見出し画像

自転車ベルが引き寄せたもの

ドイツで自転車に乗っていて日本との違いを色々と感じる。その1つはベルを鳴らす頻度が極めて高いことである。

子供の頃、日本の田舎町で毎日ペダルを漕いでいたが、ベルを鳴らすことなどほとんどなかった。必要がなかったのである。

だが、ドイツは道路事情が大きく異なる。自転車歩行者専用道路が充実しているため、路上に歩行者が多いのだ。例えば歩行者が道の中央部を歩いていると追い越すのが難しい。左側のスペースを使ってベルを鳴らさずに追い越そうとしたその瞬間に歩行者が何の前触れもなく突然、左側に寄ってくることがごくまれにあるからだ。びっくりして急ブレーキをかけるはめになる。

友達や家族が連れ立って道の端から端を完全にふさぐ形で歩いているケースも少なくない。「交通の邪魔になっているが分からないのだろうか」といつも不思議に思うのだが、そういう感覚は日本でしか通用しないのかもしれない。仕方がないからベルを鳴らす。

道幅が狭い見通しのきかないカーブでは必ずベルを鳴らす。スピードをほとんど殺さずに突っ込んでくるこれまた信じがたい自転車乗りがいるためだ。追い越しや並列走行する輩もいる。

そういう訳でベルを酷使してきたせいだろう、数カ月前に壊れてしまった。ベルがないと大声でいちいち「アハトゥング(気を付けて)!」などと言わなければならなくなるので、近所のホームセンターですぐに購入し取り付けた。

このベルは円形。白を基調とし、中心部とレバーに黒が使われている。2~3ユーロ程度の安物だが、思わぬ効果が2つあった。

ひとつは街中の駐輪スポットに止めた自転車を遠くから認識できるようになったことである。私の自転車は濃い灰色で色彩に特徴がないため、これまでは群れの中にうずもれてしまっていた。直ぐに視認できず、「盗まれたか~」と思ったことは何度もある。ベルを変えてからはそういうことがなくなった。

もうひとつは、走行中に上半身とハンドルの間をモンシロチョウが舞うという経験をするようになったことである。初めは何とも思わなかったが、度重なるため「これは何か理由がある」と思うようになった。思い当たるのは新しいベルしかない。

事実、モンシロチョウがベルに接触するケースもある。おそらく交尾相手を探しているのだろう。モンシロチョウに似た色合いのベルをメスと勘違いし近づいてくると考えると合点がいく。

ベルは当然ながらフェロモンを発しない。舞い込んだチョウはやがてどこかに飛び去って行く。寿命の短い彼らには無用の場所にとどまる暇などない。「命短し恋せよ蝶々」と言うべきか。

いいなと思ったら応援しよう!