高御座山

(2022年2月18日の記事)

今年に入って地元の名峰「高御座」に二度登った。標高は304m。低山ハイク。軽装でサクッと登るにはもってこいの山。ルートによっては多少の険しさもあるだろうが、老若男女から幼児まで無理なく登ることができるので、他府県からも訪れるくらい人気の山である。
登った人はわかると思うが、低山ながら、山頂からの眺めはかなりの絶景で遠くまで見渡せる。奥に淡路島、播磨灘から瀬戸内海を一望でき、加古川を中心とした播州平野に先祖代々が築き上げてきた街並みがある。海側には煙を上げる工場地帯があり、土地柄の田んぼと野池の多さもよくわかる。ここから眺めればこの地域の生活が一目でわかると言っていい。
鳥の眼というやつか。あの辺りが自宅かな。あの辺りが自分の店かな。などと見ていると、日々の仕事、カットやシャンプーをしていることがあまりにも小さいことに思えてくる。葉を見て木を見ず。木を見て森を見ず。といういつか知った言葉まで思い出させてくれる。
そして、それは男心を揺さぶってくるのである。もっと大きなことを考えねば。この先の人生、日本の未来、世界の行く末。まだまだ何かできることがあるはずだ、と。山頂とは色々と気づかせてくれ、心を大きくしてくれる。これは山頂マジックと名付けたい。
その日も登り切り、山頂で黄昏ていた。さすがにこの時期なので動きを止めると汗も冷え、風の冷たさが身に染みてきたので、下山しようとした時である。
七十代手前であろう男女が絶景を背景に記念撮影をしていた。気が大きくなっていたせいか、お撮りしましょうか?とカッコをつけて声をかけた。すると、めちゃくちゃ喜んでくれて、肩を抱き合わせラブラブなポーズを始めた。うん、いいじゃないか、いつまでも素敵な夫婦だ。と思っていたら、どうやら、夫婦ではないらしい。うん、それでも構わない、山頂とはそういう場所だ。
男性の方は奥様が早くにお亡くなりになり、その後に知り合ったその女性と来ているという。うん、人生をエンジョイしてる、いいじゃないか。ヒューマニズムでいい。この四年で百近くの山を二人で登っているという。
「今日はお兄さんに声をかけてもらって本当に嬉しかった。人生はね、、、」と山頂で人生訓の講演会が始まった。「、、、お金はあるほうがいい。けど、何よりまず健康であることが大切だ。そして、できるなら孤独でいるより、一緒に楽しめる相手がいる方がいいよ(ありがとうございました)。」と演歌歌手が歌い終わりにする、ありがとうございましたまで聞こえてきた。
お互いに愛想良く話終えて、別れ際に「それでは、またどこかの山でお会いしましょう。」と僕もカッコをつけて粋な一言で締め括ると、さらにその男性は「おお、本当に君のような若者がいれば日本の未来は明るいな、今日はありがとう。」とさらに感極まり日本の未来を僕に託してくれた。
はっはーん、おっちゃんも僕と同様、山頂マジックにかかってるなーとニヤつきながら下山した。つまり、山とはそういう場所なのだ。低山ハイクだが、高御座山はおすすめである。

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