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前略

もうだいぶ暑くなってきましたね。
最後にあなたのお顔を見たのは、
今日のような暑さの日でした。

あれからもう何年も経ちました。
赤ん坊だったあの子もすっかり大きくなりました。

あの子は、時折空を見上げることがあります。
空には、大きな入道雲だけが浮かんでいました。
あの子は雲の流れていく様子をずっと見続けて、
不意に
「お父さん、あそこにいるの?」
と尋ねてきたことがありました。

あの子の中では、
あなたはずっとずっと大きな存在のようです。

最後にあなたが私にかけて下さった言葉は、
「世話になった。ありがとう」
でした。

私は大したことは何もしていませんよ。
ただ、あなたのお力になりたいと、
おそばにいただけです。

家をお出になった時に、
一度だけこちらを振り向いて、
何かおっしゃっていましたね。

それが何かをあなたの声で知ることができないのが、
とても残念です。

ただ、あなたを笑顔で見送ることができたことを、
褒めてください。

あの子が私を呼んでおります。
きっとまた空を見上げながら、呼んでいることでしょう。

あなたが最後にかけてくれた言葉。
本当はわかっておりますよ。

思い出しては、嬉しさでいっぱいになります。

恥ずかしがり屋のあなたですから、
きっと私を前には言えなかったのでしょう。

あの言葉を胸に抱きながら、
私はあの子を守って参ります。

「あいしている」

私もですよ。

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