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予測モデルの研究とは?

はじめに

予測モデルに関する臨床研究について紹介します。
多くの医療従事者が臨床研究の勉強を始めると最初に、
「臨床疑問をPICO型、PECO型に当てはめよう」と書いてあります。

しかし、実際の臨床研究にはそれに当てはまらないパターンの研究も沢山あります。
そのうちの一つが「予測モデル」の研究です。

予測モデル

予測モデルとは手元にある既知のデータをもとに診断や転帰などを予測するスコアや計算式のことで臨床家の意思決定の支援に用いられるものです(1-2)。Clinical prediction modelともいわれます。

例えば、有名なものにCURB65と呼ばれるスコアがあります。これは市中肺炎の予後(死亡確率)を簡易的に計算できるため重症度評価に用いられています(3)。

CURB65は下の項目でスコアリングして

CURB65

-Confusion +1点
-Urea >7 mmol/l +1点
-Respiratory rate ≥30/min +1点
-Blood pressure (SBP <90 mm Hg) +1点
-65 years or more +1点

そのスコアに基づいた予測死亡割合が以下となります。

予測死亡割合
0-1点: 1-2% 
2点: 8-9%   
3-4点: 20-30% 

このように簡単に予後が予測できるので臨床の意思決定に役立てることができます。

予測モデルの研究

予測モデルの研究にはいくつかのステップがあります(4-5)。

1: 予測モデルの開発
2: 予測モデルの妥当性評価
3: 実際の臨床での評価

1: 予測モデルの開発
最初のステップの「予測モデルの開発」は複数の予測因子を用いて、予測すべき対象の診断や転帰の確率を推定する統計モデルを作成します。古典的にはロジスティック回帰モデルが用いられています。いわゆる「機械学習」と呼ばれる統計モデルが用いられることもあります。

2: 予測モデルの妥当性評価
開発された予測モデルはどうしても元のデータの特徴に特化してしまいがちで、他のセッティングでの予測性能が落ちてしまう可能性があります(Overfitting)。
例えば、A病院で開発した患者の転帰を精度高く予測するモデルはA病院では使えるかもしれませんが、B病院でも精度高く予測できるかどうかはわかりません。そのため、予測モデルを開発したデータと異なるデータを用いて予測モデルの評価をする必要があります。

3: 実際の臨床での評価
さらにその予測モデルが実臨床において診療の質や患者のアウトカムを改善するかどうかを評価するステップがあります。この評価ではランダム化比較試験などで、予測モデルを用いる診療と予測モデルを用いない診療を無作為に割付し、アウトカムを評価するなどの方法があります。

これらの1-3のステップを経て予測モデルの診療への意義が検証されます。
予測モデルの評価指標についてはまた近日まとめたいと思います。

まとめ

予測モデル開発、検証型の研究は臨床研究の解説本などではあまり触れられていないので紹介しました。興味があればさらにTRIPOD statement(6)なども参考にされると良いと思います。

よければ以下の記事も参考にしてください。



文献

(1)Guide to presenting clinical prediction models for use in clinical settings BMJ 2019

(2)Transparent Reporting of a multivariable prediction model for Individual Prognosis or Diagnosis (TRIPOD): the TRIPOD statementAnn Intern Med. 2015

(3)Defining community acquired pneumonia severity on presentation to hospital: an international derivation and validation studyThorax 2003;58:377-382.

(4)医学文献ユーザーズガイド ―根拠に基づく診療のマニュアル 第3版 相原 守夫 (著)



(5)Clinical Prediction Models A Practical Approach to Development, Validation, and Updating, Authors: Steyerberg, Ewout


(6) Transparent reporting of a multivariable prediction model for individual prognosis or diagnosis (TRIPOD): the TRIPOD statement BMJ 2015

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