2. 思考の定義『石橋を叩いて渡る哲学』

 思考の定義の必要性

 仮説思考を用いて、まずは思考の定義を行います。石橋を叩いて渡る哲学において、思考の定義は仮説思考とは違って「実在的な要素」となります。一方、仮説思考は「実在的な要素」というよりはそれを造る手段です。構成要素そのものではありません。仮説思考は手段であり、思考の定義は仮説思考による成果物というわけです。例えるならば、思考の定義は家の土台で、仮説思考は建築のスキルということです。故にどちらも重要ではありますが、石橋を叩いて渡る哲学は思考の定義という「実在的な要素」が無いと何も始まらないのです。

 思考の定義における前提

 1972年、カナダの心理学者エンデル・タルヴィングが記憶の区分についての論文を発表して以来、人間の記憶の区分についての議論は現在でも盛んに行われています。現在に至るまでさまざまな説があるものの、人間の記憶の区分は、長期記憶と短期記憶、長期記憶の中では、さらに、明示的に言語化できる宣言記憶とそうでない非宣言記憶に分かれており、さらに、宣言記憶は、エピソード記憶と意味記憶、非宣言記憶は技能と習慣・プライミング・単純条件づけ・非連合学習などに分かれているとされる説があります。ここで、我々が着目すべきは言語が関わっている宣言記憶の中のエピソード記憶と意味記憶です。まず、認知心理学の分野からこの知識を思考の定義における前提として採用します。

 続いて、2022年後半から現在に至るまでAI、特にLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)が急速に進化しています。私も週に何回もOpenAIのChatGPTをはじめとしたさまざまなAIにお世話になっています。このLLMが面白いのはコンピュータなのに知性を感じさせるという点です。しかし、LLMは生き物ではなくコンピュータなので当然のことながら意識はありません。このことから、知性とは言語能力に依存すると考えることができます。

 したがって、LLMの知性の構造を理解することによって間接的に人間の知性を説明できるのではないかということが考えられます。LLMに関して頻繁に聞くセリフとして「LLMは本当に思考してるわけじゃなくて、単に与えられた単語から次の単語を予測する作業を繰り返しているだけ。」
というものがあります。私はここにヒントがあると思います。ここで、このLLMの現象に仮説思考を用いて、仮説を立てます。
その仮説とは、
 「人間の思考とは、ただ単に知識から知識を遷移する作業を繰り返しているだけなのでは?」
というものです。LLMがある単語から次の単語を予測してその単語を連結させる作業を繰り返しているだけであり、そのLLMが知性を感じさせるのであれば、この仮説自体の理屈は通ります。また、この仮説は認知心理学の記憶区分の1つである、宣言記憶という言語と関連が深い記憶の存在とも食い違うことはありません。加えて、この仮説を完全に否定できる材料も今のところありません。そもそも、私達が普段行っている思考については現在の自然科学でも完全な解明には至っていません。つまり、この仮説を否定する材料となる理論・仮説はあるかもしれませんが、完全に否定する事実は無いだろうということです。

 思考の構造

思考の構造
├── background
│   ├── 思想の構造
│   │   ├── background 
│   │   │   └── 思考には価値観(知識体系・知識・体験)が影響を与える。
│   │   │       └── それぞれ保有している価値観によって思考の出力に偏りが生じる。これを思想という。
│   │   └── 思想 = 思考
│   └── 記憶の要素
│       ├── 短期記憶
│       │   ├── background
│       │   └── 一定期間の経過で忘れる。
│       └── 長期記憶
│           ├── background
│           │   └── 一定期間の経過しても忘れにくい。
│           ├── 知識記憶
│           │   ├── 知識
│           │   └── 知識体系
│           ├── エピソード記憶
│           │   └── 体験
│           └── 暗黙的記憶
│               └── 運動の技術
├── 思考の要素
│   ├── 意識
│   │   ├── background
│   │   │   └── 例:アインシュタインの頭の中の黒板
│   │   │       ├── 一定の間隔で頭の中の黒板を発火・認識。
│   │   │       └── 頭の中の黒板に知識を書く。
│   │   │           └── 一定の間隔で頭の中の黒板と同時に新たな知識体系・知識を発火・認識。
│   │   └── 一定の間隔で外部からの情報と内部の情報の自我を認識
│   │       ├── 一定の間隔で自我(内部の情報)を発火・認識。
│   │       └── 一定の間隔で現実(外部からの情報)を発火・認識。
│   ├── 感性
│   │   ├── 感情
│   │   ├── 感覚
│   │   └── 価値観
│   │       └── 知識・知識体系・体験によって作られる。
│   │           ├── 知識
│   │           ├── 知識体系
│   │           └── 体験
│   └── 理性
│       ├── 知識
│       │   ├── background
│       │   │   └── 一定時間内におけるニューロンの単発発火
│       │   ├── 作業以外の知識
│       │   └── 作業の知識
│       └── 知識体系
│           ├── background
│           │   ├── 考え方
│           │   ├── それぞれの知識が繋がった構造体
│           │   └── 一定時間内におけるニューロンの同時発火
│           ├── 作業以外の知識体系
│           └── 作業体系(アルゴリズム)
│               └── 作業の体系
└── 思考
    ├── 夢
    │   ├── background
    │   │   ├── 通常の思考の派生
    │   │   │   └── =(通常の思考 ー 意識)
    │   │   ├── 内部の情報
    │   │   │   ├── 事実としての知識体系・知識
    │   │   │   └── 仮説・妄想としての知識体系・知識
    │   │   └── 内部の情報のみで連想・記憶する・思い出すを繰り返す。
    │   ├── 連想
    │   ├── 記憶する
    │   └── 思い出す
    ├── 通常の思考(浅い思考)
    │   ├── background
    │   │   ├── 通常の思考
    │   │   ├── 外部からの情報
    │   │   │   └── リアルタイムの情報・入力
    │   │   ├── 内部の情報
    │   │   │   ├── 自我の情報
    │   │   │   ├── 事実としての知識体系・知識
    │   │   │   └── 仮説・妄想としての知識体系・知識
    │   │   ├── 意識
    │   │   │   └── 一定の間隔で外部からの情報と内部の情報の自我を認識
    │   │   │       ├── 一定の間隔で自我(内部の情報)を発火・認識。
    │   │   │       └── 一定の間隔で現実(外部からの情報)を発火・認識。
    │   │   ├── 聞いてパッと思い浮かんだ知識体系・知識を出力
    │   │   └── 事象に関連する知識体系・知識が発火することで関連する知識体系・知識を認識する。
    │   │       └── LLMが思考していると感じるのは、知識体系・知識が順番に発火するのと同じ構造・プロセスだから。
    │   └── 事象に関連する知識体系・知識が発火することで関連する知識体系・知識を認識する。
    │       ├── 知る
    │       │   └── 外部から知識体系・知識を入手
    │       ├── 連想
    │       │   ├── background
    │       │   │   ├── 知識から知識へ順番に発火する。
    │       │   │   └── 喋るときと同じプロセスなので頭の中で喋ってしまう。
    │       │   ├── 抽象化
    │       │   │   └── background
    │       │   │       └── 知識から抽象方向の知識を連想
    │       │   └── 具体化
    │       │       └── background
    │       │           └── 知識から具体方向の知識を連想
    │       ├── 記憶
    │       │   └── background
    │       │       ├── 知識から知識体系への変換
    │       │       └── 順番に発火させた知識の箇所を記憶する。
    │       └── 想起
    │           └── background
    │               └── 順番に発火させた知識の箇所を一度に発火させる。
    ├── 深い思考による新たな知識体系の生成
    │   └── 通常の思考を繰り返す中で、仮説・妄想としての知識体系・知識を他の知識体系・知識と結ぶ。
    │       └── 仮説を立てる
    │           └── background
    │               ├── 仮説を立てるメリット
    │               ├── 新たな知識体系の生成
    │               └── 仮説 = ( 知識 + 知識体系 ) * 価値観
    │                   └── background
    │                       ├── 知識
    │                       ├── 知識体系
    │                       └── 価値観
    └── 作業体系(アルゴリズム)の実行
        └── 仮説思考
            ├── 随時、最適解に相応しい知識体系に入れ替え続ける。
            └── 知識体系自体の更新

 さて、今度はいよいよ先程の仮説に基づいて思考の構造を定義していきます。思考の構造は、次の2つの大きな構造によって成り立ちます。
 ・思考の要素
 ・思考の仕組み

 思考の要素は、思考を構成する材料です。思考の仕組みは、思考の要素を利用して行われる、思考の機能としての動きを指します。両方の大きな構造を一度に定義するとわかりにくいので、それぞれ順を追って定義していきます。

 思考の要素

 まず、思考の要素から定義していきます。もちろん、定義する構造は脳神経科学とLLMという2つの前提に反しないことが重要です。

 まずは、思考の要素を考える上で、思考を構成する「具体的な要素」から考えていきます。前提の1つである認知心理学の記憶の区分から要素を抽出します。明示的に言語化できる宣言記憶として、エピソード記憶と意味記憶がありました。この2つの記憶が共通して持つ要素は言語です。その言語の中でも、エピソード記憶は体験、意味記憶は知識を持つと言えます。また、本書では、意味記憶には「知識」とその体系から成る「知識体系」があるという風に、知識という要素に段階を持たせて細分化します。
よって、思考を構成する「具体的な要素」は次の3つになります。
 ・知識
 ・知識体系
 ・体験

 次に、この3つの「具体的な要素」を一般常識である「抽象的な要素」に繋げます。どういうことかというと、
一般的に考えるであろう大雑把な思考の中には、
 ①感性
 ②理性
 ③意識
という3つの抽象的な要素があると思います。これらを先程の3つの「具体的な要素」を使ってそれぞれ表現するということです。

 まずは、①の感性です。抽象的な感性という言葉を感情・感覚・価値観という言葉に細分化します。しかしながら、石橋を叩いて渡る哲学は具体的な哲学、つまるところ言語から構成される哲学であるため、感情と感覚は感性の要素として含めますが、どちらも感覚的なものであり言語情報そのものではないため、石橋を叩いて渡る哲学においては特に言及しません。感情はエピソード記憶の中にも含まれるという説もありますが、感情自体が言語情報ではなく感覚に属することは、主観ではあるものの、我々の体験から得られる共通認識であるため、言語化可能な記憶区分に属しているからと言って言語情報として認識することはしません。言語情報として見なさないもう1つの理由としては、感情についてのロジックが完全に解明されていない点です。そもそも、エピソード記憶に含まれるという説も、そのプロセス次第ではそれ自体が否定される可能性もあります。例えば、エピソード記憶としてあのとき自分が悲しかったという体験としての記憶を想起する際に、それに呼応する形で非宣言記憶からその時の体験に似た感情が呼び出されるというプロセスである場合、エピソード記憶に感情が含まれるいう見方は可能ではありますが、実際には感情は非宣言記憶の非言語情報であるという解釈ができます。

 次に、価値観という要素を「具体的な要素」で表現します。「抽象的な要素」を「具体的な要素」で表現する際には「具体的な要素」が「抽象的な要素」に関連するかどうか考えるのがシンプルです。「具体的な要素」が「抽象的な要素」に関連する場合、「具体的な要素」が構成要素として「抽象的な要素」に含まれているということです。価値観は、体験に関連があると言えます。また、体験だけでなくその人が持つ知識・知識体系からも影響を受けますよね?つまり、価値観は体験・知識・知識体系から構成されていると言えます。このように「具体的な要素」を「抽象的な要素」に関連付けていきます。

 続いて、②の理性です。
理性の大雑把な要素として、
 ・知識
 ・考え方
というものがあります。

 まず、知識ですがこれは大雑把な要素ではありますが「具体的な要素」そのものでもあります。よって、知識・知識体系で構成されるものとします。

 次に考え方ですがこれを細分化すると、
 ・思考ロジック
 ・作業手順
と捉えることができます。これらは知識の集まりだと捉えることができるので知識体系で構成されるものとします。ここで「具体的な要素」である知識体系を細分化します。知識体系は、上記の「考え方」のような思考ロジック・作業手順である「作業体系」と「それ以外」の区分に分けておきます。

 続いて、③の意識です。これは感性における感情と感覚と同じ理由で要素として含めますが、石橋を叩いて渡る哲学においては言及しません。この「石橋を叩いて渡る哲学においては言及しない」という言い回しですが、実は後述で、定義済みの思考の要素を脳神経科学と結びつけます。そこでは、感情・感覚・意識も関わるので言及することになります。ただ、それらの要素は石橋を叩いて渡る哲学が言語で構成される哲学である以上、重要ではないという意味です。

 ようやく、思考の要素を定義付けることができました。さらに思考の要素を使って思考の仕組みを定義付けることによって思考の定義は完了します。しかしながら、仕組みを考える際にはそれを構成する要素の実体を想像できないとしっくりこないと思います。したがって、思考の仕組みを定義する前に、思考の要素を仮説思考によって記憶区分とは別の脳神経科学の知識と紐づけることによって、思考の要素の実体をイメージしていきたいと思います。「思考の要素」を使って表現するならば、ここまでの思考の要素である「知識体系」を新たな脳神経科学という「知識体系」に紐づけるということになります。

 脳の神経細胞

 脳神経科学の分野では、意識の解明のため、日々研究が行われています。今回は、脳神経科学の分野での脳の認識における物理的な原理を思考の要素そのもののイメージのソースとします。また、自明ですが、意識や脳の認識についての議論・研究は終結していません。つまり、現時点での事実に加えて、仮説を引用することになります。もし、仮説自体が間違っていたとしても、人間の脳が言語情報を持つというところまで覆らない限りは思考の要素の実体のイメージのみ更新すればそれで済みます。万が一思考の構造に用いたソースのすべてが覆った場合でも、思考の構造を最初から定義し直すまでです。この姿勢は「その時点で保有している情報を前提として、その時点での最適解を自分で考える」という仮説思考そのものです。

 まずはじめに結論から申し上げると、脳の認識に寄与する物理的な原理は、ずばり、
 「複数のニューロンによる発火のパターン」
です。つまり、「複数のニューロンによる発火のパターン」が情報そのものの姿だと定義するということです。
これについて
 ・ニューロン
 ・ニューロンの発火
 ・ニューロンの発火の同期とそのパターン
に分けてざっくりと説明します。

 ニューロン

 ニューロンは、他の複数のニューロンを介して脳の異なる領域に信号を送ることができる細長い突起を持つ脳の神経細胞のことです。ニューロンは、脳の電気配線のようなもので、外界からの情報を受信し、その情報を他のニューロンを通じてあらゆる部位に伝える役割を担っています。

 ニューロンの発火

 ニューロンは他のニューロンに情報を伝える仕組みとして、電位を持っています。ニューロンの細胞内部の電位がある閾値を超えると電位が一気に上昇するスパイクという現象を経て、別のニューロンに電気信号を出力します。これがニューロンの発火と呼ばれるものです。もう少し詳しく説明すると、電気信号を受けて、ニューロン間の接続部として機能する特殊な構造物であるシナプスという仕組みを介することによって情報の受信・処理・保存・制御を行うということになります。しかしながら、仕組みが細かすぎると逆にイメージしにくくなります。したがって、ここでは、これらの要素をまとめてニューロンの発火によって隣接するニューロンに情報を伝達するという風に解釈することとします。

 ニューロンの発火の同期とそのパターン

 ニューロンの発火の同期とは、複数のニューロンの同時発火を意味します。現在、多くの研究者は、このニューロンの同時発火のパターンが認知プロセスにおいて一定の役割を持ち、脳の離れた領域間のコミュニケーションを可能にしていると考えています。また、脳の顔の認識や記憶、運動などの特定の機能についても、脳の各領域ではなく、異なる脳領域が通信を行うような脳全体に分散するネットワークによって実行されているということが近年になってわかってきました。

 つまり、特定の役割を持った単一のニューロンによって情報を識別するのではなく、複数のニューロンの発火の同期のパターンによって情報を識別しているのではないかということです。これらの知見から、ニューロンの発火によって隣接するニューロンに情報を伝達するという一連の発火そのものを、認知に利用する「情報」と捉えることができるのでは?という仮説を立てます。

 思考の要素のイメージ

 これまでの脳神経科学の知見を簡略化させた仮説から、思考の要素のイメージを考えました。そのイメージとは、ニューロンという神経細胞がピカッと光って他のニューロンにその光を伝達するというイメージに少し手を加えたものです。手を加えるとは、複数のニューロンの発火という一連の現象はごく短時間で発生するということと、同期という重要な概念をイメージに取り込むためです。そこで、1つずつ光るというよりは情報を伝達された細胞すべてが一度に光るというようなイメージにしましょう。もちろん実際には光りません。よって、ピカッと光る稲妻のパターンが体験・知識・知識体系そのものだとイメージします。

 思考の仕組み

 いよいよ残りは思考の仕組みだけです。ここで思い出しておきたいのが、「思考における前提」で我々が立てた仮説です。
 「人間の思考とは、ただ単に知識から知識を遷移する作業を繰り返しているだけなのでは?」
という内容でした。この仮説に基づいて、思考の仕組みを定義付けていきます。

 まず、一般的かつ抽象的で大雑把な目線での思考を考えていきます。
 ・パッと考える思考
 ・悶々と悩む思考
 ・ルールに基づいて作業をするときの思考
これを少し言い換えます。
 ①浅い思考
 ②深い思考
 ③作業の思考
次に、これらを「具体的な要素」を用いて表現していく中で詳細な仕組みを定義していきます。

 ①浅い思考

 浅い思考は、ある知識・知識体系から他の知識・知識体系に脳の状態が遷移することです。つまり、稲妻Aから稲妻Bに形を変えて光るというイメージです。ここで、さらに浅い思考について細かく機能を分けていきます。

 普段私達が思考する中では、知識や体験を思い出して、しばらく経った後、また別の事柄について考えたりすると思います。
その体験から、浅い思考を
 ・連想
と捉えます。

 次に連想を「具体的な要素」によって表現します。
 連想:ある知識・知識体系・体験から別の知識・知識体系・体験に遷移すること。

 次に、連想を
 ・知る
 ・記憶
 ・想起
という3つの機能に細分化します。

 次にそれぞれを「具体的な要素」によって表現します。
 知る:知識・知識体系・体験を得ること。
 記憶:知識・知識体系・体験をまとめて記録すること。
 想起:記録した知識・知識体系・体験を思い出すこと。
となります。つまり、浅い思考とは短い時間の間で知るという作業を経て記憶した情報を想起し、それらを繰り返す連想を行う作業のことです。

 余談ではありますが、この仕組みから考えると以下のようなことも考えられるのではないでしょうか。具体化・抽象化という言葉がありますが、私はこれらは連想をする際の方向性の違いによるものであり、2つとも連想に分類されると考えられます。また、私達が思考の際に頭の中で喋ってしまうのは、喋るときにも同じように連想するからだと思います。これらは、仮説を何重にも重ねているので信憑性はありませんが、ロジックとしてそのような捉え方をすることが可能だということです。

 ②深い思考

 次に深い思考について考えます。私達が深く考え事をするとき、大抵は決まりきったことを考えるわけではなく、浅い思考では出ないような新しい知識体系を得るために行うのだと思います。ただし、ある知識・知識体系・体験から別の知識・知識体系・体験に遷移する、連想することに関しては共通している気がします。
したがって、深い思考は、
 「浅い思考を繰り返す中で、ある知識・知識体系から仮説・妄想としての新たな知識・知識体系を生成し、それらを結びつけること。」
と表現できます。

 ③作業の思考(作業体系の実行)

 最後に、作業の思考ですが、思考の要素の1つである知識体系の中の作業体系を用いて、作業体系の実行とします。作業体系の実行は、何かに基づいて思考をするということですが、これは、ある任意の既存の作業体系に基づいて自分の行動や思考を合わせると言えるのではないでしょうか。連想とは少し違ってある程度の方向性を持っています。
したがって、少し言い換えて、
 「ある任意の既存の作業体系を繰り返し想起しつつ、それについての連想を行う。」
とします。

 ちなみに、作業体系とは仮説思考などのアルゴリズム・フレームワーク・方法論のようなものです。身近な例では、記憶してる作業手順に基づいてPCを操作する。が該当するのではないでしょうか。

 夢

 意識について少し触れます。上記で定義した浅い思考や深い思考や作業体系の実行はすべて意識がある状態が前提となっています。この構造から考えると、夢は意識がない状態で浅い思考を行うことなのではないでしょうか。これも先ほどと同様、「仮説を何重にも重ねているので信憑性はありませんが、ロジックとしてそのような捉え方をすることは可能」だということです。つまり、余談です。

 長期記憶と短期記憶

 長期記憶と短期記憶に関しては、思考の構造というより記憶の構造に関する問題であるため、あまり触れませんでしたが、脳神経科学の分野では、ノルアドレナリンやドーパミンなどの神経伝達物質が短期記憶から長期記憶への移行に関わっているとされています。短期記憶は通常すぐに忘れてしまいます。神経伝達物質により知識・知識体系を血肉化させる方法は「知識体系の収集」にて述べます。神経伝達物質は直接意識して操れるものではありません。これは私の考えですが、現実的に忘れにくくする方法として、紙に書いたり、取り込んだ知識同士を紐づけて体系化したり、すでに長期記憶となって染み付いている既存の知識体系に紐づけることが重要なのではないかと思っています。

 思考の定義を経て

 これらの思考の定義を経て私が思うことは、思考の材料となる知識・知識体系・体験が重要だということです。体験は1人ではできないこともあり時間やコストがかかります。しかし、知識・知識体系・作業体系を獲得するのは時間さえあれば1人でも可能です。これらを収集してさまざまな状況において思考を巡らせることができるようになることで、つまり、石橋を叩いて渡る哲学のようなものを構築していくことで、石橋を叩いて渡る我々は初めて安心できるのではないでしょうか。

 その土台としてこの思考の定義が機能し、石橋を叩いて渡る皆様の力になれば嬉しい限りです。あとがきのようになりましたが、石橋を叩いて渡る哲学の構築はこの思考の構造を土台としてまだ続きます。

 ここであらためて本の全体を説明します。
 前半の内容は、石橋を叩いてい渡る哲学を支える重要な知識体系です。
   1.仮説思考
   2.思考の定義
   3.生きる意味
   4.実践的なお悩み解決法
   5.知識体系の収集

 後半の内容は、現実的な問題に焦点を当てた、石橋を叩いてい渡る哲学を支える重要な知識体系の上に成り立つ知識体系となります。
   6.人間関係の問題
   7.自信がない人
   8.労働の問題
   9.木ではなく森を見ろ
 10.日本社会の問題
 11.政治の問題
 12.AIと哲学


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