「好奇心が原動力」ALEの岡島礼奈さんに聞いた「偏愛のつくり方」【よなよなビアファンド】
2021年4月に始まった、笑顔を生み出す多様性人材”よなよな人(びと)”へのビール投資プログラム「よなよなビアファンド」。「出る杭に心打たれる」をキャッチコピーに、様々な分野で活躍する人をよなよなエールで支援する取り組みです。
よなよな人に共通しているのは、自分がやりたいと思ったことを探求する「知性」と、それに情熱を傾ける「偏愛」を持っていること。日常生活を送る中で、見失ってしまうこともある「偏愛」ですが、よなよな人達はどうやってそれを持ち続けてきたのでしょうか。
今回は、よなよな人第一号の株式会社ALEの岡島礼奈さんに「偏愛のつくりかた」についてお話を伺いました。
<聞き手=ヤッホーブルーイング・よなよな編集部スタッフ>
「偏愛」のきっかけは一冊の本
ー2011年に株式会社ALEを立ち上げられた岡島さんですが、一番最初に「宇宙」に興味をもったきっかけはなんだったのでしょうか。
中学生の頃に読んだスティーブン・W・ホーキングの『ホーキング、宇宙を語る』がきっかけです。「ブラックホールや宇宙の仕組みってこうだったんだよ……」というような内容だったのですが、これが全く理解できなくて(笑)。自分の認知を超えたものがあることが衝撃的だったんです。それから、科学や物理学に惹かれていきました。
地元鳥取で 小学生の頃の岡島さん
ーそれがきっかけで、その後の進路にも影響してくるんですね。
高校生の時には「宇宙物理学者になりたい」と思ってましたね。ちょうどその時、広中平祐先生が始めたNPO法人「数理の翼」の夏季セミナーに出席したんですが、そこで自分と同じように宇宙や数学に興味のある子たちと出会ったんです。初めて価値観の合う同年代の人に出会えたなという感覚で、とても楽しくて。本格的に宇宙について勉強がしたいと思って、東京大学に進学しました。
ー大学進学後は、どんな学生生活を送っていたんですか?
大学に入ってみると、周りは自分よりも頭の良い人ばかりでした。地元の鳥取にいたときには「ちょっと頭の良い方」だと思っていたんですが、東京に来たら「全然出来ない方」になってしまって……。勉強や研究以外で、何か自分の強みを見つけなければ生き残れない世界だと思いました。ただ、自分に何が合っているのか、自分の強みが何なのかが分からず迷走していた時期がありましたね。
学生起業、そして金融の世界へ
ーちょうどそれくらいの時期に起業を経験されていますね。
主にプログラミングをするIT系の会社を学生の時に興しました。私自身はプログラミングが出来ないのですが、私が仕事を取ってきて、プログラミングができる同級生に回して……という流れで。
この時、プログラミングを担当してくれていたメンバーから「人と喋るのは苦手だから、仕事だけ回してほしい」と言われたことがあったんです。なるほど、そしたら私は仕事をもらってくることに徹して、彼らには仕事に専念してもらおうと。組織だから、お互いの強みに特化したものをやったほうが効率的で、何事も自分一人でやる必要はないんだなとその時に学びました。
ー岡島さんご自身は、人と会ったり話したりするのが好きだったんですか?
実は得意でもないし、好きでもないんです。ただ、新しい知識を得たりとか、新しい世界を見るのが好きだった。好奇心が勝ちましたね。好奇心が原動力になっているのは当時も今も変わらない気がします。
ー「人工流れ星」のアイデアを思いついたのも、学生のときですね。
大学の友達と、しし座流星群を見に行ったんです。そのときに、流れ星というのは大気圏に突入した“ちり”だから再現出来るかもしれないね、という話をしました。その時から明確に「流れ星で起業するぞ」と思っていたわけではないのですが、いつか宇宙関連の起業をしたいなと思うようになりましたね。
東京大学の卒業式で(右が岡島さん)
ーその後、博士課程まで進学されます。
「自分は研究者に向いてない」と思いつつ、まだ研究者に未練があって。もしかしてある日すべてのことが理解出来て、すごく研究者に向いた自分になる日が来るんじゃないかと思ってたんですよ……そうはなりませんでしたが(笑)
ー大学院を出た後は、ゴールドマン・サックスに入社されますよね。
博士課程の時に、流れ星を本気でやってみようか?と思い始めたのですが、恐らく億単位の資金が必要になるよな……と。そうなると、投資や投資家の目線を学ぶ必要があるなと思って、入社を決めました。
私が今ALEをやっている理由でもあるのですが、私たちは「科学を社会に繋ぎ 宇宙を文化圏にする」というミッションを掲げています。科学を進化させて、世界にイノベーションを起こしたいと思っているんです。
当時、物理学や天文学などの自然科学は、公的資金に頼らざるを得ない状況でした。それを、別の方法でお金を集められないかなと思ったのも、ゴールドマン・サックスに入社を決めた理由の一つですね。ここでの経験が役に立つはずだ!と思っていました。
……あと、外資系の金融機関ならきっと給与もいいだろうし、3年くらい働いたら起業のための資本金も貯められるかなと。ただ、入った年にリーマンショックが起きて、辞めることになってしまいます。でも、結果として今ALEでやりたいことが出来ているので万事OKです(笑)
ゴールドマンサックス在籍時
ALE設立、偏愛を持ち続けられた理由
ーALEを設立された時のことを教えてください。
そもそもの話で言うと……2009年頃から細々と活動はしていたんです。大学の先生に、学生さんの卒業研究の一環のような形で、研究テーマとしてちょっとずつ進めてもらっていました。正式に会社として登記したのは2011年です。
その時、私は資金調達もしていないし、業務委託やフリーランスのような仕事を受けて、週に4日働いて、週に1日ALEに充てる……みたいな働き方をしてましたね。
その時は人工流れ星自体が実現するかも分からないので、「実験で上手くいかなかったら、それはそれでいいか」と思ってました。「いけるかも」と思えたのは2014年くらい。開発した金属の粒が、3等星と同程度まで光ることが実験で検証できたんです。まだ伸びしろもある段階だったので、そこから仲間と資金を集め始めました。
ー2009年から2014年までの約5年間、ずっと研究を続けていたんですね。長い時間だと思うのですが、途中で諦めようかな、と思ってしまうことはなかったのでしょうか。
「まだ全てやりきっていないから続けたい」という気持ちがモチベーションになっていました。全部やって駄目だったら諦められるけど、そうじゃないから続けようと。
大学の時の起業の経験も大きいです。どうなっても、生活費くらいは稼いでいけるかなという感覚があったので、流れ星がうまくいかなくてもまあ何とかなるか……と思ってました。
ーポジティブなんですね。
ポジティブというのもあるし、世間でいう「ちゃんとしなきゃいけない」っていうハードルがほとんどないんです、私。どんな環境でも、わりと楽しく暮らしていけそうだなって。田舎もあるし、自給自足で何かやってもいいし。みたいな(笑)親戚でそういう風に生きている人も多かったから、自然とそんな感覚になったのかなと思います。
ー起業のタイミングで、周囲の方から「やめておきなよ」など、止められたりすることはなかったんですか?
起業したての頃は「宇宙関連のスタートアップを立ち上げてます」と言うと、「無理」とか「絶対うまくいかない」とか言われるんですよ。でも、成功している人に話すと、「何それ面白そう」とか「こんな課題がありそうだから、こうしたほうがいいかもね」と返ってくるんですよね。
「ダメだよ」「無理だよ」と言う人って、成功したことがない人なのかな、と思っていて。なので何を言われたとしても「この人の言うことは話半分で聞いておこう」って受け流すようにしていました。
ーALEのやろうとしていることは、今までになかったことだと思います。ただ、だからこそ資金調達は大変だったのかなあと思ったのですが。
アイデアが尖っていると、人の反応ってすごく分かりやすく二極化するんですよ。「めちゃくちゃ面白いね!」って言う人と、「ダメだろ」って言う人。中間の人はいないんです。資金調達のお願いにまわっていた時も、ダメだろうという反応の人は一切追わずに、面白いじゃんと言ってくれる人をとにかく増やしていくっていう感じでしたね。
ー「ダメだろう」と言われても、悩んだり、うじうじしたり……というようなことはなかったんですね。
なかったです。諦めが肝心ですね(笑)数を打って味方を増やすことに集中していました。
今考えると、学生の時に起業した時の経験が活きてるなと思います。色々な会社の方にアポを取って会いに行っていたのですが、相手が学生だと、比較的有名な方でも会ってくれたりするんです。「できる」「できない」は考えず、とりあえずアタックしてみるのは大事だなとその時思ったんです。だから今でも思いついたことがあれば、動くようにしています。
個性の違う人材が活躍するための「ミッション」
ALEの真空チャンバー(宇宙空間を模擬する実験設備)
ーALEの社員さんは、現在何名くらいいらっしゃるんですか?
今は40名弱です。みんな私よりも優秀な人たちですね。
ーどうやって優秀な方を集めてくるんでしょうか。
私が集めてくる・巻き込むというより、皆に助けてもらっている感じです。私が何もできないので、みんなが助けてくれている!というか(笑)
ー一般的な宇宙スタートアップと比べて、ALEは企画系のスタッフが多いと伺いました。テック系(技術系)と企画系、違うタイプのスタッフ同士をまとめていくのに、大変なことはありますか。
全く違うカルチャーをまとめるのは、今も昔もずっと課題です。モノづくりの人のなかでも、研究開発系の人と、実際にモノをつくっている人とで全く違いますし、チームの性質も全然異なります。ただ、見ている方向は同じなので、うまくいっているのかなとは思いますね。
ー以前「過去にチームビルディングに失敗したことがある」と仰っていました。
数年前、チームとして上手くいかなくなってしまったことがあって。その時も周りは優秀な人ばかりだったんですが、皆それぞれ向いている方向が少しずつ違っていたんです。私が皆で目指すべきビジョンを明確に示せていなかったのが原因です。
ただ、過去にそういった経験があったからこそ、改めてミッション・ビジョン・バリューを大切にしようと思うようになりました。そこで、2018年ごろにメンバー全員で議論しながらそれらを言語化したんです。今ではそれをホームページや社内の見える場所に置いたり、採用の時にも周知を徹底するようにしてますね。
ー効果は出てきましたか?
今のところ、うまくやれているかな、と思っています。
2020年ごろ、既に打ち上げていた人工衛星で動作不良が起きてしまったんです。本当はその衛星で人工流れ星を実現する予定だったのが、2,3年後に延期、という結果になってしまって。「誰か、辞めてしまうかもしれない」と、思ったりもしました。
ただそこで「辞めます」という人は1人もいなかったんです。「2023年につなげるために皆で頑張ろう!」みたいな方向に会社全体で舵を切ることが出来た。そういう場面でなんとか同じ方向を向けたのは、チームビルディングができていたからだと思います。
ただ、今でも全部のチーム間で情報を統一したり、情報の透明度を上げたりするのはとても難しいと感じています。頑張り続けないとな、と思っていますね。
ー全員の個性や得意なことを活かすために、前提としてミッション・ビジョン・バリューを共有していったわけですね。
私の周りにいるのは本当に優秀な人ばかりなので、私は皆が得意なことを活かしやすい場所を用意できるかどうかに、常に気を配っています。それに加えて「一緒にこういう世界をつくっていきたいんだ」ということを丁寧に伝えることを心がけるようにしていますね。ミッションへ共感してくれる、だからこそ一緒にやってくれているんだろうなあっていうのは、今、すごく思っています。
人工衛星初号機の打ち上げ時に
岡島さんにとって、よなよなエールとは
ー「ALE」という社名は、「岡島さんがエールビール(ale beer)が好きだから」らしいですね。エールビールを好きになったきっかけはなんだったんですか?
よなよなエール!です(笑)
昔からビールが好きでよく飲んでいたんですが、一時期ベルギービールにすっごくハマったんですよ。そこで色々な種類のビールを飲んでいるうちに、よなよなエールに出会って。友人と「缶でこんなに美味しいなんて!」と話しながら飲んでいたのを覚えています。
その後も沢山のビールに出会うんですが、「やっぱりよなよなが一番おいしいな」ってことで、今でも大好きですね。
ーよなよなエールやクラフトビールは、どんな時に飲むことが多いですか?
楽しい時や、心に余裕があるときに飲みます。味がおいしいので、ちゃんと味を堪能できるときに飲みたくって。ただ酔いたい時に飲むお酒とは違いますね。
ー過去、人工衛星の打ち上げに成功した時にも、よなよなエールで乾杯してくれていました。
そうそう!あの時もよなよなエールで乾杯しました。
他には資金調達に成功した時にも、みんなで飲みましたね。特別なことがあったときにはよなよなエールを飲むことが多いかもしれません。
ー2023年には新しい人工衛星の打ち上げを予定されてますよね。その時にもぜひ、よなよなエールで打ち上げの成功をお祝いさせてください。
ぜひ!冷蔵庫にスペースを用意して待ってます。
夜空を彩る人工流れ星に、乾杯!
「科学を進化させて、人類を進化させるのに貢献したい」
そう意気込む岡島さんは、幼いころに『ホーキング、宇宙を語る』を読んだ時の気持ちを、今も忘れていないのだろうな……と編集部全員が感じたインタビューでした。
「そんなこと出来ないだろう」「無理だ」と言われても、自分が成し遂げたいと思ったことに迷いなく進んでいく、かっこいいリーダー。と思ったら、「自分の得意なことって「運がいい」と「健康である」っていうことくらいなんです」と、笑って話してくれたりもする。そんな岡島さんに、惹きつけられる人が多いのも納得です。
次の「人工流れ星」を積んだ人工衛星の打ち上げ予定は2023年。
岡島さんとALEのチームが、きっと夜空に美しい流れ星を流してくれるはず。
よなよなビアファンドではこれからも岡島礼奈さんを支援していきます。
いつか人工流れ星を見ながら、乾杯できることを祈って。
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「よなよなビアファンド」では、これからも新しい”よなよな人”の発掘や、”よなよな人”への支援を行っていきます。これからの「よなよなビアファンド」も、お楽しみに!
(おわり)
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