見出し画像

形見分け

「あ、これ良かったら持って帰って。」
昨年末、お店で母から手渡された紙袋。
「ん?何よ。」
そう言いながら中身を覗くと、色とりどりのスカートがまとめられていました。

画像1

「わあ!これ・・・一緒に仕立てに行ったやつ・・・。」
「あんたよく覚えてるわねえ。忘れてると思った。」
「いやいやあそこ、私ブラジャーでお世話になったとこだから。」
「あ!私が忘れてるわ。そんなこともあったねえ。」

私が小学校高学年の時、母は大家さんから老朽化で物件の取り壊しを告げられて、20年程続けていた居酒屋を今のスナックに移転させる準備を進めていました。
ちょうど風営法の大改正が行われた時期だったような。

お店の衣装としてスカートを仕立てに、馴染みの洋品店へ連れて行ってもらっていました。ちょうどバブルで景気が上向き始めている頃だったでしょうか。

その頃、私の胸を気にして、下着を洋品店の店主に注文してくれた記憶が蘇りました(笑)子供が3人女だったので、こういうところはよく気が付いてくれる母。動きやすい「スポーツブラ」なんてありました。今は「ファーストブラ」?だったかな。私もそれに習って、娘のサイズを測って、お店に連れて行った記憶があります。

ワンピースやスカートなど、ちょっとした洋服は自分で作るか、生地から選んでオーダーで。今はあまりない贅沢なものかもしれません。巡り巡って生地のデザインがいいんだなあ。

ただ、こういったものを渡されるたびに「終活だ」と言われるのがなんとも複雑で。アクセサリーや服、着物なども少しずつ「形見分け」が始まっています。

長く生きている分、客商売というのもあって、毎年のように誰かを見送るなか、母なりに「自分は後になってから周りに迷惑をかけないように」とコツコツ整理しているのです。

小さい頃は夜家に居ないし、居れば「鬼か」と思うくらい、しつけも厳しかったんですけどね。身長も年を追うごとに小さくなっていきます。

こうして一緒にお店に立てる時間が、段々と貴重になっていくのを感じながら、見習わねばなあとおもう日々です。

ただ、ついこないだも、店が終わって疲れて帰ってきたのに玄関の灯りが点いていないのに腹がたって、夜中に父を叩き起こして夫婦喧嘩を仕掛ける辺り、終活はまだ早いんじゃないかと思ってしまうのですが。

自分もあまり物は増やさないようにしよう。なるべく迷惑をかけずにおしまいにしたいなあ。

あ、水曜日の大阪へ、このスカートを履いていこう。noteカラー。

画像2

(形見分け-Fin-)


読んでいただきありがとうございました。これをご縁に、あなたのところへも逢いに行きたいです。導かれるように。