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2023年3月1日

BASFが本社所在地ルートヴィヒスハーフェンにある総合生産施設の再編計画を明らかにしたプレスリリースを読みながら、「とうとう始まったのだろうか」という思いが浮かんだ。欧州のエネルギーコストの高騰に伴う生産縮小である。化学、ガラス、金属などエネルギー集約型業界では昨年から生産調整の動きが広がっている。天然ガス危機対策を提言した政府諮問委員会のグリム委員長は昨年10月の時点で、天然ガスや電力の価格は将来的に低下するものの、ロシア産化石燃料に依存していたかつての低水準に戻ることはないと断言し、高止まりを「ニューノーマル」と表現した。

BASFのように世界各地に工場を持つ企業であれば、生産体制の見直しを行いやすい。他の企業も続く可能性があり、目が離せない。
エネルギーに絡んでは独北部港湾と西部を結ぶ水素輸送パイプラインを設置する計画も発表された。他のパイプラインとも接続して水素輸送網を構築し、欧州の水素経済創成につなげる狙いだ。

言うまでもなく水素はこれまで化石燃料が担ってきた役割のかなりの部分を代替することになっている。同パイプラインは28年の稼働開始を目指している。ベルギー~ドイツ間の水素輸送は同年の開始、スペイン産の水素をドイツに輸送するために必要な西仏海底パイプラインも30年の完成を目指しており、欧州の水素輸送は20年代後半から30年にかけて本格化する見通しだ。

欧州は脱炭素化に向け化石燃料を再生可能エネルギーとグリーン水素に置き換えていく。その過程で、割高な水素を使うことによる競争上のデメリットをいかに抑制するかが産業政策のカギを握る。補助金などの支援策や国境調整措置を具体的な状況をみながら総合的に展開する必要がある。企業と研究機関のイノベーションも決定的に重要だ。産学官のそうした取り組みがうまくかみ合うかどうかが課題となる。成功しなければ欧州産業の地盤沈下は避けられないだろう。今後数年間にEUや各国、企業がどのような取り組みを行うかが楽しみだ。

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