「チェンジ・ザ・ルール! − なぜ出せるはずの利益が出ないのか」(エリヤフ・ゴールドラット著)を読んでみた
今年は「帰属から独立へ」がテーマの年になると思い、自分の裁量で物事を進めるために参考になりそうな書籍を読んでいます。
本書は、制約条件理論(TOC)を駆使して情報システム投資とその実効性を鋭く描く作品です。
特にERP(統合業務パッケージ)の導入が実際の利益にどのように結びつくかという難題に焦点を当て、企業運営の実態を小説の形で描写します。
本書の概要
ストーリーの概要
物語は、あるERPベンダー企業の幹部が大手顧客からERP導入による具体的な利益向上について尋問されるところから始まります。
この顧客の直球の質問に対し、具体的な答えが見つからない幹部は、顧客企業とともに経営面でのシステムの価値を再考することになります。
こうした関係の中で、IT導入が業務改革にどのように寄与するのかを探るストーリーが展開されます。
制約条件の理論(TOC)の適用
物語を通じて、TOCやその他のスケジューリング技術が、ビジネスにおける戦略的問題解決のツールとして描かれます。
例えば、納期順守率の向上や売上拡大を達成するためには、業務プロセス全体の見直しと改革が必要であること、また在庫管理の効率化がどう利益増加に直接つながるのかが描写されます。
読者は、在庫の管理や権限の委譲に関する具体的な対策を通じて、システムと業務の統合的な進化が企業全体の利益倍増をもたらすことを理解することができます。
この「ルールを変える」プロセスは、システム導入が成功するか否かの境界を示します。
システム投資への厳しい視点
本書は、システム導入に対する盲目的な期待や、方法論なしでの機能拡張の危険性についても戒めています。
特に投資対効果を考慮せずに進められるIT導入プロジェクトや、複雑化したパッケージ環境がどのように経営の足かせになるかを警告します。
本書の活用法
経営判断のガイドライン
経営者がIT投資を判断する際に、本書の示す指針は非常に有益です。
単なるシステム導入ではなく、それがどのように全体的な業務効率や利益に結びつくのかを常に問い続ける意識を持つことが求められます。
プロジェクト管理の参考書
ITプロジェクトを管理するITマネージャーやプロジェクトリーダーは、本書の考え方をプロジェクトのステークホルダー間で共有することで、より緊密にコミュニケーションを図りつつ、実際の投資効果を最大化するための戦略を練ることができます。
人材育成のツール
社員研修や個々の能力開発においても、本書の実践的なエッセンスを教えることは、現実の業務に直接結びつくスキルを育む助けとなります。
具体性のある理論とストーリー形式のプレゼンテーションは、従業員が学びやすい内容を提供します。
わたしの感想
本書は、IT投資という現代的なテーマに対して、単なるシステム導入ではなく、業務改革と組織変革を含めた総合的なアプローチを提示していて、情報システムが単なる技術的なものでなく、戦略的、経済的な要因と深く結びついていることを再認識させるものです。
経営面での実効性を重視し、IT導入における成功と失敗の境界を明確にする内容は、多くの企業が直面する現代の課題に対する回答を提示しています。
また、単なる批判ではなく、具体的な解決策と革新的アプローチを示す点は非常に有用です。
在庫管理の改革を通じて描かれる「ルールを変える」というアプローチは、既存の常識や慣習にとらわれない革新的な思考の重要性を示しています。
IT投資や業務改革に携わる経営者、管理職、システム担当者にとって、システム投資の意義を理解し、現実に役立つIT戦略を構築して投資効果を最大化するための具体的な指針になると思います。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる現代において、情報技術をどのように活かすかがますます問われる中、著者が提案する「ルールを変える」視点は、企業が競争力を維持し続けるために大いに参考となるでしょう。
300頁を超える大著なので読むのに骨が折れますが、コミック版もあるので、どちらか読みやすいほうで読まれるのをおすすめします。