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旅館業営業許可取得に目的を絞った時の旅館業法の読み方

こんにちは、一軒家ホテル合同会社の中島です。今回の記事では、旅館業法を取り扱いたいと思いますが、業法が取っ付きにくかったり、読む気になれなかったりする方も多いと思いますので、営業許可の取得だけに目的を絞ったときに必要最低限の旅館業法の条文の読み方について寄与するような記事を書いてみたいと思います。
最初に断っておくと、私は、法律の専門家ではないので、事業者として旅館業法を読み、実際に自社で営業許可申請してきた経験から実務ベースで身勝手に書いてます。ですので、法律の専門家でないものが無責任に粗削りに書いているということで、それでも興味ある方は期待せずに読み進めてください。

また、旅館業は、旅館・ホテル、簡易宿所、下宿の3つに大別されて立法されていますが、今回は、旅館・ホテルを前提に書いています。

この記事の想定読者

対象者は、下記になります。

  • 自分で旅館業の営業許可申請をこれからする予定の方

  • 旅館業の営業許可申請を自分でするか、行政書士等に依頼するか迷われている方

  • 行政書士に任せたものの、行政や行政書士とコミュニケーションする上で自身でも同等に近い知識を身につけたい方


この記事を読む意味

まず、なぜ旅館業法の原文を読むのが億劫なのか、そして、実際に読みにくいのか。それは、下記の2つと考えます。

  1. 自分の読みたい情報がどこに書いてあるのかわからないから飽きる、イライラする

  2. 法令は、上から下に読めば良いわけではなく、他の法令や別の条項に飛ばされたりしながら読まなければならず、行ったり来たりして疲弊する

そのため、この記事では、「旅館業の営業許可を受ける」という目的に絞って、そのために必要な法令・条項を切り貼りして、この記事を読めば、一旦は一通り網羅できるような構成にしました。自治体ごとの細かな基準や実務上どのような運用がされているかについての言及までは長くなり過ぎるため、別の機会に譲りますが、全体感を把握するという意味で、効果的な記事となることを期待します。

なぜ旅館業法の営業許可に目的を絞った条文理解が必要なのか

2つあります。

1つ目、すべきことの優先順位付けのため
2つ目、手続き中の余計なストレスを失くすため

解説すると、旅館業法には、いろいろ書いてありますが、サクッと書いてしまえば、下記の3つに分かれます。

  1. 旅館業営業許可取得のために必要なこと

  2. 旅館業営業許可取得後、旅館業の営業時に必要なこと

  3. それ以外

行政官からの指導は、1、2、3がまぜこぜになっているのが実情です。自身で、上記について把握できていれば、旅館業法取得のためにすべきことに優先的に取り組めるように行政とコミュニケーションを取ることができます。また、申請手続中は、ある程度確認できているとはいえ、営業許可が下りるとは誰も保証してくれていない状況です。そのような状況で営業許可後の営業時に必要なこと(営業許可前に不要なこと)まで行政の要求に応じて対応するのは、やってみるとわかりますが、結構ストレスになりやすいです。本記事を通して、内容を自身で把握できれば、そういった場面でも、「これって営業許可と無関係ですよね?」とドヤ顔で行政官からも確認を取ることができるでしょう。そうやって自身の精神衛生を死守しながら、落ち着いて申請手続きを進めれば良いのではないでしょうか。

例えば、申請手続き中に2に該当する対応指示を保健所から指示され、営業許可時に必要ではないことを確認したことがあります。下記がそのときのメールのスクショです(一部、不要箇所と個人名は伏せています)。赤枠部をご参照ください。

このように、行政官と対峙したときに、旅館業の法令原文に目を通せておけば、営業許可前に不必要な書類提出や行動を求められても、条文ベースで自身に不都合がないようにコミュニケーションを取ることができます。

それでは、以下で解説していきたいと思います。

旅館業営業許可の2つのハードル

先で挙げた3分類の「1.旅館業営業許可取得のために必要なこと」ですが、次の2つに大別されます。

  1. 営業許可申請が受理されること

  2. 営業許可を拒否する要件に該当しないこと

1. 営業許可申請が受理されること

営業許可申請時の提出内容については、旅館業法施行規則1条に記載があります。下記のように、申請書に必要な情報を記入して、構造設備の図面を添付すれば旅館業法上の許可申請は完了のはずです!!

第一条 旅館業法(略)第三条第一項の規定により許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を、その営業施設所在地を管轄する都道府県知事(略)に提出しなければならない。
 申請者の住所、氏名及び生年月日(法人にあつては、その名称、事務所所在地、代表者の氏名及び定款又は寄附行為の写し)
 営業施設の名称及び所在地
 営業の種別
 営業施設が第五条第一項に該当するときは、その旨
 営業施設の構造設備の概要
 法第三条第二項各号に該当することの有無及び該当するときは、その内容
 前項の申請書には、営業施設の構造設備を明らかにする図面を添付しなければならない。

旅館業法施行規則

しかし、各自治体の条例を読むと、申請時に添付すべき追加書類を定めていることが多いです。本記事では、条例の内容まではカバーしないので、条例でも別途提出書類の記載があるので自身で確認してみましょう。

ただし、上記の旅館業法施行規則内には、「条例で定める書類も追加提出せよ」という趣旨の記載がありませんよね。そのため、厳密に読めば、条例で書いてある書類を出さなくても、「旅館業法」上の営業許可申請はできるのではないかと解されます。
ただし、条例内に記載の書類も提出しないと条例違反になる(旅館業法違反にはならない)ため、いずれにしても提出が必要という理解で考えましょう。

2. 営業許可を拒否する要件に該当しないこと

第三条 1 略
2 都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る施設の構造設備が政令で定める基準に適合しないと認めるとき、当該施設の設置場所が公衆衛生上不適当であると認めるとき、又は申請者が次の各号のいずれかに該当するときは、同項の許可を与えないことができる。

旅館業法第三条第二項

少し整理してみたいと思います。
まず、3条2項では、下記3つのいずれかに当てはまるときは、旅館業の営業許可申請に対して、許可を与えないことができると書かれています。つまり、3つに当てはまらなければ、旅館業の営業許可を与えない(拒否する)ことはできません。大事なのは、旅館業法の営業許可については、この3つ以外は、法的には関係ないということです。

  1. 施設の構造設備が政令で定める基準に適合しないと認めるとき

  2. 当該施設の設置場所が公衆衛生上不適当であると認めるとき

  3. 申請者が次の各号のいずれかに該当するとき

それぞれ見ていきます。

1. 施設の構造設備が政令で定める基準に適合しないと認めるとき

この政令で定める基準とは、旅館業法施行令に記載があります。

第一条 旅館業法(以下「法」という。)第三条第二項の規定による旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
一 一客室の床面積は、七平方メートル(寝台を置く客室にあつては、九平方メートル)以上であること。
二 宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準に適合するものを有すること。
三 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四 当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障を来さないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の入浴設備を有すること。
五 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
六 適当な数の便所を有すること。
七 その設置場所が法第三条第三項各号に掲げる施設の敷地(略)の周囲おおむね百メートルの区域内にある場合には、当該施設から客室又は客の接待をして客に遊興若しくは飲食をさせるホール若しくは客に射幸心をそそるおそれがある遊技をさせるホールその他の設備の内部を見通すことを遮ることができる設備を有すること。
八 その他都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市又は特別区。以下この条において同じ。)が条例で定める構造設備の基準に適合すること。

旅館業法施行令

太字箇所について、1つ目のの太字ですが、

二 宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準に適合するものを有すること。

旅館業法施行令1条1項2号

↓で定められています。

第四条の三 旅館業法施行令(昭和三十二年政令第百五十二号。以下「令」という。)第一条第一項第二号の基準は、次の各号のいずれにも該当することとする。
一 事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること。
二 宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備を備えていること。

旅館業法施行規則


これがいわゆる常駐基準や駆け付け基準とかと呼ばれているものです。この点は、法律であるにもかかわらず、自治体によって言うことが違ったり、実務上敷いている基準も違ったりして、ある意味、面白い点なので、解説は別のタイミングに機会があればしたいと思います。

2つ目の太字

八 その他都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市又は特別区。以下この条において同じ。)が条例で定める構造設備の基準に適合すること。

旅館業法施行令1条1項8号

こちらは、条例で定める基準のため、各自治体の条例で基準が指定されています。条例を確認しましょう。条例内で該当の条項の前に、(旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準)という前書きが入っているので、それを目印に探せば見つかりやすいです。条例内の条項も、この条項以外は、旅館業の営業許可と法的には関係がないことになりますが、他の条項で書かれていることも当然のようにあたかも営業許可要件かのように指導されることが多いです。

新宿区旅館業法施行条例

2. 当該施設の設置場所が公衆衛生上不適当であると認めるとき

こちらに関しては、ご自身で公衆衛生上不適当なのではないかと心当たりがない限り、基本的に無視して大丈夫かと思います。築0から40年の住宅やマンションだったものが、このケースに該当してくるケースはまずないと思われます。

3. 申請者が次の各号のいずれかに該当するとき

こちらも自身があてはまっていないことを確認しましょう。

一 心身の故障により旅館業を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
三 禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律若しくはこの法律に基づく処分に違反して罰金以下の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して三年を経過していない者
四 第八条の規定により許可を取り消され、取消しの日から起算して三年を経過していない者
五 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなつた日から起算して五年を経過しない者(第八号において「暴力団員等」という。)
六 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人(法定代理人が法人である場合においては、その役員を含む。)が前各号のいずれかに該当するもの
七 法人であつて、その業務を行う役員のうちに第一号から第五号までのいずれかに該当する者があるもの
八 暴力団員等がその事業活動を支配する者

旅館業法第三条第二項

消防法や建築基準法との関連

これあまり認識されていない印象なのですが、読んでわかる通り、消防法や建築基準法との関連がありません。つまり、旅館業法の営業許可においては、消防法や建築基準法に準拠していることは要件ではありません。もちろん、これらの法律は、旅館業法の営業を行う上で、旅館業法とは別に遵守すべきものではありますが、営業許可とは無関係なのです。

注意点

本記事では、旅館業営業許可に目的を絞って解説してみましたが、営業許可取得後には、いずれにしても、営業許可と無関係な条例や法令について守る必要があります。

結び

いかがでしたでしょうか。条例の記載内容まではカバーできませんが、上記で一通り旅館業法上の営業許可要件については、法令の読み方を把握できていたら嬉しいです。

何かわからないことがあればお気軽にメールなどいただければと思います。

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