のやり方。オリジナルホールドも何か料理に似たものがあるのかなって思ってな」
と、IKKIは揚げていったものをよせていった。
「それを言ったら、こういうのもあるんじゃないすか。元々あったものから作っていったものというのも」
陣内は少しこがした目玉焼きをチャーシューの肉がかかっている丼によそい、上からタレをかける。少し、タレが熱さではぜた。
「このタレだって、昔からの在り方を教えてもらったものだし、この焼豚玉子飯だってまかないだったって話もあるでしょ。甘いところもありますし、ちょっとづつ味わいが違うとこもある。伝統の技ってのありなんじゃないっすかね」
「そうだな。ありっちゃありだな……よし、お客さんに出すせんざんきと焼豚玉子飯はよしと。美味いといってくれればいいが」
「まぁ、せっかくの招待選手。ギャラは少ない分、ウチの温泉と飯ぐらいは美味いの食らってほしいっすね」
「もっとも、俺っちたちも食うけどな」
「そですね。じゃ、出しましょうか。あ、IKKIセンパイ」
「何だ?」
「八坂であろうが、センパイだろうが、決勝行ったら勝つのは俺ですからね」
「言ってろ」
笑みを浮かべると、IKKIたちは客席へと足を向けた。同時に自分なりの技を考えなければならない時が来ているのか、IKKIはそう思った。


GWF jr.ヘビー級トーナメント 準決勝 第一試合
八坂 一真 対 IKKI

GWF jr.ヘビー級トーナメント 準決勝 第二試合
陣内 瞬 対 嬉野・スパイダーjr.(新がばいプロレス)

セミファイナル タッグマッチ
ファントム・ヤマプロ(ヤマプロ) 三条 太一 対 パク・カンヨル チェ・ディバーノ

メインイベント GWF jr.ヘビー級トーナメント 決勝
第一試合 と 第二試合の勝者


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