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Too Hard To DIY  ~手すり付け、自分でやりたい皆様への挑戦状


手すりぐらい、自分でつけられるよ。とおっしゃる利用者さん、時々おります。大工さんや、職人さんだった方もご利用者さんにはいらっしゃいますし、しっかり腕はあるんだよ、という場合です。また、ご家族が大工さんだから、というケースもありますね。

そんなケースを想定して、介護保険制度にはちゃんと規定があるのです。

(4) 被保険者等自らが住宅改修を行った場合
被保険者が自ら住宅改修のための材料を購入し、本人又は家族等により住宅改修が行われる場合は、材料の購入費を住宅改修費の支給対象とするものである。この場合、施行規則第 75 条第1項第6号及び第 94 条第1項第6号の「住宅改修に要した費用に係る領収証」は、 材料を販売した者が発行したものとし、これに添付する工事費内訳書として、使用した材料の内訳を記載した書類を本人又は家族等が作成することとする。なお、この場合であっても、 必要となる書類に変更はないので留意されたい。

老企第42号 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000886999.pdf


なんと、材料費のみ支給対象とするよ、とのこと。

よっしゃ、嫁さんのために頑張るか、と腕を撫す方もいらっしゃると思います。仕事をリタイアしてからが本当の現役じゃ、というくらいにお元気な方もいらっしゃいますからね。何と言っても20万円しかない給付枠、自力施工なら沢山手すりが付けられますし。
で、ホームセンターに行って、既製品の手すりセットを買ってきて、取り付ける。

はい、この時点でアウトです。介護保険はビタ一文、出ません。残念。

じつは、2000年の介護保険制度がはじまってしばらくは、住宅改修費の支給って事後申請制だったんですよ。もう知る人も少なくなってきましたが。

なので、介護保険が始まった段階では、アリだったんです。このやり方。

でも、介護保険が使えます、という営業トークで適当な工事を行ったあとで、ケアマネに事後申請の際に必要な「住宅改修が必要な理由書」を書いてくれと頼みに行ったところ、そんな内容は無理です、となって誰も書けず、もしくは理由として保険者に認められず、結果として介護保険がおりないという悲劇が、その制度の帰結として量産されたとのこと。法の運用に性善説はやっぱり無理でしたね。

というわけで、介護保険が始まって5年後、住宅改修費の支給は事前申請制に改正されたのでした。トラブル抑止のために。

でも、上記の自力施工についての規程は、介護保険制度が始まって24年、変わっておりません。なので、かなり無理のある制度のままになってます。

それでもやってみたいのじゃ、というチャレンジャーな皆様のために、そのルートをお伝えしましょう。難易度HELLの世界にようこそ。



1,改修内容を決めます(図面も描きます)

なので、自力施工のために必要なこととして、工事費(この場合は材料費ですね)内訳書の代わりとなる、見積書を取る必要があります。これ、自力でまとめても良いことにはなってますが、たぶん大変。

でも、見積を取るには、まず何がどこに必要かを決めなきゃなりませんよね。なので、まずは手すりの位置を決めなくてはなりません。その場所にどんな材料が必要かを考えつつ、どこにどんな手すりが必要かを書きます。図面を求める保険者も多いですので、事前の画像と合わせて間取りのメモも取りましょう。下記ご参考まで。

この段階で、ケアマネさんに自力で工事をする意向を話しておいたほうが良いですね。もちろんドン引きされる可能性大です。でもここ、ドラクエで言うならドラキーが出てきたくらいの難易度なので、頑張っていただきたく。

2,見積依頼します

で、取り付け位置や本数などが決まったら、材料の見積書をつくります。
この記事を書くにあたって、地元市の介護保険課の担当者さんに尋ねたら、年間3000件近い住宅改修の申請のなかで、年1件あるかどうかとのことだったのですが、そのケースでは近隣のホームセンターが、しっかりした見積書をつくっていて驚いた、と仰っておりました。なので、介護保険を使うので内訳書になる見積書をつくってほしい、とサービスカウンターで依頼すると良いのかも知れません。

ちなみにネット通販という手もあります。ウチも一部の材料でお世話になっていらっしゃる販売店さん【(株)ケーシーサービス】では、こんなウェブページをつくっていらっしゃいました。ただ、今はもうDIYトライを積極的に売り込んではいないそうですが。

総額2万円以上であれば、内訳書発行に対応していらっしゃるようですね。ご参考まで。

3,理由書作成を依頼します

上記と並行して、ケアマネさんに「住宅改修が必要な理由書」の作成を依頼します。これ、自動車保険で言うところの、事故証明書と同等の代物です。これが保険給付の根拠になるので、責任重大なんですよ。なお、この段階で、今後は工事の内容の変更はできないと考えてください。
たとえば、手すりの向きをアドリブで縦から横にした、という場合、給付が受けられなくなったり、申請を出し直してくださいと言われるケースがでます。なぜなら、事前申請時の理由書内容と一致しなくなるからですね。

4,事前申請書をつくって、出します

さて、事前の申請書を作ります。ここで注意したいのは、保険者ごとに、住宅改修の事前申請書の様式が違います。なので、ご自分の自治体の介護保険担当課のウェブサイトからダウンロードするか、窓口で質問して書類を頂いてくるのが良いかと思います。その際に添付書類についても教えていただけるはずです。
申請書類の他に、手すりの設置位置の状況が分かる写真(さらにその部分の段差が改修理由であれば、その段差の大きさが分かる写真)や、1でつくった図面、2の内訳書(見積書)、3の理由書を揃えて、ようやく事前申請が出来るのです。介護保険担当課に持っていきましょう。
修正が入ってもめげちゃだめです。

5,通知が届きますので工事します

1週間から3週間後、確認しましたよ、この内容での工事は介護保険給付の対象にしますよ、という通知が届きます。
ようやく撫してきた腕を振るうときがやってきました。もう待ちくたびれてたらふく飲んでぶっ倒れているかも知れませんね。でも頑張りましょう。

このタイミングで、見積を頼んでいた材料を発注するのが確実です。フライングしてもいいですが、介護保険の対象として認められなかったら自腹になるので。速やかにやりましょう。

そして晴れて材料が届いたら、必ず領収書の保管をお忘れなく。そして、あくまでも申請内容に沿った形に、手すりを取り付けます。工事が終わったら、事前の申請に付けた画像と同じように設置後の写真を撮りましょう。

6,完了の申請書を出します

ようやくラスボスです。書類に給付分の振込先を記入し、工事後の写真と領収書を添えて、保険者によっては違う書類も添えて、窓口にお持ちください。疑義がなければ、これで2ヶ月後くらいに、自己負担分を差し引いた金額の材料費が、ご指定口座に振り込まれるはずです。

あ、ここでの条件として、申請名義の方が在宅であることが条件になります。入院中や施設入所中だと、事前申請が通っていても、完了申請を受け付けてもらえません。住宅改修費の支給は、あくまで介護保険における在宅サービスの一環なので。

長々と書きました、まことにもってかたじけない。
でも、これで申請書が出せました。ようやく、

クリアおめでとうございます!


うんざりするでしょ?でもこれ、我々の通常業務なんです・・・

ちょっとボヤキにも似た記事になりましたが、われわれは興味本位のところもありつつ常に勇者を募集しておりますので、ご興味のある方は是非ご相談いただければ。


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