2022年1月19日

2021年の独GDP統計が発表された。成長率は実質2.7%と、前年の大幅減を相殺するには至らなかった。これは事前から予想されていたものでニュース性は特に大きくないのだが、新型コロナウイルスワクチンを米ファイザーと共同開発したバイオ医薬品企業ビオンテックが成長率を大幅に押し上げたという情報には驚いた。

マクロ経済研究所(IMK)とキール経済研究所(IfW)によると、同社はGDPの伸び率を約0.5ポイント押し上げた。つまりビオンテックがなければ昨年の成長率は2.2%にとどまっていたのである。IMKのセバスティアン・ドゥリエン所長は「成長率にこれほど多く寄与したドイツ企業を私は知らない」と明言している。将来性の極めて高い技術を持つ企業として専門家の間ではコロナ禍前から高く評価されていたものの、一般人にはドイツでもほとんど知られていなかった同社がワクチンの市場投入からわずか1年でこれほどの巨人に成長するとは誰も予想できなかっただろう。

シーメンスのジョー・ケーザー社長(当時)は数年前に開催されたスタートアップに関する討論イベントに参加した際、「シーメンスで働きたい人は?」と聴衆に問いかけたところ、手を挙げた人はごくわずかだったと後に語っている。

シーメンスの社員は「シーメンシアーナー(Siemensianer)」と呼ばれる。この語にはかつて、老後も含めて金銭的に不自由なく生活できる豊かな就労者といった特権的なニュアンスがあり、同社には優秀な人材が自然と集まってきた。

しかし、自分の夢の実現に向けて起業を目指す人には寄らば大樹の陰という発想がない。内側から泉のように湧いてくる力に駆り立てられて動くため、組織のなかでは壁にぶち当たってしまうだろう。そうしたマニアの持ち主はほどほどで手を打つことがない。このため、うまく行けば世界を大きく動かすこともある。ITの革新やCASE革命を先導しているのが歴史の浅い企業であるのは偶然ではない。

ビオンテックがアフリカでワクチンを製造できるようにすることを支援したり、危険な変異株の早期特定システムをAIスタートアップ企業と共同開発する姿勢から判断すると、創業者のウール・シャヒン、オズレム・テュレジ夫妻は地味な見かけとは裏腹に強いマニアを持っているようだ。

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