PERACON 2020 審査を終えて



はじめに

CEDEC名物ペラ企画コンテストはA4用紙1枚相当でお題に沿った企画を投稿して審査員の得票を競うコンペです。特に賞金や賞品が出るわけでもありませんが、ゲーム開発のプロアマ、教員や学生など入り混じって順位がつき、なかなか盛り上がっています。

私自身は初年度である2011年から参加し、審査も2012年から引き受けていますが、2011年〜2013年まで3年連続で10位以内の成績を取り殿堂入りとなりましたので以降は審査副委員長として審査に専念しています。
https://peracon.cesa.or.jp/

例年はCEDECのパスを持っていることが応募条件でしたが、今年はCEDEC自体のオンライン開催に伴い、誰でも参加OKとなりました。そのためか応募者が例年の倍以上、587作品となり審査もなかなか大変でした。全てに60文字程度のコメントをつけましたが、3日程度で35,000文字書いていますので応募者の方におかれましては誤字脱字などはご容赦いただければ幸いです。

どう審査しているのか

私自身は必ず全ての作品を見ることにしていますので、一般投票の結果は無視して最初に投稿された作品から順番に見ていきます。数が増えると審査員はどこから見て良いのかわからなくなるため、一般投票を設けて一般票の多いものから並べることができるようになっていますが、近年は仲間内などで票を入れ合って得票を稼いでいるのではないかというような指摘も増えており、審査員によってはあえて参照していないかもしれません。

作品が多くなると全部見る時間があるとは限りませんから、多くの審査員は並んでいるサムネイルを見て面白そうと思うものをまずざっと見て評価をつけていくのではないでしょうか。サムネイルでおぼろげにでもゲームの面白さが主張できているかどうかは重要ですね。

前提として、ペラ企画は「15秒ほどで内容が分かる」ことが前提とされています。日本人の読書速度は毎分400字〜600字とされていますので、視線の移動なども考えると15秒で読んでもらえる文字は60文字程度でしょうか。読みやすいペラ企画は目につきやすい大きさで重要なことが書かれ、細かいことは短く小さく書くというような工夫をしています。

パッと見の印象で面白さを期待し書類を開いて絵と文字で大まかに中身を確認、興味があれば細かいところまで見る、というような流れでしょうか。疑問を感じた時には何か捕捉的な説明がされていないか、というところも見ています。

そんな感じで次々にペラ企画を審査します。私の場合は1ペラの審査に2分、15秒程度で評価を決め、1分程度でコメントを書き、細かい点をもう一度確認して終えるという感じです。これで休憩を含めて1時間に25本程度を審査。今回587あったので24時間弱を費やしました。

評価のポイント

お題とどう向き合うか
審査員のスタンスは人によってだいぶ違うと思いますのが、私の場合はまずお題をどう掘り下げているか、です。今回は「しめる」で「締める」「閉める」「〆る」「湿る」などですね。変化球として「染める」などもありました。これらの言葉がゲームのメインに据えられているかどうかをまず見ています。メインに据えられているかどうか、というのは特にお題を知らない状態で見た時に「締めるゲーム」「湿るゲーム」「染めるゲーム」と思えるかどうか、ということです。この動詞をどのようなゲームシステムに落とし込んでいるから、それがテーマとして自然で納得できるか、ですね。ネジを締める、扉を閉めるなどはアクションに落とし込みやすいです。「〆る」はみんながこれだと思うようなアクションはありませんから、なるほどと思えるものを掘り下げて考える必要がありますね。「湿る」は実際に企画書を見た時に「濡らすゲーム」「撃つゲーム」という印象を受けるパターンが多くありました。湿る、という言葉からイメージするのは見た目からわからない程度にしっとりしている、という感触ではないでしょうか。また、染めるをしめると読むのは風流ですが、そのような読み方を自然にするようなテーマになっているかと気にします。

納得はあるか
次にテーマに対して納得できるシチュエーションが設定されていて、納得できるキャラクターが納得できる行動をとって納得できるゴールを目指しているか、という点に着目しています。「海で漁師が魚を獲る」「警察官が泥棒を捕まえる」は非常にわかりやすいシチュエーションで、納得した上でその先に進めます。わかりやすさは凡庸と紙一重ではあるので、ここで一工夫するのは悪いことではありません。しかし例えば「砂漠でカンガルーがエイリアンと戦う」だったらなぜそうなのか、という意味が示されないとただ目立つためだけの余計な情報になってしまいます。それを説明するのが背景設定であり物語であるわけですね。そこか納得できて面白ければプラスに転じます。

ジレンマや駆け引きはあるか
ゲームとして成立するには、ジレンマや駆け引きがあった方が良いです。例えば今回「ひたすら扉を閉めるだけ!」というアイディアは数多く見られました。スマートフォンのフリックで次々面白い扉が出てきて、それを閉める感触が心地よく、スリリングならそのゲームは面白いという可能性はあるわけですが、それを紙面で主張しないと「これは遊びではなく作業だ」となってしまいます。「扉を閉めるにはこんな妨害や障害がある」「こんなテクニックでそれを回避する」というような事が書いてあればどこで迷い、決断し、成功したり失敗したりするのか想像できます。失敗と成功があれば成功した時に嬉しく、続けるモチベーションにつながりやすいと思えるわけです。ジレンマや駆け引きは演出や感触よりも書面で伝わりやすい要素です。

また、このジレンマや駆け引きや分かるように説明されているかも重要です。例えばボードゲームやカードゲームなどのルールがきれいにまとめられているペラ企画もけっこうありますが、15秒でそれを頭の中でシミュレーションし判断するのは困難です。作れば面白い可能性はありますが、ペラ企画ですから企画書でわからせる必要がありますね。基本的なアクションや敵は揃っていて、うまくレベルを作れば面白いだろう、というものも同様で、なるほどと思えるレベルの例があれば素直に面白いと思えますが、自分の頭の中でレベルを作り、こうすれば面白くなるな、と想像しなければならないものにいいね!をつけることは少なくとも私はほとんどありません。

新規性やインパクトはあるか
お題を満たしており、納得できてジレンマや駆け引きもしっかりある、という企画の中に、良くできているけど「面白い!」とはまだ言えないというものもちらほら混じっています。なぜかというと、「そういうゲームあるよね」となってしまうからです。実際に作ったら面白いかもしれませんが、わざわざ新しいゲームを作るからには何かしら今市場に出ているものと違う特徴が必要です。「それは考えつかなかった!」「なるほど、そうきたか!」という感覚はとても大切で、ここまで長々と書いてきたお題、納得、ジレンマなどがイマイチでも「いいね!」を押したくなるものというのは確かにあるんです。書いた本人も新しさやインパクトを感じていて、それが書面を通して伝わってくるわけですね。雑で文章もおかしいのに抗えない魅力があるのはそういうケースです。

どうペラ企画を作るか

ペラコンには「こうすればベスト!」というものはありません。これは人間が参加するあらゆるコンペに言えますが審査員も応募者もそれまでの蓄積によって感覚が変わっていきます。傾向と分析、ある程度のノウハウ蓄積によってある程度上位に来ることはできるかと思いますが、1位を狙うとなるとそう簡単ではありません。

例えば私の場合でいうとこんな感じです

2011年

最初の開催なのでノーヒントですが、一般投票があったので早めに出しておき表を稼ごうとは思いました。絵が得意ではないので図形の組み合わせでできるネタを模索し、スマートフォンやコンソールなどのネタが多いだろうと思ったのでARのゲームにしました。この時は審査員ではありませんが、審査の様子は想像できたので文字数少な目は意識しています。結果5位です。

2012年

昨年の足りないと痛感したのは絵です。なので、今回は早めに企画を考えアーティストに発注しました。同僚のプロで2020年は多くの著名作品に関わっています。「デザイナー」ではないので、箇条書きと大体のラフを渡してほぼ自由に書いてもらっています。細かいゲームの説明はもうなしにし、実際にこんなシチュエーションで遊ぶ例を挙げることであとは想像してもらう方式です。結果は2位でした。

2013年

2012年の反省は、絵の内容をそんなにコントロールできておらず、ゲームの細かい内容を表現するには自由すぎた、ということでした。と、いうわけで2013年はやはり同僚の今度はデザイナーに絵を発注しています。あらかじめ土曜日1日空けてもらい、Skypeで細かく打ち合わせをしラフをもらっては修正をお願いするという繰り返しでだいたい12時間くらい作業をしています。

前回、やはり何かチャレンジをしないと上位は難しいと感じたのでややバクチですがタイトル以外文字は一切書かないということにしました。細かく読み取ってくれる人はおそらく入れてくれる、そうじゃない人でもチャレンジは感じてくれるだろうという判断です。結果は7位でした。1位を狙って取るのは難しく、結局取れていませんが常に上位入賞する、という目標はなんとか果たせたというところですね

私自身ゲームデザイナーとして大ヒットゲームを狙うというより、一定ラインのクオリティを必ず出すというタイプなのでコンスタントに上位を狙う方が性に合っています。

ここ数年はもう少し企画書としてきちんとしたものが上位に来る傾向があるので、もし今出すならそうするでしょうね。

アドバイス的なもの

正直、過去の作品を見て自分なりの分析をする、実際に出してコメントをもらい、順位を見て修正をするというのが何より大事なので、他人のアドバイスなど聞かなくて良いというのが私の考えです。特にネガティブなコメントばかり目に付くと同時に良いところも失われがちなので気をつけてください。

その前提であえて言うなら、

・一個の思いつきから深めていくより30個思いついて選んだ方がいい
・30個思いついたらいくつか組み合わせるのも効果的
・書きたいことは一度全部書き出してから重要な順番に並べ替えて紙面に反映

くらいでしょうか。
ペラコンは自分の名前や所属を書いてはいけないですが、SNSなどで公に発信しなければ仲間内で評価したり相談したりするのは問題ありません。他人の目を入れてみるのも良いですね。

PERACONとは

色々と書いてきましたが、PERACONとはA4用紙1枚に書かれた企画書に対し審査員が「いいね!」とつけた数を競うコンペです。それ以上でも以下でもありません。PERACONはPERACONというコンペであって、企画書の書き方や面白いアイディア、面白いゲームを作る能力などの優劣が反映されるわけではありません。持っている能力はもちろん反映されますが、実際に現場でとても優秀なリードプログラマーでもペラコンで酷評されてしょんぼりされていたりすることはざらです。

なお、酷評と言っても罵倒されたり人格を否定されたりするようなコメントばかりついているということはないです。ほとんどのコメントは何かしら意味のあるフィードバックになっているかと思います。ただ、一つも褒められていない、みたいな時には少し辛いかも知れませんね。

審査員もたまたまこの時期に時間が空いている、もしくはペラコンに興味を持って時間を空けてくれている方々で、特に日本のゲーム産業やその状況を象徴したいたり代表していたりもしません。
コンペによっては審査基準などをしっかり決め、審査員を教育した上で審査をしているところもありますが、大勢の現場の人が短い時間でいいね!をつけてくれたりしなかったりするというところに価値があると私は思っています。

とは言え、ネガティブなコメントしかつかなかったりすると悲しいという心理は普通ですので、今回は少なくとも全部の作品にネガティブではないコメントがつくよう、全件にコメントを入れました。これで、ネガティブなコメントしかつかない、ということはなくなったと思います。

今回、思ったような順位が出なかった方も、めげずにまた次回頑張ってください!

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