Covid-19治療でのステロイドについて
【デキサメタゾンの効果】
RECOVERY試験*1は、英国でCovid-19で入院した患者を対象に、いくつかの治療薬候補の効果を評価することを目的とし設計されたオープンラベル多施設ランダム化比較試験です。この研究では、片方のグループには通常ケアのみ、もう片方のグループには経口または静脈内デキサメタゾン(1日1回6mgの用量)を追加し、退院するまで最大10日間投与し、ランダム化後28日間の全死亡率を検討しています。結果としては、デキサメタゾン併用群が有意に28日間全死亡率を改善していました(年齢調整率比 0.83 [95%信頼区間 0.75-0.93] P値<0.001) 。また、人工呼吸器の必要な場合、酸素投与のある場合、酸素投与の必要ない場合でも解析されており、酸素投与の必要ない場合だけ有意差が出ておらず、軽症例では効果が期待できない可能性が示唆されております。
この報告を受け、日本でも「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第5.3版」などに反映されております。
他では、CoDEX試験*2があり、ブラジルで⼈⼯呼吸器管理を受ける中等症-重症のARDSを伴うCovid-19患者を対象にしたランダム化比較試験になります。この研究では、片方のグループには通常ケアのみ、もう片方のグループには静脈内デキサメタゾン投与を追加し、28⽇間の⼈⼯呼吸器離脱期間を検討しています。結果は、デキサメタゾン群の方が標準治療群よりも有意に改善していました(グループ間差 2.26日 [95%信頼区間 0.2-4.38] P値 = 0.04)。
また、Covid-19の重症患者を対象とし、全身性ステロイドの有効性を評価したメタ解析*3もあり、ステロイド(デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロンのいずれか)とプラセボまたは通常ケアを比較した試験を対象としており、ランダム化後28日間の全死亡率を検討していました。結果としては、ステロイド群で有意に改善していました (オッズ比 0.66 [95%信頼区間 0.53-0.82] P値 <0 .001)。ただ、RECOVERY試験の結果に引っ張られている印象を受けるため、デキサメタゾン以外のステロイドでの効果には注意が必要かもしれません。
また、これらの研究では入院されている方が対象となっているため、外来・在宅などモニタリングが難しい状況での使用時は注意を要するかもしれません。
【デキサメタゾンの注意点】
査読前文献ではありますが、SARS-CoV-2陽性検査後14日以内に入院したCovid-19の患者を対象としたコホート研究*4では、早期ステロイド治療について、90日間の全死亡率を検討しています。結果としては、酸素投与のない方での死亡率が有意に高かったとしています。ただ、査読前であること、比較的高齢者が多い(中央値71歳)、男性が多い(95%)、陽性判明後1日以内での入院率が高いなど、実臨床に当てはめていく場合の解釈には注意を要するかもしれません。
また、インドではムコール症が増えてきているという報告もあり、ムコール症とCovid-19の関連を調べた症例報告のシステマティックレビュー*5も出ています。この試験では、糖尿病罹患(80%)、ステロイド治療(76.3%)などとの関連を指摘されておりました。ムコール症とは真菌感染症の1種で予後不良なことが多いとも言われています。症例報告ですので、一概には言えないかもしれませんが、糖尿病などの免疫機能の落ちている方での安易なステロイドの使用には注意を要するべきかと思います。
【他のステロイド治療の効果】
他のステロイド治療では、あまり質の高そうな報告は少なそうでしたが、RECOVERY試験の結果によりデキサメタゾンの有効性が示唆され、他の比較試験を早期中止している背景もあるようです。
イランでのランダム化比較試験*6では、メチルプレドニゾロンとデキサメタゾンを比較しており、一次アウトカムが不明確でしたが、死亡率では有意な差は出ず、WHOのスケールを使用した臨床状態に関しては、メチルプレドニゾロン群の方が有意に改善したとしています。
他にもイランでのランダム化比較試験でメチルプレドニゾロンパルス療法(250mg/日を3日間)と通常ケアを比較している報告*7もあり、臨床的改善での退院か死亡のいずれか早い時期を検討しており、メチルプレドニゾロン群で有意な結果が示されておりました。
また、NIH(アメリカ国立衛生研究所)のCOVID-19 Treatment Guidelinesでは、デキサメタゾンが使用できない場合の換算量*8を示しているため、こちらも参考にしてみてもいいかもしれません。
デキサメタゾン6 mg(経口または静脈内)と同等の1日総投与量は次のとおりです。
プレドニゾン40mg
メチルプレドニゾロン32mg
ヒドロコルチゾン160mg
【最後に】
デキサメタゾンは、酸素が必要となるような比較的重い症状などの限定的な状況では、Covid-19の治療にとても役立つものかと思います。ただCovid-19の治療以外にも多く使われるお薬のため、必要な場所で適切に使われていく必要があるのではないかと思います。日々の臨床の一助になっていただければ幸いです。
【参考文献】
*1:N Engl J Med . 2021 Feb 25;384(8):693-704.PMID: 32678530
*2:JAMA . 2020 Oct 6;324(13):1307-1316.PMID: 32876695
*3:JAMA . 2020 Oct 6;324(13):1330-1341.PMID: 32876694
*4:Early initiation of corticosteroids in patients hospitalized with COVID-19 not requiring intensive respiratory support: cohort study.medRxiv 2021.07.06.21259982(2021/9/3閲覧)
*5:Diabetes Metab Syndr . Jul-Aug 2021;15(4):102146.PMID: 34192610
*6:BMC Infect Dis . 2021 Apr 10;21(1):337.PMID: 33838657
*7:Eur Respir J . 2020 Dec 24;56(6):2002808.PMID: 32943404
*8:COVID-19 Treatment Guidelines.National Institutes of Health(2021/9/3閲覧)