見出し画像

マーケティングの真髄はオーケストレーション~特別対談:立教大学佐々木先生~その2

#センスメイキング #マーケッター #レナード・スラットキン #エスノグラフィー #アブダクション #オーケストレーション

●前回は、センスメイキングの理論編的なお話を野中先生のSECIモデルやコンテンジェンシーモデルなども引き合いにして話してきました。
今回は、実践編的なお話を引き続き佐々木先生との対談としてお送りします。

4.センスメイキング理論を超えた独自思考法へ・・・オリジナル思考法を模索して/目的の共有化がキーポイント。


(佐々木)
ここまで、理論面を中心にお話をお伺いしてきました。ここから、実践面に話を切り替えたいと思います。私は、黒木さんがセンスメイキング理論をベースにして、独自メソッドを開発され、企業にご提供なさっておられると考えています。

(黒木)
そんな所までは、まだまだです。(笑)

(佐々木)
先日参加させていただいたセンスメイキングのワークショップでは、なるほどこういう風に実践するのかみたいな、目から鱗のような部分もありました。やはり百聞は一見にしかず、ですね(笑)。

 多くの人は、私と同じ疑問を持つと思います。本やセミナーでセンスメイキング理論が分かっても、さてどうやって具体的に実践するんだろう。そこまでは、なかなか落とし込めない。その辺のところについて具体的にご説明いただきましたら、ありがたいです。

(黒木)
了解致しました。様々な方からよく聞かれます。
今日は触りをお話しさせていただきます。

①    まず、序章なんですが、自分ゴトで考える、右脳から考えるいうコーヒーブレイク準備体操のような頭の体操をやりますね。
自分を解き放つような自由発想の場づくりをします。
この時、V T S(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)、ヴィジュアルスケッチなどで、手を使って表現すること、それを他人に説明する作業をします。

②目的を創出する作業をします。
1)この時、自分がやりたいこと、個人としての自己実現を設定していただきます。
2)さらに、大目的として、未来はどのようになって欲しいという本質的というか社会的価値を内包するものを個別に設定してもらいます。
1)と2)の間に今こそやらなければならないという中目的を創出します。
この目的を創出する作業が極めて大切ですが、センスメイキング理論の中には、その様なプロセスはないです。日本の企業は、目標値があっても、目的がないという企業が多いです。
この時に、自分の存在ってどういう意味があるのかを考えていただくわけです。

プロジェクトメンバーの数は、通常は、15から20名がよいです。ワンチームが、3〜4名が、対話が成立しやすいです。
対話は,ディベートとは異なり、異なる価値観を持った方と、違いの価値観をすり合わせて,自分も変わることを潔くよしとすることになります。いわゆる弁証法です。

参照)弁証法
哲学において,事物の本質を理解する為の思考法。
現在は,対立または、矛盾する二つの事柄を統合して,高い次元の結論に至るという,ドイツ哲学者ヘーゲルの主張を表すことが多いが、元来は、古代ギリシャの哲学者エレアやプラトンの問答集や対話術を意味する。

「三酔人経綸問答」中江兆民 NHK100分de名著 2023年12月より

プロジェクトチームの中で各チームが、それぞれのチームごとで話しながら、相手チームの良いところを捉えて、進むことが、よい結果を生んだいく傾向があります。
このやらなければいけない目的(=中目的)を決めたら、

3)目的別にチームを3から4チームに分けて、徹底的に仮説を作る作業に入ります。これが相互主観を見出すまで、対面で【対話する作業】になります。部署も関係なく、ダイバーシティで論議する作業です。
この対話を組織内でやってこなかったケースが多いですね。

これはかなり大変な作業です。ファシリテーションをしていて毎回この作業で難儀します。
・目的を作らなかった。
・自らの思いを口頭で話さなかった。
・所謂【対話】をしなかった。

4)チーム別目的に合わせて、それを成し遂げる仮説を生成します。
これを【アブダクション】といい、観察を重視しています。
演繹的推論や帰納的推論などは、論証中心になると創造性を見込めなくなるのを防ぐ為に、シャーロックホームズのような観察による推論、五感による記憶や思いを見出すことです。
これは、冒頭説明しました、主体と客体との一体化に繋がります。

5)(ここでは、)フィールドワーク作業として、エスノグラフィーを使うことになります。

6)今はこのエスノグラフィーの様子は、オンラインで同時に配信されて、全員でダウンロードミーティングをして、全員で共感できるまで、対話する場を作ります。

7)このあとにプロトタイピング作業をします。
プロトタイピングには具体的にデザインする作業もありますが、ストーリーメイキング作業により物語にすることが極めて有効な作業になっています。
所謂、相手に思いを伝える方法を考える、かたちにする作業です。


(佐々木)
ご説明の中で【目的を共有化すること】が、センスメイキングそのものだと感じます。
カールワイクは、センスメイキングには7つの特性(properties)があると指摘しています。


Sense making is understood as a process that is (センスメイキングは、次のようなプロセスと理解される)
1.Grouded in identity construction(アイデンティティの構築に根差した)
2.Retrospective(回想的)
3.Enactive of sensitive environment(敏感で繊細な環境を行動を通じて創り出す=イナクトメント)
4.Social(社会的)
5.Ongoing(現在進行の)
6.Focused on and by extracted cues(抽出された手がかりに焦点を当てた)
7.Driven by plausibility rather than accuracy(正確性よりも納得性によって駆動される)

Karl Edward Weick (1995) Sensemaking in Organizations, SAGE Publication


黒木さんのプロセスで面白いなと思ったのは、まず説得性とか納得性をチームの中に作っしまうところです。先にチーム全員が共感し、納得する場を作ってしまう。

次に、チームに分けて、それぞれが物語を作り出していく。その際、アブダクションの考えを取り入れて仮説生成を行い、新しい世界を作るというところがセンスメイキングらしいところだと思います。また、ダウンロードミーティングは、主体と客体とが一体になって新しいものを生み出すようなイメージを持ちました。

参加させていただいたセンスメイキングプロジェクトでも、参加者間の組織の壁を取り払って、ストーリーメイキングしていく印象でした。そこがポイントと考えてよろしいでしょうか。


(黒木)
その通りです。組織は新しい関係性にコミットメントしていくわけですね。

(佐々木)
センスメイキングの理論を元に、黒木さんの深いご経験と考えを取り入れながらメソッドを完成させてこられたということだと感じ入っております。

(黒木)
そのように言われると大変ありがたいです。

(佐々木)
クロキメソッドですね!
それでは、これまでの成果というかご実績についてお聞かせください。


(黒木)
商品開発作業になるケースが多くあります。
トイレタリーメーカーや、食品メーカー,家電などの新製品開発を数多くして参りました。
また、金融では、未来の企業の在り方を示しながら新しい組織を作りながら、従来商品開発の基軸をかえることに成功しました。

(佐々木)
新商品開発や組織変革など、さまざまな分野でご実績を積み重ねてこられ、いずれも新しい基軸を作ったという点でイノベーションを引き起こすことになるのですね。


5.更なる進化形の模索 ・・【時代のオーケストレーション】へ


(佐々木)
最後になりますが、今後どのようにクロキメソッドを進化させていこうとお考えでしょうか。

(黒木)
ちょっと話が外れるかもしれませんが、レナード・スラットキン(Leonard Slatkin)というアメリカ出身の世界的指揮者がいます。様々なオーケストラの指揮をする時に、「スタイルを調整することはあっても、音を調整することはしない」と言っていました。

つまり我々マーケッターは、それぞれの企業が培ってきたノウハウがあり、新しい考え方、思考法、スタイルを調整していくのが最も有効ではないかと考えています。

(佐々木)
実は、私もクラシックファンなんです。
黒木さんが指揮者で、楽譜としてのメソッドがあって、様々なオーケストラはクライアントにあたると考えればいいかもしれませんね。相手先の企業や業界を見て、相手に柔軟に合わせて1番最適な形をその場その場でカスタマイズして素晴らしい音を紡ぎ出していく。それが黒木さんのお立場だという感じでしょうか。

(黒木)
私はそんな指揮者などという高尚な人間ではありませんが、ファシリテーションしながら、まさに先生が今ご説明いただきましたような意識で考えております。
ありがとうございます。

(佐々木)
理論に止まらず、黒木さんがセンスメイキングの実践者になってクライアント企業に、サービスを提供していくということですね。
すばらしいお話をありがとうございました。

(黒木)
こちらこそ、貴重なお時間いただきありがとうございました。


【最後にまとめとして】


 今回、佐々木先生から質問形式で、何故今センスメイキングが必要になっているかに、回答する形式で,noteが作成されました。
今までnoteで73回も話した内容がまとまった形となりました。
対談を終えて、組織心理学のカールワイク先生のセンスメイキング理論を現在日本の企業の現場で長年実施してみると、様々なマーケティングのノウハウが必要なこと、中でもフッサールの現象学や野中郁次郎先生の知識創造理論SECIモデル、さらにアブダクション活用する為の文化人類学で活用されるエスノグラフィーが、重要な役割であったことを再認識しました。
これを全てストーリーのように導入すると15から17の工程が必要になります。

提供:センスメイキング・アソシエイツ

初めて実施した時からは,かなりの進化形に発展してきました。
現在まで,15社に対してセンスメイキングを実施しながら、毎回実施するたびに、ブラッシュアップできて今に至ったいます。

そのことを考えると、一緒にセンスメイキング理論をベースにプロジェクトを実施しながら切磋琢磨していただいたクライアントの皆さまに感謝の気持ちでいっぱいです。

今回、佐々木先生には、対談に際してカールワイクの原文にまであたっていただき、かつ私どものセンスメイキング現場にまで足を運んでいただき、今回のnote作成ができました。深くお礼申し上げます。

対談の最後に世界的指揮者レナード・すトラッキンの言葉を紹介しました。「スタイルを調整しようとすることはあっても,音を調整することはない」この言葉は、私自身が、クライアントの皆さまに、新しい基軸発見の為に、マーケッターとして向かう気持ちであります。

今回も2回にわたる長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございした。