輪作なんてしたくない(連作障害について)

輪作の例

私が家庭菜園を始めて以来、折に触れて悩まされてきた言葉が連作障害です(次点がフカフカの土)。

畑の同じ場所に同じ種類の野菜を続けて植えると生育が悪くなるとされており、これを連作障害と呼びます。

その理由として挙げられているのが以下の3つです。

  1. 土壌中の成分(肥料)バランスが崩れること

  2. 植物に特定的な病害虫が蓄積、集中すること

  3. 植物自身が分泌する物質による自家中毒

連作障害の原因とされる3要因

この連作障害を予防するための対策として以下の3つが挙げられています。

  1. 同じ科の作物を続けて植えるのを避ける(輪作)

  2. コンパニオンプランツや別の科の植物を近くに植える(混植)

  3. 微生物の多い土作り

また、もし連作障害が発生してしまったら土壌消毒などが推奨されています。

ここまでは「連作障害」というキーワードで検索すればどこの園芸情報サイトにでも書いてある情報です。

私が家庭菜園を始めたばかりで純真無垢だった頃、そんな恐ろしいものがあるのかと思いました。そこで私は連作障害対策に真面目に取り組もうとしました。

まずは輪作です。

あちこちのサイトから連作しては良くないと書いてある野菜をメモし、畑のレイアウトと照らし合わせながら数年に渡るローテーションを組み上げようとしました。

しかし、ハタと気付きます。

そもそも私が育てたい野菜はそんなに種類がありません。

私が育てたいのは

  • 好きな野菜なので自宅で大量に消費できる

  • スーパーで買う野菜に比べて味が違うとか、珍しいなどの付加価値がある

  • 趣味なんだから手間は惜しまないとしても、スーパーで買う方が遥かに安い、とはならない

という条件を満たすものです。

具体的にはトマト、ゴーヤ、スイートコーン、カボチャ、ブロッコリ、のらぼう菜、大根しかありません。

特に秋冬野菜のブロッコリ、のらぼう菜、大根はみんなアブラナ科です。アブラナ科とゴーヤの輪作年限は2~3年、トマトに至っては3~4年だそうで、どうやってもこのメンバーではローテーションが組めません。輪作の為に別に育てたくもない野菜を育てるべきなのでしょうか。

悩んだ挙句、表の情報は無視してゴーヤとトマトの場所くらいは毎年入れ替えていました。

でも、面倒くさいのです。

トマトは初夏、ゴーヤは盛夏の野菜です。狭い庭でも日の当たり方は違うのでやっぱりそれぞれに向いた場所で育てたい。支柱を立てたりネットを張ったりも毎年場所が違うとやりにくい。

もういいや。なるようになれ。と連作障害は気にしないことにして、毎年同じ場所で同じ作物を育てるようになりました。

主観的には、今のところ何も不都合はありません。一作ごとに生育状況や収量のデータを残しているわけではないので信頼性はありませんが、連作障害を疑わせる兆候は出ていません。

それでもやはり気になります。園芸情報サイトが揃いも揃って連作障害に気を付けろと脅してくるのです。一体、本当に連作障害は存在するのでしょうか。

(長い導入でしたがここからが本編です)

結論から言えば、連作障害はあります。連作によって病原となる菌類やセンチュウが増加し被害をもたらすことに関する数多くの論文があります。また、その対策として、どの作物の後に何を植えると病虫害の軽減につながるかが報告されています。

ただ、これらの論文の研究対象はいずれも大農園です。検討されている作物も小麦やトウモロコシなど大規模に栽培される穀物が圧倒的です。そもそも研究としての経済的価値を考えると大農園の収量改善は大きな意味を持ちますが、家庭菜園がどうなろうと大して問題ではありません。

家庭菜園をやっている人はこれらの研究を拝借することで自分の畑で何が起こっているのかを推察しようとします。

しかし、このやり方には限界があります。大農園と家庭菜園では環境ややっていることがまるで違うからです。

混植一つとってもそうです。大農園では何百メートルも同じ作物だけが植わっています。一方、畝一つ違えば別の作物が植わっている家庭菜園では意識しようとしまいと自然に混植状態になっています。

大農園では機械で同じ種類の作物を延々植え付けます。家庭菜園では別の種類の作物の植え付けに使ったスコップを一回ごとに消毒するでもなく使いまわします。

大農園は土壌分析によって施肥設計します。家庭菜園では採算度外視で堆肥や肥料を投入する傾向があります。土壌分析なんてお高いものにはそうそう手が出ません。

大農園と家庭菜園では環境が違い過ぎるのです。家庭菜園レベルの営みで連作障害が起こるのか、この問いには私は明確な答えを持っていません。誰かちゃんとした論文を見つけたら是非教えてやって下さい。

では数々の園芸サイトに書いてある情報は何なんでしょう。これも私にはよく判りません。そもそも出典の書いてあるサイトがほとんどないか、あったとしても園芸の入門書みたいな本で論文ではない。あの詳細な輪作年限の表は誰がどうやって作ったんでしょうか。出所不明な表をみんなでコピペしているのでしょうか。

家庭菜園での連作障害に関しては判らないことだらけなのですが、とりあえず私の心の健康の為に、連作障害の要因とされるものに反論していきたいと思います。

  1. 土壌中の成分(肥料)バランスが崩れること

    これには植物がそれぞれ必要とする肥料分が科によって異なっているという前提があります。

    マサチューセッツ大学アマースト校のサイトに作物によって土壌から持ち出される肥料成分の表があります(単位がポンドヤード法なので比率だけ見ます)。

    大学の出している数字なので信用することにすると、N-P2O5-K2Oの比率でトマトは200-78-280、同じナス科のナスは207-46-34です。窒素はどの野菜も一様に多いのですが、トマトとナスではカリの比率が全然違います。トマトの後にナスを植えて何が悪いのか判りません。

    同じアブラナ科のブロッコリ(165-10-210、トータルを手計算)とキャベツ(125-30-130)でも全然違います。ブロッコリはリンが特に少ない。

    連作障害を起こしにくいとされているスイートコーンですがこの表では155-20-105とされている一方、社団法人熊本県野菜振興協会によるスイートコーンの推奨施肥量は40-30-30です。リンが多過ぎでカリも少し多い。なぜ肥料バランスが崩れないのか判りません。

    また、最近では作物によって必要な肥料分は大差ないのではないかという論文もあります(学士論文なので大丈夫かという気もしますが)。細胞レベルで考えればどの植物だって大して変わりはなく、ある植物だけATPやDNAが妙に多いといったこともない筈なので、実際そうなのかも知れません。この場合、肥料バランスの崩れによる連作障害という理由づけは根底から崩れます。

    さらに、肥料バランスがもし崩れたとしても理屈としてはその分の肥料を化学肥料などで補ってやれば済む話です。なぜわざわざ手間のかかる輪作をしなければならないのか謎です。

  2. 科によって特定的な病原が蓄積、集中すること

    そもそも科によって病原が異なるというところから誤りです。

    メロンやサツマイモのつる割病、トマトや豆類の萎凋病は糸状菌の一種Fusarium oxysporumによって引き起こされます。この菌は幅広い植物を宿主とすることが出来ます。Fusarium solaniも大豆やジャガイモ、カボチャなど幅広い植物に感染します。Fusarium属は土中で十年は生き残りますし、それこそどこにでもいます。

    リゾクトニア病を引き起こすRhizoctonia solaniもナス科野菜、ウリ科野菜、アブラナ科野菜、ネギ類、ニンジン、ゴボウなど幅広い野菜に感染します。

    菌類だけでなくセンチュウも科を跨ぎます。

    サツマイモネコブセンチュウは名前こそサツマイモですが、3000以上の植物を宿主と出来ると推定されています。

    ミナミネグサレセンチュウもジャガイモ、サツマイモ、イチゴ、落花生などを宿主とします。

    逆に「ナス科対抗植物の短期間栽培によるジャガイモシストセンチュウ密度低減」(北海道農業研究センター)という報告によるとジャガイモに害をなすジャガイモシストセンチュウの抑制に同じナス科のトマトの野生種やハリナスビが効果があるとあります。同じナス科でも病原体に対する反応は異なります。

    (上に挙げた病虫害はマイナーな例ではありません。農業では大きな被害を出すこともあり、よく研究されている病虫害です。)

    これは輪作そのものに意味がないというわけではありません。病原体を正確に特定し、その宿主にならないような植物を選んで栽培すれば、きちんと輪作は効果を発揮します

    植物を雑に科で分けて輪作をすることに大きな効果があるのかどうかが疑わしいという話です。

  3. 植物自身が分泌する物質による自家中毒(アレロパシー)

    この自家中毒に関してはセイタカアワダチソウがよく例に取り上げられます。セイタカアワダチソウが地下部から分泌する化学物質によって、自身の種子の発芽が抑えられ、他の植物の生育は阻害されます。しかし、セイタカアワダチソウは多年草です。種子の発芽が抑制されたとしても同じ個体が同じ場所で元気に育ち続けます。

    トマトは日本では寒さで枯れるので一年草扱いですが、熱帯では多年草です。やはり同じ場所で何年も元気に育ち続けます。たとえアレロパシーがあったとしても自身の生育を阻害したりはしない筈です。また、トマトが種子の発芽を抑制する何かを出していたとしても家庭菜園でトマトを種から植えたりはしません。苗で植え付けます。そのトマトが長い輪作年限を割り当てられていることは不思議なことです。

    マリーゴールドが根から出す分泌物は多くの土壌生物、特にセンチュウに対して強い毒性があり、センチュウの抑制に利用されます(この記述には追記があります)。しかし、他のキク科の植物はこのような特性を持っていません。種によってならともかく、科でアレロパシーを分ける意味が判りません。

連作障害という現象自体はあります。ですが、連作障害に対する対策として、植物の科によってローテーションする輪作にはその効果に疑問が残ります。連作障害が疑われるならその原因は特定すべきです。また、最低限、種によって輪作を考えるべきです。科では雑過ぎます。

ろくに検証もされていないところを見ると、科による輪作は大昔に誰かが言い出したことを後の人たちが無批判にコピペしているだけのような気がします。

別に科による輪作を完全否定するわけではありません。検証されていないだけで、本当は幾らかの効果はあるのかも知れません。しかし、連作障害対策として一番初めに持ってくるのは順番が間違っている気がします。

では先に挙げた連作障害対策の残りの二つはどうでしょう。

混植という意味では大農園に比べれば、家庭菜園はもとから混植です。あえて対策として挙げるまでもありません。

最後に残った微生物の多い土作りは連作障害に関わらず、出来るだけ農薬に頼らない病虫害予防の基本となります。

土壌生物の多くは植物の生育に何らの影響も及ぼしませんが、彼らが大量にいることにより病原体の植物の侵入が抑制されます。

また、大量の土壌生物はその激しい生存競争を通じて特定の病原体が大発生することを防ぎます。

一方、土中において最大のプレイヤーである植物は光合成で作った豊富な有機物を自らに利益となる微生物に与え、土中に様々な化学物質を放出することにより、徐々に自らに有利な環境を作り上げます。樹木や多年草が数年たったら連作障害で調子を崩すなど聞いた事がありません。

微生物の豊富な土にするためには微生物の餌となる有機物を与え、湿度や温度が保たれる環境を与え、その環境を擾乱しないことが大切です。

それが不耕起栽培であり、連作障害を含めた病害予防の有効な手段となります。

(もう一方の対極が土壌消毒です。センチュウ害には特に効果があります。が、大半のセンチュウは植物に害をもたらさない一方で、土壌の生態系の中では重要な役割を担っています。土壌生物の多い土と土壌消毒は二者択一の選択です。普段は微生物の多い土作りを目指して、センチュウ害が発生したら土壌消毒というようなものではありません。)

もっとも理屈は勇ましいものの、病虫害に対する不耕起の効果が実際に検証されているかという点は甚だ心許ないところがあります。

No-till Farming Systems for Sustainable Agriculture所収のChallenges and Opportunities in Managing Diseases in No-Till Farming Systemsにはという文章には根腐れ病や立ち枯れ病は不耕起や減耕起で一般には減るとありますが、変わらないとする研究もあります。センチュウ害も同様に減るという結果もあれば、変わらないとする結果もあります。

逆に不耕起で病原体が増えるとする研究もあります。例えば、先に挙げたRhizoctonia solaniは不耕起転換初期には増えたという報告があります。ところがその後、7~10年不耕起を続けた結果では逆に減少したとする論文があります。

同所収のChallenges and Opportunities in Managing Pests in No-Till Farming Systemsという文章には節足動物による害のうち耕起を減らすかなくすことで43%が減少、28%が増加、29%が変わらずとした論文が紹介されています。

何だかはっきりしない。

一概に不耕起や減耕起とは言っても色んなやり方があるので研究結果にブレが出るのかも知れません。気候や土壌にも差があります。不耕起に向かない気候や土壌というのもあるかも知れません。さらに土壌生物が激しい生存競争を繰り広げ、病原体の一人勝ちを許さない生態系を作り上げるには時間がかかるのかも知れません。

しかも例によって研究は大農園が中心です。家庭菜園レベルで何が起こっているのかなど研究されていません。

ですが理屈は正しい筈です。実験室レベルでは捕食者がいるほうがセンチュウの数が一定範囲に抑えられることも確かめられています(Biological Control of Plant-parasitic Nematodes, 2nd Edition)。例え時間が掛かったとしても、野菜が病虫害に罹りにくい畑を作るためには微生物を含めた土壌生物の多い土壌を作ることには意味があると信じます。

そのためにも不耕起栽培は有効であり、最良の連作障害対策でもあります(別稿1別稿2)。

私はこれからも輪作はしない予定です。園芸情報サイトに脅かされ続けたので、ちょっとビビりながらではいるのですが。

勝算は、あります。

土壌中の食物連鎖
実際はもっともっと複雑です



追記

マリーゴールドがセンチュウに毒性のある物質を放出していることまではいいのですが、これがセンチュウを実際に減らすことに役立っているかどうかははっきりしていません。
植物を食べるセンチュウが他に食べるものがなくて仕方なくマリーゴールドを食べようとするものの、マリーゴールドの組織に侵入したときに初めて、組織中に含まれる毒素でやられてしまうという見方が主流のようです。
この見方に従うとセンチュウ害を減らすためにマリーゴールドをコンパニオンプランツとして植えることは逆効果だと言えます。センチュウは嫌なマリーゴールドを避けて、作物に向かうからです。効果的なのは作物を植える予定の場所に前作として密に植えることのようです。
またマリーゴールドの品種によって抑制できるセンチュウの種類も変わってきますので、まず標的とするセンチュウを同定することがセンチュウ抑制の効果を得るためには必要です。(参考文献12

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