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アイミツ、それはタダじゃないんだぜ ~合成の誤謬をつくる官僚感覚


介護保険による住宅改修業界という、建築土木業界においてはタカラダニほどに小さな業界が震撼したのも、もう6年ちかく前のことになるのか。

【介 護 保 険 最 新 情 報】
「居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について」の一部改正について  Vol.664
平成30年7月13日 厚生労働省老健局高齢者支援課

https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2018/0717110817560/ksvol664.pdf


この通達のおかげで、全ケアマネと地域包括職員が泣いたかもしれない。もしくは住宅改修超めんどくさい、という気持ちでやさぐれたかもしれない。

介護保険は、大まかに言ってそれにかかる費用の半分を保険料、残る半分を税金(さらにその半分を国庫、残りを県と市で折半)で賄う仕組みで作られた。なので、3年おきに実績値から自動的に今後の保険料が算定され、厳かに値上げが通知される。ちなみに65歳以上が第1号被保険者、40~64歳が第2号被保険者であり、それぞれ一人当たりの負担額がおなじになるように調整されているとのこと。

だが、それだけ保険料が上がっているということは、税負担分も上がっているということになる。来年度国家予算114兆円のうち、介護保険の国庫負担分は3兆3381億円。財務省さんは削れ削れと厚労省に対して圧力をかけるのが日常の風景となっております(なので今年度はいきなり福祉用具の4点杖やスロープなどに変更が)。

それの流れの中で出た話なのは重々承知なのですよ、今回の話。

介護保険の住宅改修における、相見積取得の促進。

また、第2号の「住宅改修に要する費用の見積もり」は、住宅改修費の支給 対象となる費用の見積もりであって、その内訳がわかるよう、改修内容、材料 費、施工費、諸経費等を適切に区分したもので、別紙2の様式を標準とする。 また、居宅介護サービス計画又は介護予防サービス計画(以下「居宅サービス計画等」という。)を作成する介護支援専門員及び地域包括支援センターの担当職員(以下「介護支援専門員等」という。)は、複数の住宅改修の事業者から見積もりを取るよう、利用者に対して説明することとする。

https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2018/0717110817560/ksvol664.pdf


良いことじゃないですか、とお思いの方もいらっしゃるかと思います。ビバ適正給付。

でも、介護保険の住宅改修、そもそも給付基準額の上限が20万円だし(それを何度でも分割して使える貯金式)、その利用者さんに個別の理由がないと(理由書という書面を作ります)たとえ手すりであっても給付されません。なので、相見積のご依頼で出かけていったところ、お見積額が2万円を切っている、ということもままあります。手すり1本で相見積もり?!。

さらに、介護保険の自己負担額は1割から3割(昨年の収入により決まる)、まだ1割が多数派のはずです。なので、工事完了の際の自己負担額を計算すると、その1割の2,000円弱という、そういうオーダーになります。
つまり、相見積の主目的である、金額の比較という点で考えた場合、両社の見積額の差が2,000円だったとしたら、実際に利用者さんが比較するのは200円という金額の差、ということになる。

そして、見積のために現地調査に我々は出かけます。おおよそ30分から1時間、自分の移動や見積作成も含めたら2時間くらいの時間が必要です。
自分、イッキュウケンチクシ持ちなんで、もし設計事務所で仕事をしていたら日当の基準はだいたい3万円ちょいのはず。とすると、時給4,000円計算なので、だいたい見積1回8,000円程度のコストが人件費だけで掛かるわけです。その半額としても4,000円。二人行ったら8,000円。妥当な線だと思います。


また、2社同時に調査をぶつけると現地が大変なことになるので、それぞれ別の時間に伺うと、同席するケアマネや地域包括の職員の時間もそれだけ食われていることになります。

要は、利用者さんの自己負担200円、介護保険料支出900円、税負担900円を削るのに、どこかで費用に転嫁される4,000円+ケアマネの経費が費やされている。
ほんとにそれで良いのでしょうかね。


もちろん、ケアマネさん手慣れた方になると、もお客さんにさっくりその説明はしつつも、こちらに特命でまずはご依頼いただけることも多々あり、ありがたくは思うのです。

でも、やっぱり手すり数本とわかっている内容で相見積をおすすめするのは、トータルコストで考えたら誰も得していない。誰かの相見積参加のコスト増分を新規の見積に乗せることになるから。

なので、この通達も、もう少しケアマネや地域包括の担当職員のしごとに幅をもたせたほうが、トータルコストは軽減できると思うのですよね。

仕舞いには、悩んだケアマネさんが無意味なアリバイ作りの当て馬の依頼をしている状況も、この調査を覗くと垣間見えたり。

介護保険の福祉用具貸与、特定福祉用具販売、住宅改修の 適正化に関する調査研究事業 報告書

P240
事業所票による、事業所における課題は、「申請書類の作成・準備に時間がかかる」が 60.6%と 最も多く、次いで「複数見積の提示対応のために、受注見込みのない見積書作成依頼がある」が 48.9%、「見積書を提出しても採用されないケースがある」が 38.3%だった(図表 287)。さら に、地域における課題として、「保険者ごとに申請書類が異なる」が 62.8%と最も多く、次いで 「保険者ごとに住宅改修に関する独自の運用ルール(助成制度等)がある」が 35.3%、「保険者 ごとに施工内容に制限がある」が 34.5%だった(図表 288)。

https://www.mri-ra.co.jp/upload/r5_tekiseika.pdf


賢いはずの官僚の皆さんが、なぜ人件費が無料だと思っているのかというのは永遠の謎なのですが、そのへんも踏まえて通達内容を調整していただけると、現場のムダな疲弊が防げて、微々たる加算とかより遥かに喜ばれたりすることもたくさんあると思います。介護保険関連のいろいろな書類仕事で。



おまけ

自分でもよくわかってない言葉をタイトルにするのはどうなのかと思いますが、これを機会にちゃんと言葉の意味も確認しようと思います。

そもそも誤謬って言葉が難しいでしょ?分かったようで分かってない言葉、調べてみる。

論理学における誤謬(ごびゅう、: fallacy[注 1])とは、誤った推論のことである

じゃ、合成の誤謬は?

合成の誤謬(ごうせいのごびゅう、: fallacy of composition)とは、ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロ(集計量)の世界では、必ずしも意図しない結果が生じることを指す経済学の用語[1]

お。今回の内容と、だいたい一致しているような。てか、ちょっと脳みそで考えればわかることを、官僚の皆さんにはむやみに実行しないでほしい、と心からお願いするところです。


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