見出し画像

自己紹介のようなもの(3)-青井忠四郎氏との出会い-

(前回の続き)

人には自分を支えてくれる人物がそれぞれにいて、また奮い立たせながら人生の旅のレールに戻っていくのだと思います。
私にとってそんな人物に"青井忠四郎"さんという存在があります。彼がもう一人の巨人です。

チャールズって誰?

出会いは博報堂在任中、会社独立前に遡ります。
当時、私は某企業との香料に関するプロジェクトに携わっており、その一環としての英国出張で通訳を依頼したイギリス人・マークと仲良くなったことから始まります。

「日本にはチャールズという偉大な人物がいるから、黒木に紹介したい」と彼は言いました。「チャールズという日本人なんて全く聞いたことない」と内心思っていた私ですが、帰国して早々に西麻布「キャンティ」で、チャールズご夫妻とマーク、私で会食する機会に恵まれたのです。

このチャールズなる人物は、お顔を見ても生粋の日本人。本人曰く、
「忠四郎:チュウシロウは、イギリス人には、呼びずらい(発音しにくい)から、チャールズと呼ばれているんだ」とのこと。
なるほど...だから「チャールズ」と。それでは知らないはずです。

「君は、何者だ。何を志しているか?」

さて、この会食。席に着いて早々に青井さんに切り出されたのは、
「君は、何者だ。何を志しているか?」であったと記憶しています。
いきなりの問いかけに、緊張しながら伝えたのは次のようなことでした。

「博報堂のマーケティング部に所属しています。私が得意なのは、商品開発で、某入浴剤メーカーの新製品開発および導入プロジェクトに参画しています。またそれ以外でも、某カメラメーカーの新製品開発にも携わりました。
私は商品開発をしながら顧客に新しい価値を提案していくことにモチベーションがあり、まずは"風呂と映像"で日本を楽しくするのが夢です。」

考えてみれば、お伝えできた言葉は恥ずかしい限りの内容であったと思います。しかしながら、多分私の話し方や話す勢い、熱意が伝わったのではないでしょうか。青井さんは、大変気にいってくださったようで1週間後にご自宅に呼んでいだいたのです。
そしてそこから、さまざまな方をご紹介いただくこととなります。

人生の師との時間

あれから、なんと30年間というお付き合いとなりました。
毎月一回くらいのペースで、様々な場所に食事に連れて行ってくださり、二人で話す機会を得ました。世間話に始まり、今考えていること、青井さんの好きなサッカーの話題、さらには、海外で自分で体験した話などありとあらゆる話題を心置きなく話しました。

そんな中でずいぶんと、お酒の飲み方、礼儀作法、他人の見方とそれへの処し方を指南していただきました。それは大学でも社会人になってからも、誰からも教わることのなかった内容で「生き方」のようなものでだったと思います。

こうして振り返りながら、何故これほど長くかつ濃密に人生の師といっても過言ではない青井さんとお付き合いできているのかについて自問してみました。
考えた結果、お会いする度に私は"毎回新しい気持ちで真剣に話しすことができたから"ではないかと思います。自分を素直にする。きっと青井さんのお人柄と心遣いで、私の心を解放させて頂いたからだと今だと理解することができます。
本当にありがたいことです。

「この四つ角で最も地価が高いのは、どこだ?」

彼のスタンスを象徴するエピソードがあります。
今日はどこのお店に行くのだろう、と一緒に歩きながらふと四つ角に来ると、青井さんは必ず私にこう尋ねるのです。
「黒木、この四つ角で最も地価が高いのは、どこだ。その理由を述べよ」
その回答が、青井さんの納得いくものでしたら、その後は笑顔で上手い酒になる。外れたら、修行が足らんと機嫌が悪くなる。
ものの見方、しかも自分なりの回答で、かつ面白くなければ、納得しないのが"青井忠四郎"という人なのだと思います。

こうして考えてみると、現在私が行っている「センスメイキング理論」実践の礎は、青井さんの存在によって築かれていったのかもしれません。
私は、これからも彼と過ごさせてもらう時間の中で、彼が納得いく回答と面白さを提供できるでしょうか。次回試される瞬間を楽しみにさえしている自分がここにいます。まるで30年前の若かりしき自分のままで。

(続)