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吾輩はフィクサーである ③


②からの続きで完結編。


~手すり付けの技術(室内編)


ようやく、浴室以外の室内につける手すりの話である。

これについては、とにかくどうやってビスの効く下地を見つけるか、がポイントになる。幸い、自分は設計図を書いていたり、木造RC造鉄骨造の現場監督として、墨出しをしたり職人を動かしていた人間なので、一通りの建物の作り方はわかっている。



はずであった。甘かった。奥が深い。

木造の住宅であれば、どこかに柱や間柱が立っているので、それを頑張って見つける。そのための道具はいわゆる壁裏センサーと、下地探し針であり、この仕事をする上で、その使用法の履修は必須である。

参考:壁裏の下地と下地センサー(シンワ測定)


で、枠組壁工法(いわゆる2×4)であれば柱に石膏ボードを直打ちしている。だから柱が曲がっていれば壁もそれなりに曲がっている。アメリケンはその辺鷹揚だからなのか、と思うけど、そうではなくてあれはボードがガッツリ構造体だから仕方ないのだ。
が、一昔前の日本の在来工法の大壁(筋交いなどで構造を補強している、柱を見せないつくり)だと、柱とボードの間に、えてして横に流す胴縁が入ることがある。壁を極力平らにするための、不陸調整用の材料なのだ(ちなみにこの仕様でも、基準倍率の半掛けの構造壁と計上できる。筋交いなどの分に加えて)。
そうすると、場所によっては柱に金具を留めようとしても、15ミリ程度の空間がネジを締めていく過程で凹んでいく。正攻法なら、その空間を潰した上で金具をつけるのだろうが、ボードを切ったりしても仕上がりも汚くなるし、お客さんもそんな事は求めていないと思う。
ということで、こちらとしてはピンポイントでそうなっている場合など、長くて丈夫なビスを、それぞれ向きを変えて柱に留めつけている。その際、電動ドリルのトルク制御に気をつけて、3本をバランス良くしっかり固定する。

たまにもともとボードが弱いなどで、その作戦が通じない時は、自らのつたない調査能力を呪いつつ、お見積にはない補強板を速やかに搬入して、下地にアンコ(建築系では間を埋めるスペーサーのことをそう呼びます)を入れて対処したりもする。なお補強板、使えばおおよそ強度的な問題はクリアできるのだが、お高いのが辛い。割れに強いけど、野球のバットと同じような樹種なのだ。


あと、下地となる柱を見つけるもう一つの実用的技術は、スイッチプレートを観察することである。スイッチのボックスはどこぞに固定してあるはずなので、そのどちら側かに何らかの柱がある可能性は高い。
といって油断するとボードにクリップ止めだったりすることもあり得るので、確信が持てないとき、自分は一応スイッチプレートを外して、その中がどうなってるかを確認する。なお感電リスクがあるので一般の皆様にお勧めはしない。


さらに、壁はえてして平らでない。補強板や手すりは基本的に直線なので、その歪みをいかに気付かれないように見せるか、にも気をつかう。
手すりはまだ壁から離れているからごまかしも効くのだが、補強板は壁にぴったりつくので「壁の凸凹を目立たせる板」になったりしてしまい、ちゃんとやったはずの仕事がだらしなく見えて、せつないのである。
正義感に溢れるキャラクターがこの世の闇をあぶり出す、みたいな話であるが、こちらもいい歳をした自称大人になったので、「そんな壁、修正してやる!」ということは考えず、その間を目立たなくするように、壁色のボンドコークを黙って隙間に充填するのであった。


また、柱や戸枠の角や面に取り付けができる、ちょっとプロ仕様ぽい特殊なタイプの金具もある。
角につける出隅系のやつは、壁角や木の枠なら取り付けられることになっているが、最近よくある枠材はMDFという木のチップを固めた材料を木目のオレフィンシートで包んだものである。
フェイク!と思うかもしれないが、最近の建材の殆どはこれである。

これはネジの効きが甘くネジ打ち施工してはいけない事になっているし、ユニットバスの枠にはプラスチックでポコポコのものもあるから、ここも油断してはいけない。
また、出隅系はビスのうちの何本かを長く太いものに取り替えて、その枠を貫通してその裏の柱まで固定するとしっかり感がマシマシになるので、お勧めである。



あと、施工が難儀なのは階段である。なんせだいたい斜めになるのだ、手すりが。
こちら手すりのプロを自称するだけはあり、階段の手すりは常に持ちやすい高さに、を信条としている。
要は、どの段に立った時でも、あまり変わらない位置に支持物があるようにしたいのだ。

ところが、階段では身体の横で手すりを持つ人は実は少なく、どちらかというと身体の前方をつかんで身体を引きあげたり、はたまたブレーキをかけながら移動している。
そうすると両方の動作でベストな高さが違ってくる。でもこちらは、どちらの条件でも問題なく使える位置につけたいのだ。

なので、まず施工する前に水糸を張り、手すりをつけたい仮の高さに墨出しをして、利用者さんの動作を確認した上で位置を確定させている。
昇りか降り、片側だけでチェックすると、逆向きが使いにくくなりがちであるので、そのプロセスは外さないようにしている。


そして、いざ施工になるときに、ちゃんと下地があるかがやっぱり問題になる。
段差に沿って手すりをつけようとすると、折り返しの部分などで、どうしても継ぎ手が必要になるが、そこをがっちり固定できるものが少ない。

そして、補強板を使うにも、段の途中で角度が変わるので、思うようにしっかりとは固定できないのだ。歩留まりも悪いので見積にもよろしくない。また入隅も油断すると先端が食い違った、いすかになったりしてこれも格好が悪い。

ちなみにいすかとはこんなの(鳥)。建築用語のいすかは、先端が互い違いになって閉まらない、いすかという鳥のくちばしからきた例えだと思ってたら、もともといすか(交喙)はねじれて噛み合わないという古語だそうで、鶏より卵が先だったという豆知識をいま得た。

というわけで、自分はそのための金具の選び方を工夫して、階段は極力補強版を使わずに手すりをつけるようにしている。その結果、とっても面倒な補強板の角度合わせ手間も減るので、施工も半日で終わる。
この方法を見出したことで、室内階段については我が社、そこそこお安くできるようになったのではないかと思う。


そして、このようなプロセスをたどって付けた手すりに、刻印を打刻するかのように、若かりし頃の25 %増しの、我が全体重をかけて最終検査を行い、ぐらぐらしないことを確認し、ようやくお客様にお引き渡しとなる。

以上、加齢により体重が増えても役に立つこともあるのだという話であった(違います)。

一見簡単そうに思える、固定に費やすここまでのコスト、どうかお客様にはご理解いただきたい、という言い訳を込めて、エイプリルフールに真面目なひとりごとを置いておく。

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