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EVシフト、欧州の場合

2023年11月15日。
「自動車メーカーにとってEVシフトの本質は『プレミアムシフト』、すなわち高級EVシフトである線が見えてきた」とする『日経クロステック』の記事を読んだ。ホンダがGMと進めてきた量産型EVの共同開発を白紙に戻したことと、ニデックがボリュームゾーンに当たる150kWhの電動アクスルで振るわないこと、比亜迪(BYD)が10月のジャパンモビリティショー(JMS)に高級モデルを出展したことを論拠としている。「量販型EVは十分な利益を出せないどころか、下手をすれば赤字の可能性が高い」という見立てだ。EVを高級モデルに絞り込むとともに、利益を稼ぎやすいHVとPHVに注力する重要性を説いている。

これに対してはアナリストの中西孝樹氏が、「ここ4~5年は確かに高価格にEVは向かう傾向があるでしょう(コストが高いため)が、もう少し先にはBYDもテスラも大衆車価格で大きく飛躍するものと考えます」と指摘したうえで、「国内OEMはその時に勝負できるEVを持っていなければ大変なことになりそうです」と警鐘を鳴らしている。世界を見ているようで見ていなかった家電業界が受けた壊滅的な打撃や、EV化の潮の速さを読み誤った自動車業界が、気が付けば後続集団に後退していた現実を踏まえるともっともな懸念である。

イノベーションは地道な努力と工夫の積み重ねの結果であるものの、市場では破壊的な断絶効果をもたらす。これまでの枠組みの延長線上でしかものごとを考えてないことは危険である。AIの活用が急速に広がっているため、断絶的な技術の進歩は今後、ほぼ確実に増える。

足元の欧州に目を向けると、メーカーはすでに2万5,000ユーロ、さらには2万ユーロ未満のモデル投入を射程圏内に捉えている。トップを走るのはステランティスであり、来春に2万3,300ユーロ、25年には1万9,900ユーロのモデルを発売する計画だ。VWも後を追う。最近のメディア報道によると、テスラは独工場で2万5,000ユーロのモデル生産を計画している。

EUでは内燃機関を用いる乗用車の販売が原則として2035年から禁止される。内燃機関車と同じ価格帯のEVを投入できなければ、量産車メーカーは販売激減の危機に直面することになる。利益を出すのが難しそうだから先送りする、あるいは高級EVに特化するという選択肢はそもそも存在しないのである。日本の自動車関係者にはこの周知の事実に目を閉ざさないでほしいと思う(地政学的な対立が極端に先鋭化する結果、レアアースなどの重要な原料を確保できなくなり、EUが政策修正を余儀なくされるというリスクシナリオは考えられるが、それは分けて考えるべき別次元の事柄である)。

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