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ECPRの予後予測のためのスコア

ECPRの予後予測のためのスコアの紹介

院外心停止患者に対してECPRを実施したときの予後予測のためのスコア Tips 65 scoreを作成しました。ここではそのスコアについて紹介します。

なぜECPRの予後予測が必要なのか?

ECPRは体外式膜型人工肺(循環補助装置)を用いた心肺蘇生のことです。主に大腿の動脈、静脈からカテーテルを挿入し、静脈血を脱血、大動脈に送血することで脳や全身の臓器の循環を維持することができます。

難治性のVF(心室細動)の患者さんなどの救命と予後改善に期待される治療ですが、その一方で、侵襲度やコストの面からはその適応は慎重に判断されるべきです。しかし実際の救急現場では適応について悠長に考えている暇はありません。

もしECPRを導入する時に簡単にその予後が予測できるのであれば、ECPRの適応決定に役立つのではないかと考えました。
そこでECPRを実施した院外心停止の患者の予後を簡易的に予測できるスコアを救急医学会の多施設院外心停止レジストリのデータを用いて作成し、その論文をJAMA Network open誌(JAMA Netw Open. 2020;3(11):e2022920.)から出版しました。

TiPS65スコア

Time: 覚知から病院搬入まで25分以内 +1点
pH :病院搬入時の血液ガスのpH>7.0 +1点
S :Shock適応波形(病院搬入時VF/VT) +1点
65 :65歳未満            +1点

このスコアの合計点で
3,4点 30日神経学的予後良好 30-40%
1,2点 30日神経学的予後良好 5-15%
0点  30日神経学的予後良好 1%程度

と予後が予測出来る事がわかりました。

3、4点なら積極的にECPRを検討しても良いと思いますし、0点なら慎重に考えないといけないと思われます。1、2点ならケースバイケースと考えます。

まとめ

結果の妥当性の検証はまだまだ必要ですが、このスコアを用いることで救急の現場で簡単に予後の予測ができ適切な意思決定につながる可能性があると思われます。このスコアで1人でも多くの患者さんがECPRで救われることを、1人でも望まれぬ侵襲的治療を受ける患者さんが減ることを期待したいと思います。

補足:計算用のアプリ

簡易計算用のアプリも作成しました。


補足:研究内容のスライド


補足: 論文の要約(日本語版抄録)

背景

体外式心肺蘇生法(ECPR)は、難治性の院外心停止患者の神経学的転帰を改善することが期待されているが、侵襲性があり、費用が高く、多額の人的資源を必要とする。神経学的転帰を予測することが可能であれば、ECPRを行う患者選択に役立つと考えられる。

目的

ECPRを実施されたVF/VTの院外心停止患者の神経学的転帰の予測モデルを開発し、検証すること。

方法

この研究は、日本救急医学会の院外心停止多施設レジストリのデータ(JAAMーOHCAレジストリ)のデータを用いた。このレジストリに含まれる87施設の日本の救急外来に搬送された初期波形または搬送中、病院到着時にVF/VT波形であった院外心停止患者のうちECPRが実施された患者を対象とした(2014年7月- 2017年12月)。対象患者は予測モデルを作成する開発コホートとそのモデル(スコア)の性能を評価する検証コホートに分割した。主たるアウトカムは1ヶ月後の神経学的予後良好とした。

開発コホートでロジスティックモデルを用いて予測モデルとしてTips65スコアを開発し、検証コホートでその性能として識別性能(AUC_ROC)と較正能をcalibration plotで評価した。

結果

916 名の対象患者のうち, 458名が開発コホート (年齢、中央値 [IQR]  61 [47-69] 才, 男性377名 [82.3%]) と 458名が検証コホート (年齢、中央値[IQR] 60 [49-68] 才; 男性393 [85.8%])に分割された。 二つのコホートの1ヶ月神経学的予後良好患者は57名[12.4%]であった。ロジスティックモデルを簡易化したTisp65スコアを作成し検証コホートでその予後良好患者の割合を提示すると 0点: 1.6% (95% CI, 1.6%-1.6%); 1点: 4.4% (95% CI, 4.2%-4.6%); 2点: 12.5% (95% CI, 12.1%-12.8%); 3-4点: 30.8% (95% CI, 29.1%-32.5%)であった。検証コホートにおけるAUC_ROCは0.724 (95% CI, 0.652-0.786)であった。

結語

本研究では,ECPRを施行した院外心停止患者でVF/VTの患者に対して良好な神経学的転帰を予測するためのスコアリングシステムを開発した。このスコアはは良好な識別性能と較正能を有していた。

文献

Development and Validation of a Clinical Score to Predict Neurological Outcomes in Patients With Out-of-Hospital Cardiac Arrest Treated With Extracorporeal Cardiopulmonary Resuscitation. Okada Y, Kiguchi T, Irisawa T, et al. JAMA Netw Open. 2020;3(11):e2022920. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.22920

*実際の臨床への応用は個々の責任と現場の判断でお願いいたします。

*本記事は医療関係者向けです。


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