地帝合格者の偏差値分布からの東大合格レベル人数の推定(大学の合格最下位学力の統計分析⑥)【全面改訂版】
趣味の統計分析シリーズです。少し前に駿台全国模試の判定から合格者を推定するモデルを作りました。今回はそのモデルを使って、地方帝国大(地帝=北海道大・東北大・名古屋大・大阪大・九州大)の合格者の偏差値分布を推定して、そこから東大合格できる人数を推定してみます。あわせて、以前に行なった共通テストリサーチからの東大合格者推定との比較も行います。
なお、コメントで指摘いただいたのですが、このモデルは模試の判定ホルダー全員がその大学を受験するという前提にあり、「D判定なので断念」とか「A判定なので一つ上を目指す」とかの模試から受験本番までのフローが加味されていないことがわかりました。ただ、そこまでやるとモデルが複雑になりすぎるので、当面は現在のモデルを分析に使うことにします。
0 まとめ
模試判定モデルから地方帝国大合格者の駿台全国模試の分布を推定すると、平均偏差値は56.9で、中央値は56.8となった。四分位点を見ると54.7〜57.4に全体の半分が入っていることがわかる。ただし、駿台が公表している合格者平均偏差値(2021年度入試)と比べると、少し上振れ気味の推定と考えられる。
今回行う模試判定モデルからの推定と前回の共通テストリサーチからの推定の平均を取ると、地帝合格者が学部・学科に拘って、東大の同系列の科類を受験する場合、東大に合格できるのは5.7%(16人に1人)と推定される
1. 模試判定モデルの適用パラメーター
駿台全国模試の公表情報や成績表サンプルから、受験者や合格者の偏差値分布の推定モデルを作成しています。このモデルでは、合格目標ライン偏差値(A判定相当)、受験者のA〜D判定の比率、倍率を変数として、合格可能性を乗じた合格者数と定員が整合するようにE判定受験者数を算定して、そこから合格者の偏差値分布を推定するものです。
今回は以下をパラメーターとして用いて、地方帝国大の合格者の駿台偏差値の分布を推定します。
合格目標ライン偏差値
駿台のI-SUM Clubの掲載の数値です。2024年10月に調査した数字で更新してます(改訂前は2023年7月調査)。
倍率
医学部医学科と獣医学部はは2023年度入試と2024年度入試の志願倍率。それ以外の学部・学科は国立大学の平均志願倍率(2.8倍)で固定。医学部の倍率が医学部モデルの下限を下回る場合は、国立一般モデルを適用。
A〜D判定の分布
医学部医学科と獣医学部は、医学部モデル(A:B:C:D=1.0:2.0:3.4:4.2)。それ以外は国立一般モデル(1.0:0.7:2.0:1.8)。なお、判定ごとの合格可能性は、A:80%、 B:60%、C:40%、D:20%、E:5%を用います。
また、科目補正は1科目増で総合偏差値−1、文理補正は文系偏差値=理系偏差値−2を適用します。
2. 地帝合格者の分布推定
上記の設定を用いて、地帝の受験者の分布から合格者の分布を推定するとこのようになります。横軸が地帝大の学部・学科の駿台全国模試・合格目標ライン(A判定相当)の偏差値です。縦が合格者の持ち偏差値の分布です。
例えば、左端の合格目標ライン偏差値51の列を見ると、この学部・学科(九州大 芸術工学部 芸術学科 環境設計や北海道大 医学部 医療学科 看護学など)の定員合計292人のうち、偏差値53で合格したのが32名〜偏差値36で合格したのが2名という分布の推定となります。
このモデルから推定される地帝合格者の平均偏差値は56.9で、中央値は56.8でした。四分位点を見ると54.7〜57.4に全体の半分が入っていることがわかります。これらを、駿台が公表している主な学部の合格者平均偏差値(2021年度入試)と見比べると、少し上振れした推定結果と考えられます。ただし、調整の入れ方が難しいので、誤差が多少ある前提で、以下はこのパラメーターで推定を行います。
3. 地帝合格者の東大合格レベル人数の検証
この偏差値分布から地帝合格者が東大を受験したらどうなるかのシミュレーションを行います。学部学科に拘りがない場合とある場合の2パターンの推定です。
①学部学科に拘りがない場合
この場合、全ての地帝合格者(10,123人)が東大の最下位合格者がいる文三を受験します。定員オーバーとか1次試験での足きりとかは無視して、東大文三に合格できるレベルにあるのが何人かをシミュレーションします。
この時、地帝の文系学部の2次試験は一律で3科目(英国社または英国数)とし、理系学部の2次試験は一律で4科目(英数理2)とします。東大文三は5科目(英数国社2)のため、地帝文系は科目補正-2、地帝理系は科目補正−1と文理補正+2を調整しています。この前提でシミュレーションしたのがこちらの表です。
左パートを見ると、地帝文系には東大文三でB判定以上となる合格者がゼロとなっています(実際は存在すると思いますが計算の簡素化のためにモデルをシンプルにしちえます)。また、東大文三C判定となる合格者も7%しかいません。その結果、地帝文系での東大文三合格レベルは文三D判定が中心となり、東大文三合格レベルは地帝文系合格者の9.7%に留まると算定されます。
一方、右パートを見ると、地帝理系には医学部を中心に東大文三でA判定以上となる合格者が一定存在します(定員比4%)。また、C判定レベルの地帝理系合格者もある程度の厚みがあります(同14%)。そのため、地帝文系での東大文三合格レベルは文三C判定以上が半数を占め、東大文三合格レベルは地帝理系合格者の16.8%と算定されます。
この2つを加重平均すると、地帝合格者のうち14.6%は学科の拘りなく、文三を受験したら東大(文三)に合格する推定結果となります。
②学部・学科に拘りある場合(同系列の科類を受験)
この場合は、学問の系列ごとにそれに近い東大の科類を受験します。6つの科類でそれぞれで計算することになります。まずは地帝文系から東大文一・二・三の受験をシミュレーションした結果です。
地帝の法学部には上位層の厚みが一定あり、地帝法学系の合格者の9.8%が東大文一に合格できるという計算結果となりました。一方、地帝の経済学系や人文科学系は上位層の厚みが薄いため、それぞれ東大文二/文三に合格できるのは、6.5%と4.9%と5%前後に留まります。文系全体を加重平均すると、同系列の科類を受験する場合、東大に合格できるのは地帝文系合格者の6.5%となりました。
続いて、理系学部からの東大理一・二・三を受験シミュレーションです。
地帝の理工系合格者の東大理一受験、その他理系(農・薬・獣医・看護等)からの東大理二受験をシミュレーションすると、どちらも合格するのは定員の4.7%となりました。一方、地帝医学部医学科から理三の受験シミュレーション結果は、定員比で10.5%が合格できるという計算結果となっています。
理一・理二は地帝の同系列と比べて、合格者目標ラインが10〜15高いのに対し、医学部医学科では5〜10程度のため、この差が出たのだと考えられます。いずれにせよ、地帝理系から同系列の科類を受験する場合に、東大に合格できるのは加重平均で5.1%となります。
文系6.5%と理系5.1%を加重平均して全体数値を計算すると、5.5%となります。とあります。
③検証
地帝合格者のうち東大合格レベルの定員比について、過去に行った共通テストリサーチからの推定値と、今回行った模試判定モデルでの推定値を一覧にすると、この表となります。
白背景の6科類の列について、共通テストリサーチからの推定と模試判定からの推定を見比べると、文一・文二と理一・理二はほぼ近い数字になってます。
大きな差があるのは、文三と理三で、共通テストリサーチからの推定が大きくなっています。おそらく、文三では地帝の人文科学系が共通テストの配点影響で大きく出ていて、理三は共通テストリサーチで評価できるスコープを超えていてボーダーが低く出ているのが影響していると想定されます。
では、この2つの推定モデルに有意な差があるのか検証したい思います。
白背景の6組のデータについて、共通テストリサーチ(上段=変数1)と模試判定(中断段=変数2)のデータに体して、t検定を行います。帰無仮説は「この2つの判定(変数1と2)の間に有意な差はない」です。有意水準5%です。
tの絶対値が0.82に体して、両側検定の棄却域は2.23なので、帰無仮説は棄却できず、「共通テストリサーチからの推定と模試判定からの推定の間に、有意な差があるとは言えない」となります。
2つの変数に差があると言えないのであれば、同じ母集団の標本のため、2つの平均を取れば、真の値に近い数字になるはずです。この考え方の下、地帝の東大合格レベルの人数(定員比)を2つのモデルの平均値として計算すると、このような数字となります。
全学部が文三を受験する場合 15.5%
同じ系列の科類を受験する場合(文系) 8.4%
同じ系列の科類を受験する場合(理系) 4.5%
同じ系列の科類を受験する場合(全体) 5.7%
このことから、「地帝合格者が学部・学科に拘って、東大の同系列の科類を受験する場合、東大に合格できるのは5.7%(16人に1人)」と考えられます。
4. 最後に
共通テストリサーチからの推定と模試判定モデルからの推定で多少の誤差はあるものの、地方帝国大の合格者が東大の同系列の科類を受験する場合、合格できるのは約6%であることが、今回の分析で改めて確認できました。
次回は目先を変えて、東大合格者が理三を受験したら何人が合格するのかをシミュレーションしてみます。
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