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読書録#2 『21世紀の啓蒙(上・下)』スティーブン・ピンカー

ざっくり要約

  • 事実、世界は良くなっている。近代に入ってから、全世界的に、戦争・疫病・テロや凶悪犯罪は減り、医療の発達で健康寿命は伸び、教育が行き渡って知的レベルはあがり、資本主義のおかげで生活は豊かになり、所得や可処分時間は増えた。

  • それなのに、メディアや学者や政治家や批評家たちは、世界は後退しているという事実無痕の悲観論を振りかざしている。残念ながら、米国でのトランプ大統領の当選に象徴されるように、その悲観論は世の中に対して一定の影響力をもっている。

  • これは世界の今後の繁栄を考えれば由々しき事態である。だから、いまあらためて、世界は進歩しているということを、人々は思い起こす必要がある。そして進歩を思い起こすということは、進歩の原動力である啓蒙主義が近代以降果たしてきた役割を再認識することであり、イコール、理性、科学、ヒューマニズム、進歩の価値を再認識することである。

  • もちろん、世界が良くなっているからといって、憂うべきことがなくなっているわけではない。地球温暖化や、イスラム教にもとづく非人道的な行為など、世界には喫緊の課題がある。だからこそ、啓蒙主義の考え方を用いて、その解決に取り組んでいくべきであるし、筆者はそれができると信じている。

感想

  • 読む前と後では、自分の考え方が相当修正された気がする。

    • 読む前は、自分にも悲観論者の一員としての面があった気がする。理由は、人間は欲深いから、物質的に豊かになっても幸福は増えていないのでは、むしろもっと求めるばかりで心は貧しくなっているのでは、という(書いてみればめちゃくちゃ陳腐な)考え方があったのがひとつ。あとは、成長ってそもそもなんのためなんだっけ?みたいな疑問を抱いていたこともひとつ。しかし、読み終わった後は、幸福が増えているかどうかはわからないが、世の中はたしかに良くなっていることを理解できた。何が幸福かは永遠の謎だとしても、無知や盲信より理知のほうがいいこと、戦争や疫病はあるよりないほうがいいこと、生活は貧しいより豊かな方が良いことには、少なくとも自分は賛成できるなと感じた。

    • そう考えると、資本主義の最たる例である起業や投資(を受けること)に対しても、これまでより前向きになれる気がする。自分が、人々の生活を少しでも楽にしようとしてなにかに取り組むだけで、本当に世界の幸福の総量が増えるかはわからない。もしかして、顧客の仕事が楽になったところで、生まれた時間が有効に使われないかもしれないし、たとえば窓際族の仕事を奪うことになるかもしれない。でも、それでも世界の進歩に対する貢献に差し引きプラスだと自分が合理的に信じられるなら、やる価値はある。人々が幸福になることまでは責任をもてないが、楽にしてあげることにはコミットができる。楽になることは、楽にならないより、きっと良いことのはずだ。

    • ただし、地球全体に対して人間が及ぼしてきた影響には反省が必要だと思う。筆者は、ヒューマニズム(人間主義)は、人間以外の動物の利益や福祉を守ることと両立する、とサラッと書いているだけだ。だが、『サピエンス全史』が指摘した通り、人間は地球にとって明らかに侵略者の一面を持っている。地球温暖化がその最たる例だ。農業革命、産業革命、情報革命と、人間の進歩が地球に犠牲を強いてきた側面は、確実にある。それらがもし起こらなければ、地球は今よりもっと「平和」で「繁栄」していたかもしれない(たとえば生物の多様性)。

    • 人間以外の種族にとって、人間という種族が誕生したことは、何百万年という長大なスケールで見れば、マイナスなのだと思っている。でも、一度この特異な種族として生まれてしまい、世界を征服してしまった、豊かさの味を知ってしまった僕らにできるせめてものことは、これ以上他の種族に害を与えずできればその繁栄を手助けするための努力をしていくこと、人類という種族の内部に関していえば、多くの人がマシだと同意できるような変化にむけて力を傾けていくことだと思う。

    • なお、他の種族に害を与えないというのは口で言うほど簡単ではない。自分だって明日から肉を食うなと言われたら相当抵抗があるし、そもそも人間がサメやクマと同じ肉食動物であることそれ自体に罪があるとは思えない。ただ、命を頂いていることに感謝すること、どういった経路を辿って自分の口に入っているかに想像をめぐらし知識をもつことなどは心がけていきたい

  • ピンカー先生の熱量エグい。上下巻あわせて合計1000ページ以上に渡って、世界が良くなっていると言えるのはなぜかを、事実と数字に基づいて怒涛のように語り続ける。非理性主義のつけいる好きを1ミリも与えまいとする覚悟に圧倒される

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