第10回目の参考図書のご紹介は、P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神』(ダイヤモンド社、2007年) 2017年

参考図書の紹介記事から

あるところで、研修のための参考図書の紹介を書いていました。その時の紹介記事を再掲していきます。

第10回目の参考図書のご紹介は、
P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神』(ダイヤモンド社、2007年)

イノベーションを、誰でも学ぶことができ、実行することができるものであることを明らかにした、世界最初の方法論を明記した書籍です。イノベーションについては現在まで様々な書籍で述べられていますが、それらのうち主要なものは全て本書で述べられているといいます。

イノベーションとは何か、イノベーションとマネジメントの関係、イノベーションをいかにマネジメントすべきかなどを、体系的に著しています。また、本書で提示されているイノベーションの手法が成功するための前提条件や制約なども提示されており、市場や顧客、自組織の状況に応じてイノベーション手法を使い分けるべきとしているところも特徴的です。

本書の目次構成は以下のようになっています。

第1部 イノベーションの方法
イノベーションと企業家精神
イノベーションのための七つの機会
予期せぬ成功と失敗を利用する―第一の機会 ほか
第2部 企業家精神
企業家としてのマネジメント
既存企業における企業家精神
公的機関における企業家精神 ほか
第3部 企業家戦略
総力戦略
ゲリラ戦略
ニッチ戦略 ほか

本書で提唱しているイノベーションの機会は以下の7つです。

第一の機会:予期せぬ成功と失敗を利用する
第二の機会:ギャップを探す
第三の機会:ニーズを見つける
第四の機会:産業構造の変化を知る
第五の機会:人口構造の変化に着目する
第六の機会:認識の変化をとらえる
第七の機会:新しい知識を活用する

各機会の原理原則、考え方のポイントが解説されており、事例ともに実証的に説明されています。ドラッカーの書籍が分かりやすい所以です。

ドラッカーは、企業にイノベーションが必要であると同時に、公的機関もイノベーションは必要であると説きます。「第14章 公的機関における企業家精神」には、「イノベーションを行えない理由」、「公的機関の企業家原理」、「既存の公的機関におけるイノベーションの必要性」についてページを割き、その必要性から困難性、方法論まで詳しく述べています。

本章は、公的機関も企業と同様に企業家としてイノベーションを行わなければならない、むしろ企業家以上に企業家的であることが必要である、と始まっています。公的機関にとって、現代のような社会、技術、経済の急激な変化は、企業以上に脅威であり機会でもあるからです。

しかし公的機関では、既存の事業がイノベーションの障害となりやすいのも事実です。公的機関がイノベーションを行う際の障害となるものを3点に渡って分析していきます。

第一に、公的機関は成果ではなく予算に基づいて活動する。
公的機関の成果は業績ではなく、獲得した予算によって評価されることが多いといいます。ですから事業廃止などにより活動の一部を切り捨てることは、自らの縮小を意味します。

第二に、公的機関は非常に多くの利害関係者によって左右される。
活動の成果が収入の原資になっていないため、あらゆる種類の関係者が拒否権を持ちます。つまり、あらゆる人たちを満足させなければならないということです。事業を開始した瞬間から、廃止や修正を拒否する関係者を抱えることになります。

第三に、公的機関は善を行うために存在する。
これが最も大きな障害であるといいます。自らの使命を道義的に絶対としており、自らの事業を費用対効果の対象とはみなさないということです。

公的機関がイノベーションを行ううえで必要とする企業家原理は、次の3つあると、ドラッカーは続けて述べます。

第一に、公的機関は明確な目的を持たなければならない。
個々のプロジェクトは目的のための手段です。公的機関の場合、手段の目的化が多く見られます。手段ではなく、目的に的を絞らなければなりません。

第二に、実現可能な目標を持たなければならない。
実現可能な目標が必要です。公的機関の目標は、得てして、実現不可能な目標を掲げているのを多く見ます。目標は「空腹の根絶」ではなく、「飢餓の減少」とすべきです。目的と目標を混同することのないようにします。

第三に、目標が間違っている可能性も認めなければならない。
いつになっても目標を達成することができなければ、目標そのものが間違っていたか、目標の定義の仕方が間違っていた可能性のあることを認めなければなりません。目標を達成できないからといって、さらに努力すべき理由としてはなりません。間違った目標のもとに仕事をすることほど、組織や職員を疲弊させるものはありません。

ドラッカーを初めて読むという方には、『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』の方が読みやすいでしょう。エッセンスは十分に伝わります。

いきなりドラッカーはハードルが高いと思われる方には、岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「イノベーションと企業家精神」を読んだら』(ダイヤモンド社、2015年)をお勧めします。こちらをお読みになっていから、エッセンシャル版をお読みになると、より理解が進むでしょう。

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