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マッチ

マッチを擦っては、火を点ける。
私はその火が消えないように
そっと手を添えあなたへ贈る。

触れそうで触れない隙間をあけて
あなたは私の手を包み
くわえた煙草に火をつける。


「どうしたの?その指」
「あ…これ?こないだ、お客さんのボトル下ろした時に、栓をうまく開けられなくて、切っちゃったの。」

「ダメじゃない。せっかく綺麗な指してるのに。煙草吸うたびに心配になるだろ?」

「ふふ。じゃあ栓を開けなくてもいいお仕事探さなくちゃ。」

「辞めなくても、今度ボトル下ろすときは、客に開けてもらうか、俺のところに持って来いよ。開けてやるから。」

「おかしな人ねえ。お客さんにそんなことさせるなんて失礼だし、私一人しかいないのにそんなこと言ったら、あなたが来ないときにボトル開けられないじゃないの。商売が成り立たないわよ。」

「いいんだよ開けなくて。毎日来るから。開店から閉店まで。」

「ホント?じゃあいっそ、包帯で手を巻いてしまおうかしらねえ。煙草の火も点けられなくなるけど。」

「いや、それもダメ。おれはその指に点けてもらう火でしか、煙草は吸わないの。家は子供と嫁さんに怒られるから。」

「しかもマッチでしょ?もう、困った人ね。ああ、私が居なくなれば禁煙できるじゃない。何度も失敗してるでしょ?」

「仕方ないよ。君の指のせいだからね。煙草を止められないのも、この店に通うのも。」

「すぐ人のせいにするんだから…はい。」


煙草を取り出す仕草をみては、マッチを取り出し火を点ける。
その後フッと息を吹き、その火を消すのも私の役目。

「恋」はポチャンと堕ちるもの。
「愛」はゆっくり育てるもの。

その火が灯(とも)る時間だけ
私とあなたは「恋」をする。

(マッチ-Fin-)

読んでいただきありがとうございました。これをご縁に、あなたのところへも逢いに行きたいです。導かれるように。