ぼくは世界からきらわれてしまいたい #42
その後、ぼくはひとつの夢を見続けた。
血と肉壁の圧し潰してくるイメージ――どす黒く古い血液と、鮮血とが入り混じって、無数の渦状の模様を浮かべるゼラチン質の洞窟のなかを、裸足のぼくが、拒絶とも受容ともつかないグニャリとした崩落と反動の感触を踏みしめながら、出口を求めてさまよう、そういう夢だった。
幾度となくぼくは確信をもって出口に進んだ、けれどもそのたび、ぼくの行く先の肉壁は狭められ閉ざされてしまうのだった。ぼくはわずかな隙間から脱出しようとした。
こじ開けるたび壁は、溶け崩れるようにしてぼくの行く先を塞ぎ、それでも進もうとするぼくの身体を、そのうちすっぽり埋めてしまっていた。すると壁は、それまで考えられなかった圧力でぼくの身体を締めつけてくるのだ。
絶望したモグラのようにぼくは上下のわからぬまま進んだ。長い苦闘のあと、ぼくは壁からひり出され、海へと墜落したのだった。
海から頭を出すとまた、無数の∩……あの、目玉をもった尻の大群に、ぼくは取り囲まれていた。その目線に、憐みの色が宿っているのを感じた途端、ぼくはぼくから放り出されて、海に浮かぶぼくを上から眺めていた。
一見してそれはぼくではなかった。海から頭を出しているのは赤ん坊で、しかもその頭部は全体が爛れたように輪郭を曖昧にし、数時間にわたり殴られ続けたみたいに腫れあがっていた。
ぼくはなすすべもないまま、赤ん坊に尻が群がっていき、それぞれの尻が中央の性器を口のようにして赤ん坊を捕食していく様を眺めていた。尻たちはみな涙を流していた。
それから、生焼けの魚を食わされたように苦い顔をして、肛門から濁った黄緑色の糞を海へと排出して、海の底へと去っていった。海に浮かぶ糞が、なにかの記号を作りはしないかと、ぼくはじっと待ち続けているのだった。
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