コロナ終息へ:ニューヨークか、ニュージーランドか  西浦試算に基く検証

東京都における外出自粛とニュージーランドのロックダウンの成果の比較追跡を始めて10日目になりますので、いったんこれまでのまとめを行います。

【最新状況】
まず、最新の状況を見てみます。

スライド1


ニュージーランドの新規感染者数は15人とロックダウン後の最低を本日記録しました。(人口500万。グラフでは人口1400万人の東京都との比較のために数字を2.8倍にしてあります。)

一方東京の昨日の新規感染者は149人。
4月11日(外出自粛から2週間目)までの3日間の新規感染者数が181、189、197と高止まりしていたところから、4月12日から5日間の平均が139人と新規感染者数が減少している状態にあります。(平均を取ったのは、週末検査が少なくなることの影響を反映するためです。)


【現状評価】
現状を評価するために、評価指標として北海道大学の西浦教授の以下の2つの試算を使います。

一つ目は、一昨日発表された「無対策なら85万人重篤、40万人死亡」というものです。

評価指標A:『コロナ無対策だと85万人重篤、40万人死亡の恐れ…北大教授試算』
https://www.yomiuri.co.jp/national/20200415-OYT1T50146/

もう一つは緊急事態宣言を出したときの政府目標の根拠となった「接触を8割減らせば1か月で終息する」というものです。

評価指標B:『接触8割減なら1か月で収束…北大教授試算、政府目標の根拠に』
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20200414-OYT1T50041/


まず、試算Aについては、ニューヨーク市との比較で想像がしやすくなります。

スライド2


敢えて、縦軸に対数などを使わないで、グラフ化すると、ニューヨーク市では東京とは比較にならない次元のことが起きていることがわかります。(東京はグラフの線が地を這うようなレベルで差があまり認識できない)

また、ロックダウン前のニューヨーク市での新規感染者急増から西浦先生の「コロナ無対策だと85万人重篤、40万人死亡の恐れ」というのが、少しイメージがわくかもしれません。

無対策の場合どのように新規感染者数が増えるのか、分かり易くするために、縦軸を目盛りの上限を3000にして、ニューヨーク市のみ数値を入れたのが下のグラフです。

スライド3


3月8日から3月16日の8日間に新規感染者数が100倍になっています。これは1日あたり約1.8倍の増加率です。

最近「東京がニューヨークのようになる」という報道をしばしば目にします。
東京で、もし小池知事が3月28日からの自粛を要請せず、無対策のまま放置し、ロックダウン前のニューヨーク市と同じレベルで毎日1.8倍ずつ感染者数が増えていったと仮定して試算すると、本日4月16日一日の感染者数は446万人、感染者総数は1003万人となり、都民の72%が感染していたことになります。

日本および東京におけるコロナ感染者の死亡率は現在約2%ですから、仮に死亡率が倍(4%)に増えただけでも都民だけで「40万人死亡」が試算されますし、医療崩壊で死亡率は更に高くなることが想像できます。

この西浦教授のメッセージをどう捉え、東京都の施策を評価すべきでしょうか。

小池知事が、3月28日の週末からの自粛要請をしていなかったら、ニューヨーク市での実際の数値に基いた検証/推察から、今頃東京は西浦教授の試算のような最悪の自体になっていた可能性があります。

そのため、ニューヨーク市での事実に基き西浦教授の「無対策なら40万人の死者が想定できること」が妥当であることが検証できることから鑑みて、東京都の自粛要請は、数十万の都民や更に多くの日本国民の命を救った可能性があるという非常に大きな感染抑制効果があったことが評価されてしかるべきではないかと考えます。

東京がニューヨーク市のようになることはなさそうです。
東京都の判断のおかげ、そして都民の行動変容のおかげでそうならずに済みました。

都内の一日の新規感染者数がまだ十数名であった極めて早い段階である3月25日に小池知事が会見を行ったそのタイミングも、忘れてはいけない高く評価されるべき非常に重要な点ではないでしょうか。(筆者は特に小池知事支持者ではありません。)

このように、非常に大きな感染抑制効果があったと評価できる東京都の自粛要請ですが、「封じ込め」という点で、十分な対策だったのか、そして先週からの緊急事態宣言による自粛強化がどのように影響するのかについて考察することも必要です。

そのため、西浦教授のもう一つの試算B「接触8割減なら1か月で収束」について、改めてニュージーランドとの比較に基いて考察してみましょう。

スライド4

上のグラフを見ると、以下のことが言えそうです。

・ロックダウン11日目の4月12日から急激に新規感染者が減り始め、同日からの5日間は20人以下に落ち着いている。
・すなわちニュージーランドのロックダウンは当初の想定を前倒してコロナ封じ込め効果が出ている。
・東京の3月28日からの外出自粛は「無対策」に比べて非常に大きな感染抑制効果を上げてきたが、新規感染者数は4月11日(2週間目)まで徐々に増加し続けてきた。
・4月11日までの3日間の新規感染者数が181、189、197と高止まりしていたところから、2週間を過ぎた4月12日から5日間の平均が139人と新規感染者数が減少している状態にある。(平均を取ったのは、週末検査が少なくなることの影響を反映するためです。)

ニュージーランドのロックダウンは、英米メディアから高い評価を受けています。

『英米メディアが絶賛、ニュージーランドが新型コロナウイルスを抑え込んでいる理由とは』
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/post-93115.php?fbclid=IwAR2Xr-7arwY71jqQdrA0HP7xOv1YPAn10g-dC0qoTYW3NwfPIzBcoy0FVzM

成功しつつあるニュージーランドの法的強制力のあるロックダウンに比べて、東京の外出自粛は大きな抑制効果はあったものの、「封じ込め」にはいたっていない状況にあることが分かります。

しかし、自粛効果が表れるとされている2週間を過ぎたところから、わずかではありますが、新規感染者数が減少している状況から、今後は更に、先週の緊急事態宣言を受けた自粛強化の効果増が期待される状況にあるのではないでしょうか。


【総括】
4月7日から、東京の外出自粛とニュージーランドのロックダウンの効果検証を始めたのは、以下のようなことに着目したためでした。

・対応方法の相違:ニュージーランドはロックダウン、東京は自粛。(緊急事態宣言後も自粛)
・時期の近さ:ニュージーランドは3月26日からロックダウンを、東京は3月28日から自粛を開始
・期間の近さ:ニュージーランドのロックダウン期間は4週間、東京は緊急事態宣言が一か月
・人口規模の比較しやすさ:人口がニュージーランドは約500万人、東京は1400万人と2.8倍
・女性リーダーが意思決定:ニュージーランドはアーダーン首相、東京は小池知事
・メディアと国民の受け止め方の差:日本では自粛後1週間で効果が出ないと騒がれ、緊急事態宣言に。ニュージーランドはロックダウンでも2週間は成果が出ないと国民に伝えられ理解している

https://abt.social/u/Yohei3/psgw2pcjrkouc3

小池知事が一日当たりの感染者数がまだ十数名という早い段階で3月25日に記者会見を行う決定をし、都民の外出自粛に踏み切ったことは、ニューヨークの実例とそれに基づき検証した西浦教授の試算の妥当性から数十万もの都民の命を救った可能性があり、非常に大きな効果があったと評価できるでしょう。

しかしながら、小池知事は日本の法制下でロックダウンを行うことができず、外出自粛を要請するに留まりました。その結果、ロックダウンを行うことができたニュージーランドのアーダーン首相とは、その対応策の法的拘束力の差により、両地におけるコロナ封じ込めの結果の差が生じてしまいました。

それに甘んじることなく、先週の緊急事態宣言においても、東京都と日本政府の間で温度差を埋めることに成功し、東京都のリーダーシップに他県の知事が続きました。

本日、緊急事態宣言が全国に拡大されることが決まりましたが、東京都のリーダーシップが他県に影響を与えたように、今後の東京での感染封じ込めの結果が全国に希望をあたえることになるのではないでしょうか。

なぜなら、「密」が最も高いのは東京であり、そのため最も対策が難しいのが東京だからです。営業停止に伴う家賃被害が大きいのも東京です。

また全国に感染を広げる可能性があるのも東京だからです。東京から帰省したり、移動した人が地方で感染を広げているケースが多く報道されています。

コロナ終息への道の先頭を走る東京の状況を、引き続き追跡していきます。

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