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『聖闘士星矢 TIME ODYSSEY』インプレッション

チャンピオンRED 2022年9月号に掲載された同作が面白かったので簡単に内容をまとめます。
ネタバレがある箇所については見出しに明記します。

『聖闘士星矢 TIME ODYSSEY』とは

作者

聖闘士星矢セイントせいやのスピンオフ作品。
最大の特徴は、これまでのスピンオフコミックは日本人の漫画家が手がける漫画だったのに対して、TIME ODYSSEYはジェローム・アルキエとアルノー・ドレンが手がけるバンデシネであること。
バンデシネはグラフィックノベルと紹介されることもありますが、日本人から見ればものすごくザックリいえばフランス版のアメコミみたいなものです。

構成

巻数は全5巻の予定で、チャンピオンRED 2022年9月号に掲載されたのはVol.1の前編にあたります。
Vol.1 前編は32頁。
後編も32頁なら1巻64頁と随分短いような気もしますが、これがバンデシネとして一般的な尺なのかはわかりません。

また、Vol.1は『フェニックス一輝編』と銘打たれていて、Vol.2以降は別のキャラクターにフィーチャーしていくのではないかと思います。

ちなみに付録扱いのせいか、Kindle版のチャンピオンREDには付属していません。読みたい人は紙の方を購入する必要があります。

ちなみに私は間違えてKindle版を購入してしまいました……。
返品しようかと思ったけど前にも同じミスをしてるので、聖闘士星矢特集号だから売上に貢献しとくかーともうそのままにしました。

作風

全体的にアニメ版聖闘士星矢に近い感じです。
特にアクションシーンについては、星矢の流星拳に始まり、光る掌底を腹部に打ち込むような攻撃など、荒木伸吾さんの影響が多分に見て取れます。

その一報で絵柄はそこまで荒木さんに似ているわけではなく、TVシリーズの作監で例えれば小林智子さんクラスでもなく、かといって河合・進藤・佐々門ほど似てないわけでもなくまあ直井くらいかなぁといったところ。
(映画四作目の『最終聖戦の戦士たち』が直井作監です。)
あと貴鬼がやたらヒョロ長いです。

髪や服の色はアニメを基にした配色ですが、聖衣クロスについては原作版のデザイン・カラーリング(装飾以外はモノトーン)になっています。
原作版なのでプロローグの場面では初期聖衣を纏っていますが、本編では天馬星座ペガサス龍星座ドラゴンの聖衣はムウによって新生させたデザインです。

TIME ODYSSEYの内容

時系列

白銀聖闘士シルバーセイントとの戦いの途中、一輝の加勢を受けてアルゴル・ダンテ・カペラを倒した後、アイオリアやシリウス・アルゲティ・ディオが襲来する前にあたります。
厳密にいえばTVシリーズのストーリーラインのようです。

導入部のあらすじ ※軽いネタバレあり

アテナと星矢の前に、手下を引き連れたドラクマと名乗る男が現れる。
ドラクマ達はアテナにフェニックス一輝の行方を尋ねるも星矢と一戦交えることに。
星矢は流星拳で手下|《スティグマ》の一人を一蹴するも、桁外れの速さを見せるドラクマの拳に倒れてしまう。

残るスティグマ達が星矢にとどめを刺そうとするが、瞬・紫龍・氷河が駆けつける。
貴鬼に聖衣をテレポーテーションしてもらった星矢は、一度受けて技を見切っていたドラクマに勝利する。

そこに「時の闘士」を名乗る上級闘士、ケルピのアークトスが現れる。
アークトスはアテナと事を構えるつもりはなく、自分達の目的はあくまでフェニックスの聖闘士のみであることを告げるが、アテナは断固拒否。
アークトスはドラクマを連れて撤退する。

敵の正体 ※軽いネタバレあり

敵の首魁はティターンの神々の一柱、時の支配者 クロノスです。

明確に肉体を有しているので、“形のない神”として『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION』に登場する時の神 クロノスとは異なる神です。
あちらは原初神に相当する時そのもののChronos、こちらはティターン神族の長として天を支配したゼウスの父Kronosなのでしょう。(Kronosも農耕神としての役割を持つことから時を刻む神とされることもあります)

クロノスはギリシア神話のとおり神話の時代にティタノマキアで破れたものと思われ、現在はオリンポス十二神を賛え臣従しています。
ただし野望を完全に捨てたわけではないようで、十三番目の神としてオリンポス十二神入りを目指しています。

敵の闘士 ※軽いネタバレあり

敵闘士の名称はVol.1 前編の時点では不明です。
アークトスが名乗った「時の闘士」は敵の総称ではなさげ
時の闘士はちょうど黄金聖闘士のように最上位の十二人の闘士にあてはまる階級名のようです。

根拠としては巻末の分解装着図でアークトスにはⅫ、ドラクマにはⅫ-Ⅴ、スティグマにはⅦ-ⅩLⅧ-ⅵのナンバリングが振られています。
また、ドラクマとスティグマの分解装着図についてはオブジェ形態に時計盤がついており、前者は長針と短針のみ、後者は長針と短針に加えて秒針も付いています。
おそらく時を刻む神クロノスの配下として、彼らは時刻を守護する闘士なのでしょう。
最上位に時(hours)を守護する十二人の闘士がいて、十二人それぞれの配下に分を守護する六十人ずつの闘士が、さらに十二人×六十人それぞれの配下に秒を守護する六十人ずつの闘士がいると考えられます。

また、分解装着図ではアークトス、ドラクマ、スティグマのそれぞれに"CHRONOSS HOURS"、"CHRONOSS LEPTAS"、"CHRONOSS STIGMAS"と記述があるのでCHRONOSSが闘士の(外国語における)総称なのでしょう。
CHRONOSSの日本語名は何闘士になるのかはVol.1 前編時点では不明です。
(2022/09/19追記)後編を読んで名称について修正がありました。

時=HOURS、分=LEPTAS(ギリシア語で分の意)、秒=STIGMASが闘士としての級にあたるはずです。

ただ、STIGMASの数は明らかに多すぎます。
ドラクマが彼らをまとめて「スティグマ」と階級名で呼んでいたこと、秒針を模した槍で武装していることを考慮すると、STIGMASは冥闘士でいうスケルトンのような雑兵階級なのではないでしょうか。

というかLEPTASの時点で十二×六十=七百二十人もいたら多すぎるので、このカウントが間違っているか、現在のクロノスの配下には完全な数の闘士が揃っていない等のエクスキューズがあるのかもしれません。

分解装着図を見た感じでは、CHRONOSSの装着するものの名称は"AURA"のようです。
こちらも日本語名が何衣になるのかはVol.1 前編時点では不明です。
AURAというのはギリシア語で時=hourの意のことだと思うのですが、なぜ時の階級をAURAにしなかったかはよくわかりません。というか別にギリシア語でも秒=stigma ではないようです。
また、AURAには守護する時刻と別に、ケルピ等のモチーフがあります。冥衣に魔星と別にモチーフが設定されているようなものですね。

参考情報として、他のスピンオフ作品に出てくる類似の存在を挙げると『聖闘士星矢Ωセイントせいやオメガ』に登場する刻闘士パラサイトや『聖闘士星矢 EPISODE G』に登場する楚真ソーマがあります。

刻闘士はクロノスに相当するローマ神・サターンに従う闘士でした。
階級もCHRONOSS同様に一級から三級に分かれています。
身に纏っているのは刻衣クロノテクター
それとは別に全ての刻闘士が例外なく個別の武器を手にしており(東映のやつにありがち)、武器名が名乗りにもなっています。そこはCHRONOSSと明確に異なっています。

楚真はティターン十二神が纏う鎧です。
闘士が纏うものではなく、原作でいえばオリンポス十二神が纏う神衣カムイに相当します。
こちらも武器を模したオブジェ形態になります。
やたら多いですね。武器。

敵の目的 ※ネタバレあり

敵の目的は冥王ハーデスとして覚醒するフェニックス一輝を抹殺すること。

TIME ODYSSEYの時間軸はTVシリーズとは異なり、冥王ハーデスの肉体として心清らかな魂の瞬ではなく強靭な魂の一輝が選ばれた世界線になっています。
クロノスの予知した未来ではアテナが一輝ハーデスとの聖戦に敗北して地上がグレイテストエクリップス永遠の闇に閉ざされることに。
それを懸念した天帝ゼウスは、未然に危機を防げばクロノスをオリンポス十二神に昇格させることを約束。
クロノスの暗躍(具体的内容は不明)によって見事に星矢たちが勝利して一輝は死亡したと思っていたものの、白銀聖闘士の襲来を受けた星矢たちを救うべく復活。
予想外の事態にクロノス配下の闘士たちはアテナに一輝の場所を尋ねに行くも、余計な情報を明かしたうえに敵対してしまうことに。

ポイントは、クロノスはアテナと敵対せずに一輝だけを抹殺したいこと
オリンポス十二神入りを目指すクロノスからすれば、アテナはオリンポス十二神の一柱かつゼウスの娘なので敵対したくない。
そもそもアテナを聖戦に勝たせるために動いているので、アテナ陣営に無用な損害を与えることは本末転倒ですからね。

評価

Vol.1 前編を読んだ感じだと、ストーリーはなかなか面白そうです。
敵闘士の設定も、スピンオフ作品の中では上手く練られている部類で期待が持てます。

一方で絵柄はアニメに準じすぎていて正直いって期待はずれでした。
ページ構成も自分の読んだことのある『サンドマン』や『Michael Moorcock's Multiverse』等のグラフィックノベルと大差なくて、フランスのバンデシネといえば結構有名なのでもっと独自性があるものが出てくるかと思っていました。

とはいえバンデシネとしての独自性が見えないからといってつまらないわけではないので、この先もチェックするつもりです。






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