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コンセプトをどう開発するか。熊野古道で実験してみた。(2023年1月号)

こんにちは、大﨑です。
今年は小さな目標を立てて、達成することにしました。
例えば「1日1回以上腕立てをする」とかです。1回なら寝る前でも、疲れていてもできますよね。でも1回やると意外と20回くらいやれてしまう。

そしてもう一つの目標に「月に1回noteを書く」をやります!
なのでタイトルに(2023年1月号)って書いて、毎月書いてるか皆さんにモニタリングしてもらいます。

マーケの体系だったツールではなく、熊野古道を通した自分のマーケの記録を作り、2~3年後に見つめ返すためにやりたいと思います。

慶應義塾大学商学部 牛島先生に講演してもらう機会をいただきこんな言葉をもらったためです。

「地方でのビジネスを通して、地域と実践する自分たちがどのように変わっていったか記録することが大切なのかもしれません」

日本ユニスト社内セミナーより


熊野古道が目指すべき姿

を勝手に定義して、タグラインを作りました。
世にいう、MVVを策定して、コンセプトを作ったのが入社1か月目の仕事でした。

MVVに関しては割愛させていただきます。考え方としては、「顧客」・「地域」に貢献して、熊野古道を世界遺産のモデル例にしたい。そしてこのノウハウ地方に展開することで、日本の地方を元気にしたいと思っています。

コンセプトを作る

コンセプト作りは、顧客に対して「僕たちは○○することをお約束します」と宣言するようなものです。だからMVVを前提に課題を考えて、解決する方法を言葉に乗せたいと思っていました。

熊野本宮大社旧社地「大斎原」の大鳥居

前提(2018年ごろ~Before コロナ)

→インバウンド(特に欧米豪)のトレッキング客がトレイルシーズン(春・秋)に来ており、2年予約が取れない状況だった。深刻な宿不足を抱えていた。

前提(2020年ごろ~With コロナ)

→コロナが来て、インバウンドが来なくなった瞬間に2年間歩く人がいなくなる。日本人は50~60代の方が日帰りで歩くくらい。宿や地域が日本人を集客することが難しい。。

課題の設定

→熊野古道がインバウンド(=トレイル)に依存しており、日本人も集客できるコンテンツ作りと発信がないため、有事の際のサステナブル性に欠けた世界遺産となっている。

目的

→熊野古道をサステナブルな世界遺産のモデル例とする。そのためには1か所に依存した集客(巡礼目的のインバウンド戦略のみ)から脱却し、広く熊野古道の良さを他の角度からも焦点を当てて(CEP(※)を作り)、ターゲット層を広げていこうという方針を定めました。

(※)CEP
カテゴリーエントリーポイント(CEP)とは、購買の選択肢を考え出すきっかけとなる記憶や思考のことです

(出典)(Romaniuk & Sharp, 2022)

サステナブルな世界遺産の定義

とかっこいい目的を考えたのですが、サステナブルな世界遺産とはなんなのか言語化をすることで、目指す方向性の明瞭化もしています。

こんな女性2人組、以前の熊野古道ではいなかった。

社会的価値と経済的価値の両軸
保全や文化継承を前提として、経済的価値(収入)を社会的価値(投資や寄付)に還元して向こう1500年続く文化を作ること。

時間軸に依存しない
春・秋はお客さんが溢れかえるが、夏・冬は来ないようなトレッキング中心から脱却して、年中一定の集客が望めるコンテンツがあること。

ターゲットが限定的でない
インバウンドだけでなく、日本人にも広くその魅力が生まれ、文化を育てる継承者が増えること。

課題解決への糸口


①熊野古道のUSP(Unique Selling Proposition)(※)
「蘇りの道」を活かした、身体的・精神的な回復と定義

②外部環境
well-beingの要素であるリトリート(※)が徐々に浸透してきている

③宿体験(主観)
熊野古道の自然と神聖な雰囲気が、どこか自分から意識を遠ざけ、ぼおっとして無になり、心が軽くなる体験があった。
また、周りに自然しかなく、鳥や風の音しかしない空間では、小さなストレスすら生まれない空間、ゆるやかに自分の中に流れる急ぎもせず・だらけもしない時間を感じることができた

①②③を鑑みて下記コンセプトを定義しました。

コンセプト

僕が作ったコンセプトは下記です。


SEN.RETREATコンセプト


歩いて
(熊野古道=トレイル)だけでなく、遊んで(観光や宿内での宿泊体験)、夢中で休んで(自分をと向き合いリセットする)一連の流れを熊野古道のパーセプションに置くことで、巡礼文化と相性の良いインバウンドだけでなく、リモート疲れやコミュニケーションロスを起こしている若者をターゲットに熊野古道の市場を広げたいと考えました。

現状の若者が抱える身体性・精神性の課題を「リトリート」という旅行形態によって解決できると考えており、その中でも熊野古道は特に自分と向き合いリセットできる空間になっていると考えています。

(※1)USP
USP(Unique Selling Proposition)とは、商品やサービスが持っている独自の強みを意味するマーケティング用語

(出典)https://ferret-plus.com/1675

(※2)リトリート
日常生活から離れてリフレッシュする時間をもち、心身ともにリセットする

(出典)https://eleminist.com/article/200

ブランドコンセプトの波及効果

RETREAT~歩いて、遊んで、夢中で休んで
というコンセプトにより、この宿はこんなことが起きました。

①リトリート系の特集でまず声がかかるようになった(PR)
ブランドコンセプトを立て、宿名とも相まってリトリート系の雑誌や新聞の特集が増えていきました。

②宿のサービスが決まっていく
無人宿で、どうしたらお客さんがリトリートの状況になるか、特に歩かないお客様が1泊2日の旅行の中で他の旅行先では味わえない「蘇り」をどのように体現できるか、サービスに落とし込む方針ができました。


各宿にブランドを落とし込む、でも宿毎に独自性を出す

SEN.RETREATブランドは熊野古道の巡礼道・中辺路ルート沿いに宿を4つ立てる計画です。僕がジョインした時には既にTAKAHARAが竣工済み、CHIKATSUYUが大まかな設計が完了している状態でした。

なのでTAKAHARAに関しては、今できているものにコンセプトを作る作業。CHIKATSUYUに関しては、全体ブランド・TAKAHARAを鑑みたうえで、どのような流れを今後作るかを考えたうえでコンセプトに落とし込みました。

1棟目の宿、SEN.RETREAT TAKAHARA


2棟目の宿、SEN.RETREAT CHIKATSUYU

複数宿を繋げてRETREATを作るとは?

もしかしたら日本で初めての宿かもしれません。
1つのブランドを作り、それを全国各地に作り、ブランドとして統一感を出すことはよくあります。
僕は星野リゾートの「界」が好きですが、まさに共通の提供価値をブランドとして顧客に約束して、同じレベルへ標準化させて広めていく。

https://www.hoshinoresorts.com/brand/kai/

もちろん「界」の中でも特色は変わり地域の特性を活かしていきます。これは同じ複数宿ビジネスとして参考にしかなりません。

界 別府HPより(https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaibeppu/)
界 津軽HPより(https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaitsugaru/)

僕たちは4つの宿を巡ることで、RETREATを完成させる旅にしたいと思っています。他のブランドの違いは、泊まる順番が決まっていること・移動手段が歩きなので、歩くことも体験の1つに組み込めることなどがあげられます。まだ世の中にはない、「転泊」という文化を作れるかもしれません。(おそらくこの文化を作れるのは日本では、熊野古道とお遍路くらいなのかも。)

なのでまずRETREATを分解し、各宿でどんな体験を特に打ち出したいのかを明確化させました。

RETREATの構成を生み、未来の宿のコンセプトを先に決める

リトリートを更に分解して、ブランドに落とし込んでみました。
これは勝手に決めたRETREATなので、あくまで個人的な見解です。

僕が決めたのはこの4Rです。
Remind、Recreation、Relux、Revitalize
Remind(素直な自分を思い出す)→Recreation(素直な心で童心に帰る)→Relux(疲れを癒し、心を整える)→Revitalize(命を吹き込み、生まれ変わって現代に帰る)をすることで、熊野古道版リトリートを完成させると定義しました。

この4つがそれぞれの宿で主軸として味わえることで、一連の流れを通したRETREATが完成する。だから4つの宿ができた暁には、しっかり歩いて、遊んで、休んでねという流れを作るべきと、未来戦略を立てました。

SEN.RETREAT TAKAHARAコンセプト


SEN.RETREAT TAKAHARA

TAKAHARAは森に囲まれた空き家をリノベーションした1棟貸しです。
そのため鳥や風の音しかしない環境と、1棟貸しで他の人がおらず好きな人とゆったりとした時間を過ごせる空間となっています。

SESEN.RETREAT TAKAHARAの目の前の熊野古道

コンセプトをどう決めた?

まずやった作業はこの2つのみです。

①ユーザーになりきる。
自分のインサイトを言語化できないと他人のインサイトなんか絶対に読み取れない。
僕は会社の人、一人で、友達と、恋人と、トレッキングでなど様々な条件に身を置き、この宿に通い詰めて自分の感情を素直に読み取りました。
その中で気づいたのは、「精神的安定のタイミングが訪れる瞬間、家で一人で休むこととは決定的に違うということでした。」

例えば、家にいても隣の家の音や、聞こえてしまう通知音に気を取られてしまう瞬間はありますよね。確かに身体は休めても、心にほんの少しのストレスが徐々に巻き付いているんだろう。僕はこの宿に来てそう思いました。

②RETREAの流れを考える。

先述した4Rを紐づけながら考えました。SEN.RETREAT TAKAHARAは中辺路ルートを歩き始めて、一番最初に泊まる宿です。その宿はどのような役割を果たすべきなのかと。

リトリートの根幹には、本来の自分を見つめなおす作業があると思います。それを促進するのが非日常空間であり、瞑想などもそれにあたります。まさに森に囲まれ、誰の声もしない空間で、自然と調和できることで素直な自分と再会できるRemindがぴったりだなと考えました。

このような手順でブランドコンセプトを軸に、その宿の強みを活かしながらタグラインを作りました。プロのコピーライターには足元にも及ばないかもですが、現場のマーケターがコンセプトを決めることで、その後のサービスへ一貫性を持たせて、ブランドを強くする(一貫して発信し続ける)ことができると思っています。

本来であれば次のSEN.RETREAT CHIKATSUYUも説明すべきなのですが、若干この一筆書きに疲れが見えてきたので軽くさらって締めます(笑)

SEN.RETREAT CHIKATSUYUのコンセプト


SEN.RETREAT CHIKATSUYU

皆さんわかると思いますが、こちらの宿はRecreationをテーマにし、子供の頃に戻ったような純粋な笑顔になれることを強調してます。
近露という街を始めて訪れた時、「ぼくの夏休み」の世界観に飛び込んだような感覚になりました。
町が醸し出す雰囲気が1棟目の宿・高原の荘厳で少し自然の美しさと静けさを感じられる空間とは異なり、明るく開けた懐かしさを思わせる街でした。

そのため、大人が子供を連れてきて、自分が子どもに変えるような体験をすることで、本来の自分を思い出し、今の自分を肯定する感覚になってほしいと思っています。

皆さんもうお分かりなのですが、結構疲れてきました!月1回のnote更新の目標にしたのも、継続させるためです。無理は禁物、潮時を見つけました。

次回もまた読んでください。地方×マーケのリアルをこれからも発信していきます。

よくTwitterで毒を吐いてるので是非見てください!


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