すべての原点は「楽して楽しみたい」!? 「しくみデザイン」中村俊介さんから見える世の中とは?【よなよなビアファンド】
2021年4月に始まった、笑顔を生み出す多様性人材“よなよな人(びと)”へビールで投資するプログラム「よなよなビアファンド」。様々な分野で活躍する人をよなよなエールで支援するこの取り組みのキャッチコピーは「出る杭に心打たれる」です。
...そう、よなよな人の共通項は心を奪われるほどに突出していること。自分の興味を探求する「知性」と、それに情熱を傾ける「偏愛」とを併せ持つ、愛すべき変わり者です。
今回お話をお聞きするのは、この度よなよな人として仲間になってくださった株式会社しくみデザインを率いる中村俊介さん。デジタルサイネージを使った参加型広告表現や、身体を動かして演奏する楽器「KAGURA(カグラ)」、誰でも簡単にゲームや絵本などのデジタル作品をつくることができるプログラミングアプリ「Springin'(スプリンギン)」などを生み出し、「知性」と「偏愛」 とが重なり合うところで笑顔を生み続けている俊介さん。そのチカラの源を探る旅へ、さっそく出かけてみましょう!
<聞き手=ライス、ヤッホーブルーイング・よなよなビアファンドスタッフ>
人類にとってプラスな選択
▼そもそも「しくみデザイン」という会社をつくったのはどんな理由からだったのですか?
会社にしたきっかけは、人ひとりではできないことがいっぱいあるから。ひとりでも多くの人がクリエイターになる世界をつくりたかったんです。そしてクリエイトする人を増やしたいと願う理由は、つくる楽しさをできるだけ多くの人に知って欲しいから。もちろん僕も元々クリエイターなので“つくる”ことは楽しいですが、それよりもいろんなしくみを考えることのほうが好き。僕がめちゃくちゃ頑張ってゲームをつくっても、ゲームは1個しか生まれません。でも、ゲームをつくるためのしくみをつくったら、それをもとに何千倍、何万倍のゲームができるわけです。人類にとってはどっちがプラスかな? と考えると絶対に後者なんですよ。
みんなが参加したくなる仕組み
人類にとって最適な…いや、人類にとっての合計ポイントを一番高くしたいんですよ、たぶん。なので僕一人が頑張るよりは、みんなが頑張りたくなるしくみをつくったほうがよくて。僕がつくったそのしくみをもとに、思ってもみなかったようなものを他の人がつくり出してくれたほうが楽しいですよね。
▼俊介さんは「好きなことを実現させる」ことに対する執着が抜きん出ているように感じます。そのためにどんな問いを用意されていますか?
…なるほど。…どちらかと言うと僕は自分には好きなことが何ひとつないという印象なんですよ。趣味もない。基本的に「これしたい!」というアツいものがない。それが逆にコンプレックスというか、そういうの無いとダメなんだろうなぁと思って生きてきたんですよ。だから逆に「どうしたら“したくないこと”をしなくて済むか」という問いは大切にしています。面倒くさいなぁと思うこと、あるじゃないですか。それをどうしたら回避できるか?ショートカットできるか?と考えるんですよ。自分が得意じゃないこと、しんどいことをわざわざやらなくてもいいんじゃないかな。
▼別のインタビューでは「楽ちん」を重んじるとおっしゃっていました。「楽ちん」に対して何らかの代償を払っているという認識はありますか?
確かに、嫌な思いをするからその代償に何かが得られるんだという概念はないですね。頑張って我慢したからその先に何かがあるというのがまったく理解できない(笑) 頑張れ、努力しろ、そうしないと「そこ」に到達しないからだ! みたいなのは「ちょっと待って! スタート地点が間違ってないか?」と思うんです。だって目的は「そこ」に到達することで、頑張ることじゃないんだから。違う道が、楽な道が、きっとあるに違いない。本当に楽をしたいんですよ、とにかく(笑)
「楽する」とは何か?
で、楽って何か? ってことですよね。何もしたくない、ということでもない。「楽」っていう漢字はよくできていて、訓読みすると「楽しい」なんですよね。楽することと楽しいことはセットなんです。だから、楽というのは何もしないとか手を抜くとかじゃないんだと思います。嫌なことや辛いことは先にやるとか、今日やることは今日やれ、という理屈もよくあるじゃないですか。でもそれも違うと思ってて、先送りにできることはできるだけ先送りにしたほうがいい。最終的にやらなくてもよくなるかもしれないじゃんと。結局、僕は同じことを何回も繰り返したくない。最小限のことで最大限の結果を得たいんですよ。そのためにしくみ化すること、というのがとにかく好きなんです。変な言い方ですけど、楽をするための苦労は厭わないタイプなんです(笑)。
「一石」で「五鳥」は狙う。
例えば学生の頃はバイトをせずにコンテストの賞金で暮らしてました。生活がかかっているので、あわよくば受賞できれば良いや、というのとは違うんです。作品をつくるときには、常にどうやったら受賞できるかという観点で調査をしたりつくるものを決めたりしていました。バイトは自分でなくてもできる仕事が多いじゃないですか。だから自分のためにはなりにくい。でも、何か作品をつくって応募して受賞すれば、一石二鳥どころか一石五鳥ぐらいとれるかも知れない。つくるのは楽しいし、お金はもらえるし、箔もつく。賞は一番ラクなショートカットなのです。
▼最小限のことで最大限の結果を得るために俊介さんは何かやってますか?
…あわよくばやらなくて良い方法を考えたいんですよね。何かをするときって、何かのためにやるわけで「なんのためにやってるの?」という(目的の)ほうが大事なので、そのためのルートがあったら今までやってきたことを全部捨ててでもそっちに行ったほうがいい、と思うんです。常にショートカットを模索している感はあるんですよ。
ゴールは「ポイント」ではなく「矢印」。
今この瞬間がベストであれば、そのベストな瞬間がずっと続くわけじゃないですか。そうするとずっとベストな状況のままいつづけられるんですよ。そもそもゴールとは「ポイント」ではなく「矢印」だと思っているんですよね。向かうべき(目的とすべき)地点ではなく、どこに向かって行くのか?を示すもの。あっちの方角に行ったらいいなというのがあって、その瞬間で最も良い結果を出すにはどうしたら良いかな?というのを考える。
俯瞰すると気付きがある。
たとえば、会社が手狭になったので、同じビルの同じフロアの広い部屋に事務所を引っ越ししたんです。401から402へ。で、本来なら、各所に住所変更の手続きをしないといけないし、名刺も印刷し直さないといけないですよね。…が、ちょっと待って! と。フロアには部屋が2つしか無い。その時ちょうど、僕らの会社の後は誰も入居者が決まっていなかったので、4階のフロアだけ401と402をひっくり返してもらえばよいのでは? ということで大家さんに相談にいったら、あっさりOKだった、と。これで、何も変更手続きをしなくてもよくなったわけです。
最近思っているのは「物事を俯瞰的に見る」ことがめちゃくちゃ大事だな、ということです。何かをするときにその事象をそのまま捉えるのはもったいないと思うんですよね。一つひとつの事象で捉えると、それぞれを順番に片付けていかないといけなくなるんですが、レイヤーを1段階か2段階上げて捉えると、他のこともいっぺんに片付くかもしれないじゃん、と。
全体を俯瞰して眺め、どこまで単純化できるか? と考える。
これって「組み合わせを素早くみつけること」と言い換えられるようにも感じます。いろんな事象をずっと俯瞰した状態で認識していると、いろいろな繋がりが見えてくるんじゃないかな。一見すると異なる事象にも共通しているモノゴトはある。実はものすごい単純な話で、俯瞰して抽象度を上げることで共通のものが増えてくる。これもしくみですね。レイヤーを上げて考えたり、俯瞰したスタンスで考えるということは、しくみをつくることと近い感じがします。
ひとつの式で全部説明できました、というのが気持ちいい。
そもそもの前提として、いろんなモノゴトには普遍的な公式が必ずあると思っているんです。で、それを見つけ出そうとしているんですよね、きっと。公式もしくみじゃないですか。で、それを見つけるためには俯瞰的な視点がないとダメだし、いろんなものの共通点をみつけることがひとつのコツだったりするんですが、そういう考え方をするのが僕のクセなのかな。
単純化したその先に、多様な世界が広がる。
会社って「法人」じゃないですか。ひとりの「人」を法的につくることだと思ったので、僕一人ではできないすごいことができる「人」をつくってしまえば、めっちゃいろんなことができる。そういうふうに思っているので、その「人」の性格を形作るために行動指針はあったほうがいいよね、というわけで、会社の行動指針というかバリューみたいなものが実は我社にはあります。
これって僕のアイデアの出し方のコツなんですよね。細かく言ったらもっとたくさんあるんですけど、行動指針としてこの3つはいいなと思って。で、この3つを実践すると基本的にアイデアは枯渇しないんです。実はこれもしくみですね。
1. シキイを下げよう!
敷居を下げることによって今までできなかったことができるようになるんです。世の中敷居の高いものばかりじゃないですか。演奏もそう。プログラミングもそう。テクノロジーとか使ってとりあえず敷居を下げたら、世界は変わるよねって思う。で「どの敷居を下げようかな?」という視点で世の中を見ればアイデアはどんどん湧いてきますよね。
2. カキネを越えよう!
で、それをやったら今度はいろんなジャンルを混ぜるべきなんですよ。できるだけ。それが垣根を越えるということ。何かと何かの敷居が下がったら混ざるじゃないですか。で、それをすると絶対に今までになかったアイデアになるんです。人間って、考え方も住んでいるところも違うので、絶対に垣根は生まれるんです。なので、どことどこの間の垣根を越えればいいかな?と考えると、広がるわけなんですよね。
3. ワクワクを共有しよう!
せっかく面白いアイデアが生まれたので、ひとりでやるより誰かを巻き込んで一緒にやろう。「より多くの人に楽しんでもらうためにはどうしたらいいかな?」と思い巡らせるわけです。
この3つのプロセスを踏めば、誰でもアイデアは出せるはずなんです。これを会社にインストールできれば会社全体でネタが尽きることはないかなと思ってて。
「手段」は「目的」化しがちだ…
この3つのプロセスによって生まれたプロダクトは多々あります。例えば「KAGURA(カグラ)」。僕は楽器の演奏ができないことがコンプレックスだったんですが、演奏はしたい。おそらく「楽器を演奏したいのなら練習しなければならない!」というのが一般的なんだと思いますが、僕にとってはそこが違和感なんです。だって「楽器を練習したいんじゃなくて、演奏がしたい」のだから。で、Webカメラの前で身体や手を動かすだけで配置した音を操れるという、画像認識とAR技術を活用した楽器をつくったというわけです。これが「KAGURA(カグラ)」。
ゴールへの最短距離を出したい。楽して楽しみたいんで。
あるいは「Springin'(スプリンギン)」。プログラミングの勉強をすることは目的でもなんでもなくて。むしろしなくて済むのならしないほうがいいじゃないですか。やりたいのはゲームや作品をつくること。その手段としてプログラミングは外すことができないので、それをいかにして労力を少なくするか、楽しくするか、感覚的にできるようにするかというふうに考える。とにかく何かをはじめるための事前の学習をしなくてよいようにする、というのが発想としてもともとあるんですよね。
「Springin'(スプリンギン)」はプログラミングの知識が一切なくても、直感的な操作だけでゲームや絵本などを自由につくれるプログラミングアプリ。そして、つくったゲームや絵本を他のユーザーと共有して楽しむことができるプラットフォームとしても機能します。なので、僕やエンジニアの想定を超えたものがどんどん生まれてくるわけですよ。こんな感じでしくみをつくるほうが強いですよね。楽するためのしくみによって、自分ひとりでやるのと比べてより多くの楽しいものが生まれるんです。
▼このしくみはすごいなぁと思ったしくみってありますか?
だいたいみんなすごいなと思っちゃう。僕が思いつかないことは全部すごい。大きいところで言うと、お金っていう概念はすごいなぁとか。小さいところでは、トイレの扉の鍵の部分が小物を置く台になっているというアイデア。あれは僕が作りたかったなぁと思いましたね。よくあるトイレットペーパーのところに台があるのは携帯電話とか忘れちゃうじゃないですか。でも「鍵を台にする」と絶対に忘れ物は減りますよね。そういうの好きなんですよ。あと、マスタードとケチャップが一緒にぴゅって出るのとか。普段みんながまあいいかって流しちゃっている小さな不便を、きれいに解決してくれるしくみがすごい好き。
「よなよなエール」のしくみも好き♥
「よなよなエール」は2008年からずっと13年「ひらけ!よなよな月の生活」会員なんですよ。ヤッホーブルーイングのビールが1〜2ヶ月に1回届く定期配送サービスのことなんですが、これも好きなしくみ(笑) 初めてよなよなエールを飲んだときに、あぁこれアメリカで飲んで感動したビールと同じ!と思ったんです。飲みたくなる動機かぁ…いや、もういつもですね(笑)ストックがなくなると不安になります。毎月48缶コースなので、最近は「インドの青鬼」「軽井沢ビールクラフトザウルスブリュットIPA」それと「裏通りのドンダバダ」がお気に入りです。
ヤッホーブルーイングってファンコミュニティの厚さと上手さがすごいですよね。あのファンコミュニティをどうやって維持しているのか?ファンを巻き込む力を勉強させてもらいたいんです。ヤッホーブルーイングファンの方々は、きっとスプリンギン好きそうなんですよね。なんか一緒にコラボしましょうよ!という会をまずはしたいです。
俊介さんと話していると、ご本人が何世代の人だかよくわからない感覚になります。モノゴトに対するスタンスがフラットすぎるからでしょうか。それともとてもロジカルなのですが、そのロジックの立て方やロジックを立てる場所が、どんな人にも納得できるからでしょうか。「すごいなぁと思う人が実は年下ということも増えてきた。そういう人たちと対等にしゃべれるようになりたい」という俊介さんと一緒に、「よなよなビアファンド」がどんな新しい仕組みを生み出せるのか? そんなことを想像しただけでも震えます。
「よなよなビアファンド」では、これからも新しい“よなよな人”の発掘や、“よなよな人”への支援を行っていきます。これからの「よなよなビアファンド」も、お楽しみに!
(おわり)
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