第3回目の参考図書のご紹介は、ドリュー ボイド・ジェイコブ ゴールデンバーグ『インサイドボックス 究極の創造的思考法』(文藝春秋、2014年) 2016年

参考図書の紹介記事から

あるところで、研修のための参考図書の紹介を書いていました。その時の紹介記事を再掲していきます。

第3回目の参考図書のご紹介は、
ドリュー ボイド・ジェイコブ ゴールデンバーグ『インサイドボックス 究極の創造的思考法』(文藝春秋、2014年)

独創的、革新的なアイデアを生み出すためには、アウトサイドボックス(枠の外)で考えなくてはならないというのが大方の理解でしょう。しかし著者は、この考え方に真っ向から反論し、以下のように結論付けます。

私たちの考えはその正反対だ。イノベーションの数を増やし、その質とスピードを高めるためには、一定のヒナ型にのっとって、勝手知った世界の内側で──つまり枠の外ではなく<枠の中(インサイドボックス)>、すなわち制約の中で──考えるべきだと、私たちは思っている。

本書の目次構成は以下のようになっています。

序章 創造性は誰もが習得できる技能だ
第1章 イノベーションは制約の中にこそ潜んでいる
第2章 引き算のテクニック
第3章 分割のテクニック
第4章 掛け算のテクニック
第5章 一石二鳥のテクニック
第6章 関数のテクニック
第7章 矛盾を見いだせ
第8章 人類の思考パターンを活用して変革を起こせ

インサイドボックス思考法とは、以下のものです。

・引き算のテクニック:製品やサービスに欠かせないとみなされている要素を取り除いてみる
・分割のテクニック:既存の構成要素を分割し、一部を分離してみる
・掛け算のテクニック:製品やサービスの一部をコピーして増量し、そこにこれまでと思われていたような変更を加える
・一石二鳥のテクニック:製品やサービスの一部の要素を複数の機能をもたせてみる
・関数のテクニック:それまで無関係と思われていた要素を連動させてみる

革新的な製品やサービスは、なんらかの要素を取り除くことによって生まれるという考え方が展開されています。一例として、著者はソニーの「ウォークマン」を挙げています。

本書には、以下のように詳しく経緯が書かれています。

1979年にソニーが発売した大ヒット商品「ウォークマン」も、カセットレコーダーから生まれた製品だった。このイノベーションは、引き算のテクニックによって実現したと位置づけることができる。発端は、トップのひとことだった。ソニーの共同創業者である井深大は、長時間の飛行機の旅で音楽を楽しむのに適した携帯型の機器をつくってほしいと、自社の研究開発チームに指示した。当時のソニーのカセットレコーダーは、飛行機の中で聴くには大きすぎたのだ。エンジニアたちは小型化を実現するために、それまでのカセットレコーダーからスピーカーと録音機能を取り除いた。スピーカーの機能はヘッドフォンで代替させたが、録音機能をなにかに代替させることはしなかった。その機能は、完全に取り除かれたのだ。

こうして開発されたウォークマンが、爆発的なヒット商品になったのは、ご存知の通りです。

分割のテクニックを使った例も、興味深いです。分割のテクニックとは、既存の構成要素を分割し、一部を分離してみることで制約をつくり、そこから発想するというものです。

著者がゼネラル・エレクトリック(GE)社に招かれて話をした時のことです。著者は、話を懐疑的に聴いていた社員たちに対して、実際にこの方法を試してみることにしました。GEで扱っている商品を一つ選び、分割のテクニックを使って新しい商品を考えてみるというものです。社員たちが選んだのは、冷蔵庫でした。冷蔵庫の市場は完全に成熟しきっており、市場はほとんど成長しておらず、イノベーションは長らく起きていませんでした。

そこで著者は冷蔵庫の構成要素を挙げるように求め、分割のテクニックを使いたいので、どれか一つの要素を選んでほしいと言いました。すると、一人の男性が選んだのが、コンプレッサーでした。セミナーの参加者からは、どっと笑いが起きました。冷蔵庫からコンプレッサーを取り除いてしまうと、もはや冷蔵庫ではなくなってしまうからです。

ここから話し合いが始まり、アイデアを考えていきました。

「コンプレッサーを家の外に置くことで、冷蔵庫をいくつもの小さな冷蔵ボックスに分解し、それをキッチンのさまざまな場所に配置できるのでは」という意見が出ます。

「たとえば卵を冷蔵するために、冷蔵引き出しのようなものもつくれますね」

「野菜ボックスや、飲み物を取り出しやすい飲料ボックスもつくれるかもしれません」、「冷蔵システムを軸に、キッチン全体をカスタマイズすることもできそうです」

さまざまなアイデアが飛び交いました。

それから数年後、冷蔵庫の本体から分離させた「冷蔵引き出し」を備えたキッチンが市場に登場しました。GEが「ホットポイント」ブランドから発売した商品もその一つです。

私たちが解決策を考えたり、アイデアを発想する際には、実際には様々な制約が付きまといます。時間の制約、人の制約、お金の制約など、制約だらけかもしれません。特に自治体の仕事は、法律的な制約、地域の制約、仕事の制約など、枚挙にいとまがありません。

制約があるから仕方がない、制約があるから諦めるということをせず、逆に制約を味方に付けます。あえて制約をつくり、制約の中からアイデアを考えてみます。すると、思いもよらないアイデアが生まれることがあります。

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