過激派百合厨の私がVRChatで得た安息

最初にはっきりしておくが、私は「バ美肉百合」とかいう言葉と本当に和解できないし、できれば無くなってほしいと思っている。だって女の子同士じゃないじゃん!ぶちギレ金剛だよ!(ここまでが挨拶)

さて、このタイトルをクリックしてしまうレベルの百合厨ならば「VR界隈で男同士が女の子アバターをかぶってイチャイチャしている」という噂くらいは聞いたことあるだろう。そして「そんなもんが百合を名乗るな殺すぞ」くらいの感想を抱いたことと思う。このヨドコロちゃんもその一人だった。しかし今、私は男だらけのVRChat社会で自分でも驚くほどの安寧を得ている。過激派百合厨としての思想は保ったまま、である。

VRSNSの中で起きていることは"体験"であるため、文章や画像では"外"に伝わらない。なのでここでは単に私の感想を書く。あとはあなたが判断して欲しい。

VRChatという環境

VRChatに入って、適当なイベントなりに参加すると、否応なしに美少女アバターに囲まれることになる。メンズとか人外とかのレギュレーションを規定しない限り9割はそういうことになる。マジで。

それ自体は普通に眼福なのでありがたいのだが、VRChatはゲームの皮を被ったSNSであり、そこにはある種の社会が存在している。人間関係であったり、ヒエラルキーであったり、界隈によって異なる多様な文化であったり。すると当然の帰結として、いちゃいちゃが始まる。美少女のアバターを着た男同士がまあ~~~キャッキャウフフとしか言いようがない状態になる。あるプリパラ二次創作では「少女性の墓場」とか表現されていたやつそのもの。


初めて見た時の第一印象は、「うわぁ」になると思っていた。

実際に感じたことは「わー、いいなー」だった。


ちょっと待てよ。いいなって何?なにうらやましがってんの?あれは死ぬほど憎んでいたパチモンの百合じゃないのかよ!>自分

本質

当たり前なのだが、VRSNSにいる人は「VRSNSにいる人」であり、決して「提供されたコンテンツ」ではない。現実の人間が「私は百合だ」などと宣言しないように、彼らは自分の人間関係にどういう名前が付いているかなど気にしないし、言ってもせいぜい「お砂糖」とかいうふわふわした概念を提示してくる程度である。誰にも百合と名付けられていないので、パチモンも何もない。

コンテンツは普通消費者のために作られるものだが、VRChatでは誰もが「誰かのためにいる」わけじゃない。だからありのままに起きていることをただ受け取ればよくて、ただなんとなく、美少女の見た目をした何か同士がいちゃいちゃしていたら嬉しいという素朴な感情が成立する。それは私のためのコンテンツではなく、彼らがそうしたいからしているだけなのである。

この感覚をどう説明したものか……「VRChatに来い」以外の説明を無理やりつけるなら、以下のようになるだろう。

ユリエール

かつて、シソ科ハッカ属の植物からしか採れないと思われていた清涼成分があった。メントールである。人々はメントールを得るため、ハッカを必死に栽培し、精製し、ハッカ油やハッカ脳として取引した。しかしある時、石油由来の合成メントールが現れると、これらはたちまち駆逐され、自然由来の国産メントールは高級な嗜好品になってしまった。

私にとって、VRChatで起きたことは、まさしくこれなのである。

百合でしか満足できないと思っていた。

"それ"は「百合からしか採れない成分」だと思っていた。

だが私の前に、「"それ"と同じ効能を持つ、百合由来でないもの」が現れてしまったのである。

石油から作ったメントールを「ハッカです」と言ったら詐欺である。誰でもキレる。だが確かに、合成メントールが清涼感をもたらすように、美少女アバター男性同士のいちゃいちゃ観測から得ている"それ"には百合厨としての渇きを潤す成分がある。百合じゃないのに。これは何なんだ?

私はこれをユリエールと命名する。

百合から採れ、百合厨が求める成分である。だが、百合以外から合成することもできる。天然ユリエール合成ユリエールである。

VRChatはただそのへんに"いる"だけで合成ユリエールが無限に摂取できる。百合作家が丹念込めて栽培した漫画や小説をせっせと消費する必要がない。

そりゃ天然ものに比べれば、純度はまあまあだし、出来は玉石混淆だし、いつもいつも求めるほどのものが手に入るとは限らない。感動するほどのものに出会えるのは滅多にない。だが変な話、百合における天然と合成はプロセス的にはむしろ逆の呼称を用いるべきにも思える。作家によって合成された純度の高いユリエールと、環境と人間関係の相互作用によって醸成された天然で純度の低いユリエール。どっちがいい?

私は後者を選んだ。そういうことだ。

安息

天然ユリエールと合成ユリエールは互いに競合するものではない。合わなければ服用をやめればいいだけだし、そんなのコンテンツ一般に言える普遍的な性質である。

私は気に入った。だからVRChatにいる。

最近の楽しみは自分で何らかのコンテンツを作ってVRChatに供することである。焼きマシュマロごっこができるワールドを作ったら、そこに集まった人々が自然とマシュマロを食べさせ合う様子を観測できた。相手に触れるとコントローラーが振動するギミックを作ったら、人々が喜んでなでなでし合う世界がたくさん生まれた。うおォン。私はまるでユリエール製造機だ。

この世界に百合はない。だが百合を求める心は満たされる。

百合厨よ、恐れるな。憎むな。お前もVRChatに来い。

合わなければ去ればいい。だがひょっとしたら、お前の安息はここにあるのかもしれないぞ。



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