見出し画像

合格最下位の受験者順位(大学の合格最下位学力の統計分析②)

共通テストリサーチを用いた合格最下位学力の分析の第2回です。学力上位者の構成や合格判定偏差値ではなく、その大学・学部・学科の理論上の合格最下位に焦点を当てています。

今回は、大学・学部・学科の合格最下位の学生が、受験生の中で何位なのかを分析しています。あわせて、他の大学だとどれくらいのポジションになるのかも分析します。

分析の考え方などは、第1回のイントロダクションに書いた内容を踏襲しますので、そちらを参照ください。これまで同様に、記事内で取り扱う数字は、2020〜2024年度平均です。

0. まとめ

※受験生は現役と浪人を区別しない合計数です

  • 東大理一の最下位合格者は、受験生の中で4,893位。

  • 東大全体の最下位合格者(文科三類)は、受験生の中で12,455位。

  • 京大に全体の最下位合格者(医学部人間健康科学科)は、受験生の中で38,568位。

  • 日本全国の国公立大の医学部医学科の最下位合格者(高知大医医)は、受験生の中で46,658位。

  • 東大に入学できる約12,000人のうち、1/4の3,000人が東大に入学。残り9,000人は、①国公立医医、②京大、③東工大・一橋大・地帝、④その他大学、⑤浪人にそれぞれ1,800人ずつくらいに分散する。

1. 分析データの拡張

過去に行った「学年の学力上位○%」の分析は、学力優秀層がどの大学に進学したのかの分析でした。そのため、合格後の結果としての進学した人数を取り扱っていました。その際、浪人生はいつかどこかの大学に進学するため、現役・浪人の区分は不要でした。

また、学力上位1%以内の分析(メインは学力上位0.1%や0.3%)であったため、旧帝国大+一橋・東工大+国公立医医=難関国公立を対象範囲にすれば、一定程度に確からしい分析ができました。

一方、今回の「合格最下位学力」の分析は、受験生の合否の境界線の分析です。これは、受験生は現役・浪人の区別がなくてもよいのですが、合否の境界線の先には、合格して進学、不合格で併願先に進学に加えて、不合格で浪人、という分岐が存在します。

また、合格最下位は学力上位1%を下回るレベルに伸びることも考えられます。おそらく、学力上位3%や10%までの対象拡大が必要になるはずです。

いわば、学力上位○%分析は限られた範囲のストック(結果としての進学先)を分析していたのに対し、今回の合格最下位学力分析は広い範囲のフロー(受験生の合否の分岐)を分析することになります。そのため、今回の分析には分析データの拡張が必要で、以下の考え方で対応しています。

  • 集計対象に、難関国公立(旧帝大・一工・国公立医医)の他に、医医がある国公立大のその他学部と東名阪の有力国立大(電気通信大・東京海洋大・東京農工大・横浜国立大・名古屋工業大・京都工芸繊維大)を追加しています。これらの追加対象を「主要国公立大」と呼ぶことにします。なお、国公立医医は地域枠は除外しています。

  • 難関国公立と主要国公立では合格者以外に、不合格者の人数も集計しています。

  • 共通テストリサーチの5教科総合の人数分布を母数とします。母数と難関国公立・主要国公立の合格者・不合格者合計の差分を、個別集計外人数(残差)として取り扱います。

  • 学科別の科目別カウントと5教科総合カウントの不整合で、個別集計外人数は凹凸します。これは一定のロジック計算で平準化します。

  • 難関国公立・主要国公立の不合格者の一定数(不合格者の60%か受験者の20%の小さい方)が浪人すると仮定しています。残りは、どこかの併願先(国公立後期入試・私立大)に進学するとしています。

  • 個別集計外人数の一定数(20%)が浪人し、残り80%はどこかの国公立(前期・後期)か私立大に進学するとしています。

  • 現実には、共通テストを5教科受験しない学生にも、学力上位層が存在します。推薦入学(附属校・指定校など)や私立大専願の学生です。これらは学力評価できないため、分析の範囲から除外しています。

2. 共通テスト5受験者の分布モデル

上記のように分析データを拡張して、共通テスト5教科の分布をモデル化すると、このようになります。数字は大きい方(左側)からの累計値です。

表1

偏差値65がわかりやすいので、ここで説明します。

上段が単純集計です。集計対象の行を見ると、偏差値65以上では、難関国公立に9,278名が合格し、主要国公立に1,079名が合格しています。

一方で、偏差値65以上でこれらを受験したけど、不合格となった人数が3,172名います。例えば、東大理一の合格最下位は偏差値68.3のため、偏差値65〜68の東大理一の受験生は不合格となり、この3,172名に含まれます。

一つ飛ばして、共通テスト受験者合計は、共通テストリサーチの5教科総合の人数分布から推定される受験者数です。偏差値65以上の共通テスト受験者合計は15,179人となります。そして、この数字と集計対象の数字の差15,179-9,278-1,079-3,172=1,651が個別集計の外に存在する受験生(残差)となります。

この総数の15,179人を進学・浪人で再集計したのが下段です。

難関国公立と主要国公立は分析の前提に基づき、合格者が全員進学します。これらの不合格者の3,172名は、前述の推定方法に基づいて、併願先の国公立後期や私立大に進学する1,110名と、浪人する2,062名に分割されます。同様に個別集計外の1,651名も国公立大・私立大に進学した1,320名と浪人となった330名に分かれます。

それぞれ計算したその他国公立・私立大の進学者を合算すると2,431名、浪人を合算すると2,392名となります。

この分割後の再集計値を使って、最下位合格者の順位やそれと同レベルの他大学・浪人の学生数などを見ていきます。

3. 主な大学・学部・学科の最下位合格者の受験順位

共通テストの受験者について、偏差値別に進学先・浪人の分布を示したのがこのグラフです。そこに、各大学の文系・理系・その他の最下位合格者をプロットしています。

グラフ1

最下位合格者の一番上位は東大理三です。合格最下位の偏差値は70.7で、その受験生の順位は1,358位です。ただ、この数字は少し甘めに出ている印象です。1,358人には理一が393人含まれていますが、実際の東大の科類別合格最低点を見ると、この半分くらいではないかと感じます。東大の科類別の最下位合格者の比較は、別の記事で行う予定です。

グラフにはプロットしていませんが、東大理三の後に、京大医医、東京医科歯科大医医、大阪大医医を挟んで、東大理一が来ます。合格最下位の偏差値は68.3で、順位は4,893位です。この4,893人の内訳は後述しますが、東大の定員が約3,000人であることも考えると、受験生の中で5,000位以内に入らないと東大理一に合格しないというのは、感覚的におかしくない感じです。

東大理系だと最下位は理二の最下位合格者の8,950位となり、東大全体の最下位は文三の最下位合格者の12,455位です。これがギリギリ最後に東大に合格する最後の1人です。

京大の場合、全体の最下位は医学部人間健康科学科の最下位合格者で、38,568位となります。少し上の35,861位に農学部・森林科学科の最下位合格者がいます。全体で3万台中盤の順位に入れば、京大に入学できるようです。

国公立医学部医学科だと、高知大の46,658位が最下位合格者です。45,000位くらいまでに入れれば、国公立大から医者になれるようです。この45,000位を、やっぱり医者になるのは大変と見るか、そんな低いレベルでも医者になれるのと見るのかは、人によって違うのだろうと思います。

4. 東大・京大・国公立医医に入学できる他大学・浪人の人数

続いて、東大、京大、国公立医医に入れる受験生がどこの大学や浪人に何人いるのかを見てみます。東大は代表格の理一と最下位合格で入れる文三を集計しています。

表2

まずは、左端の東大理一です。理一に合格できる受験生=最下位合格偏差値68.3を超える得点を獲得した受験生は、4,893人います。この4,893人の進路の数字を入れています。

一番多いのは東大(医医以外)の2,000人です。この2,000人のうち理一に約1,100人が進学するので、残り900人が文一・二・三と理二の進学者です。この数字の外で、理三には97人(定員MAX)が進学しています。

東大以外で多いのは地帝医医300人と難関医医326人、京大(医医以外)741人です。地帝医医の約6割が東大理一に合格できますが、難関医医や京大では3割程度しか理一に合格できません。

数行を飛ばして、その他国公立・私立を見てみると、415人という数字が入っています。この数字は、理一より難しい東大理三・京大医医・東京医科歯科大医医・大阪大医医を不合格になって、後期入試で医学部(山梨大や千葉大)に合格した受験生や併願先の私立大(慶應医)に進学した受験生の推定値です。残差分が入っており、少し膨れている印象です。

最後の浪人の243人は上記の4つの医医を不合格になって浪人した受験生です。分析の前提から、翌年以降にどこかに進学することで、この数字は消失します。

同様に東大文三、京大人間健康科学、高知大医医も見ていくと、その学科に入れる学生がどこに進学したのか、また何人くらいが浪人したのかがわかります。

東大文三の欄を見ると、東大に合格できる12,455人のうち、東大に進学の2,831人を除く約9,600人が他大進学か浪人です。この9,600人をグルーピングすると、国公立医医に1,600人、医医以外で京大に1,700人、東工大・一橋大・地帝に1,800人、その他大学で2,600人、浪人が1,700人くらいです。

その他は集計誤差も一定含まれるので、概数で言うならば、「東大に入学できる約12,000人のうち、1/4の3,000人が東大に入学。残り9,000人は、国公立医医:京大:東工大・一橋大・地底:その他大学:浪人に均等に分かれる」という感じだろうと思います。

合格最下位の偏差値が下がる(右に行く)ほど、その他国公立・私立大へ進学と浪人が増えるのは、上位の難易度の大学・学部・学科の不合格者が増えるためです。例えば、東大文三の場合、東大の文三以外の科類の不合格者が千人規模で入ってきます。この不合格者の数字が、右に行くほど最下位合格者の順位を引き上げているようです。

5. 最後に

今回は主要大学の最下位合格者が、受験生の中で何位になるのかを見てきました。逆に言えば、その順位以内であれば、その大学に理論的には合格できることを意味します。

この分析を用いると、ネットの掲示板やQAで時々話題になる「地方帝国大には東大に余裕で合格できるトップ層が存在する」を検証できます。次回はこの検証を行ってみます。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?