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理三に合格できる東大生は何人か?(大学の合格最下位学力の統計分析⑦)

以前に、共通テストリサーチを使って、主要大学の学部・学科別に最下位合格の全体順位を推定しました。東大の中では文三に最下位合格のラインがあり、12,455位でした。他は表を見てもらえればと思いますが、理三以外は悪くない感じです。

表1

ただ、理三の最下位合格は全体で1,358位という推定結果でした。これは理三に入学できる受験生が1,000人以上いることになり、多すぎる印象です。

駿台全国模試B判定の偏差値と、共通テストリサーチから分析した共通テスト偏差値(合格者平均・合格最下位)を並べてみると、理三以外は差がほぼ同じレンジです。共通テスト偏差値の合格者平均は駿台B判定+2程度、合格最下位はほぼ駿台B判定と同じです。一方、理三を見ると、共通テストリサーチからの分析結果は、他の科類と全く違う数字となっています。
※共通テスト偏差値と駿台B判定偏差値は母集団もテストも全く違うことに注意

理三は共通テストで学力を妥当に推定できるレンジを超えている可能性あります。そのため、今回はいくつかの推定方法を複合して、理三のポジションを東大の他の科類と比較することで、理三の最下位学力を評価してみます。

0. まとめ

共通テストモデル、模試判定モデル、東大入試得点分布モデルの3つのモデルを組み合わせて推定すると、理三に合格できる東大生は1学年あたり361人(定員比12%)となる。理三を除く5科類では264人(定員比9%)で、理一と文一に上位層の厚みを確認できる。

  • 文一 31人(8%)

  • 文二 19人(5%)

  • 文三 13人(3%)

  • 理一 170人(15%)

  • 理二 30人(6%)

  • 理三 97人(100%)

1. 模試判定から合格数推定(模試判定モデル)

前回の地方帝国大の合格者分布を推定したモデルを、東大合格者に当てはめてみます。モデルの詳細はこれまでの記事を参照してください。

地帝と同様の計算を行うと、東大の科類ごとの合格者の駿台全国模試の偏差値の分布は、この表のように推定されます。全科類の合格者平均偏差値は65.4で、偏差値57〜75くらいに団子になって分布しています。

表2

ここまでのモデルは文系と理系の偏差値の違いを加味していません。ただ、模試の母集団の違いから、文系と理系では同じ絶対学力でも違う偏差値になります。共通テストリサーチからの試算では、文系偏差値=理系偏差値+2でした。

駿台全国模試の偏差値については、駿台が東大合格者の高1から高3までの平均偏差値のデータを開示しており、もう一段の分析が可能です。公表されている東大の合格者平均偏差値(2021年度入試)を一覧にすると、この表のようになります。

表3

どの科類も2年までは英数国の同じテストの同じ母集団なので、横一列で比較できます。しかし、高3になると文理で科目が違い、母集団も変わるため、同じ土俵で比較できません。

一方、高2から高3で合格者平均偏差値が減っている要因は、浪人が母集団に入る点もあります。そのため、文系と理系の平均値の高2から高3の減少幅を、浪人要因と文理要因に分解しています。

これによると東大の合格者平均偏差値では、高2から高3で浪人要因で▲5.6減少しますが、文系では母集団要因で+1.5を挽回しています。一方、理系では母集団要因で更に▲1.1の減少です。結果、文理要因で文系は理系に対して1.5+1.1=2.6のプラス要素があることになります。これを補正したのが再下段です。

共通テストリサーチからは文系偏差値=理系偏差値+2、駿台の合格者平均偏差値では文系偏差値=理系偏差値+2.6であることから、少なくとも文系偏差値は理系偏差値より2ポイントは高く出ていると言えます

この分析も踏まえて、文系の偏差値分布をマイナス2の補正(下に2段シフト)を行ったのが、こちらの表になります。カーブが多少はなだらかになっています。

表4

この補正後の分布にある東大合格者が、理三を受験した場合のシミュレーションが次の表5になります。実際には理三B判定以上の理一合格者はいると思うのですが、分布の計算をシンプルにしているので、理三以外では理三B判定以上はゼロでの推定となっています。

表5

模試合格モデルを用いた推定では、理三以外の5科類で191名(定員比7%)が、理三合格レベルにあるという結果となりました。上述の通り、理一や文一の青天井をモデルに組み込めていないため、この人数よりもう少し多い印象はあります。

2. 東大入試受験者の正規分布推定

最後に3つ目の推定モデルです。これは実際の東大入試のデータを用いたモデルです。

東大は入試の合格者最低点と合格者平均点を公表しています。その点数と定員・倍率・受験者数について、2020〜2024年度入試の平均値を集計すると、このようになります。

表6

東大の得点開示を集計しているサイトを見ると、合計点の分布は確認できませんでしたが、科目ごとの分布は確認できました。理系数学を除くと、概ね正規分布になっているようです。そのため、総合点は正規分布になっているという前提はおかしくなさそうです。

受験者が正規分布する場合、合格者最低点、合格者平均点、倍率の3つがわかれば、受験者全体の平均点と標準偏差を算定できます。ただ、東大入試は文系と理系で問題が異なります。そのため、受験者と合格者の分布は文系と理系では別モノとして扱う必要があります。

でも、今回は文系についても理三の合格者レベルの人数を推定したいので、分布の基準を合わせて、同じ土俵で比較する必要があります。そこで、いくつかの指標を科類別に一覧比較して、東大文系と東大理系の基準を合わせ方を検討してみます。これまでに算定したり引用した指標から、文理共通のものをを並べると、このようになります。

表7

この表7を見ると、3つの指標全てで、文二と理二がほぼ同じ値であることがわかります。一方で、先の表6を見ると、合格者平均点は文二362.3点、理二339.2点と文二が23.1点も高くなっています。これは文理の入試科目の差が出ている影響です

これを踏まえて、東大入試の文系点数=理系点数+22.5点であると考えて、文系の点数から22.5点のマイナス補正を行います。23.1点でなく22.5点にしているのは、全ての比較指標で文二が理二より少し上にあることを反映しています。

この補正を行った上で、受験者が正規分布しているという前提の下、合格者最低点(補正後)・合格者平均点(補正後)・倍率から、受験者の平均点と標準偏差を計算すると、この表のようになります。

表8

受験者平均点と標準偏差がわかれば、それぞれの科類で点数ごとの人数分布を描けるので、理三の合格最低点である379.8点以上の人数を計算できます。分布カーブと理三の合格最低点以上の人数はこのようになります。

グラフ1

5つの科類で合計242人が、東大入試の点数で理三に合格できることが推計できました。この2/3の165人が理一です。これまでの分析の通り、理一の上位層の厚みがこのモデルでも確認できます。

ちなみに、理三の受験者の平均点は355.4点と推定できますが、これは理一の合格最低点を上回っています。理三を受験する約340人のうち半数の170人は理一に合格できるレベルにあり、さらにその6割弱が理三に合格しているようです。

3. 東大理三の最下位学力の評価

これまでの3つのモデルでの、東大合格者における理三合格最低点以上の推定数を一覧にするとこの表のようになります。

表9

一番上の①は、単純に3つのモデルを平均しています。理三以外で367人(定員比13%)が理三合格レベルとなりました。3つを並べると、共通テストモデルが突出して数字が大きいので、それに引っ張られて単純平均が上振れしている印象です。

これを補正しているのが、中央の②です。東大入試は1次と2次の総合点数で決まるため、共通テストモデルを1次、模試判定モデルを2次として、1次:2次=110:440=1:4で、2モデルで加重平均を計算してます。理三以外で286人(定員比10%)が、理三合格レベルとなりました。

東大入試正規分布モデルは、元々が東大入試の公表数値から作っているので、1次と2次の総合点です。そのため、この2モデル加重平均と東大入試正規分布モデルは同じ総合点型なので、さらに平均を取ると、大数の法則(といっても2標本だけど)により、真の値に近づくだろうと思います。それが下段の③にある3モデル加重平均の欄です。

3モデルの加重平均では、理三以外で264人(定員比9%)が、理三合格レベルという推定結果です。理一の170人(15%)はいい感じがしますし、文一(8%)に厚みがあるのもいい感じです。

この推定結果に理三合格の97人も合わせると、東大全体では361人(12%)が理三合格レベルにいるという推定結果となりました

共通テストモデルの全体順位の分布を見ると、この3モデル加重平均(理三以外264人)に近い分布になっているのは、共通テスト偏差値71.9の時でした。理三を入れた合計人数(約360人)もほぼ一致しています。

共通テストモデルだけで推定した理三の合格最下位は、共通テスト偏差値70.7(819点)でした。複数モデルを組み合わせて推定すると、共通テスト偏差値71.9(834点)が東大理三の合格最下位となりましたが、おそらくこちらの方が実態に近いだろうと思います。

4. 最後に

東大理三の最下位合格は共通テスト偏差値71.9で、東大で約360人(理三除くと約270人)がこの水準にあるという見直し結果となりました。

この場合、他の大学も含む全体順位は602位となります。これは推計誤差も入っているので、もう少し精査が必要です。次回は東大以外も含めて日本の受験生で東大理三に合格できるのは何人かを評価したいと思います。

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