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立ち飲み道

 中高年にとっての「ディズニーランド」と言っても過言ではない、それは魅惑の「立ち飲み屋」!

 気軽にふらりと入店するお客を優しく迎え入れ、安価で美味しい逸品料理、そしてホッピーなどのカジュアルドリンク!

 老いも若きも、ニートも社長さんも、ここでは身分も何も関係ないのです。

 嫌なことがあっても一杯。
 嬉しいことがあったらなおさら一杯。

 明日、よりエネルギッシュに活動するための「給油所」、それが立ち飲み屋なのです!
(さっきはディズニーランドと形容しておりましたが)

 この手の居酒屋が、これからもずっと存続してくださることを願うばかり。

 だからこそ、我々幼気なお客としては、こうしたお店の存続の邪魔をしないように振る舞うのが、精一杯のマナーと言えましょう。

 立ち飲み屋における、我々お客のマナーとしては、

・サッと飲んで、サッと帰る
……薄利多売の立ち飲み屋は、何と言っても回転率が生命。
 ただでさえ親父の胃袋は相当疲弊しているのですから、そんなにたくさん食べることなどできません。
 ギャル曽根さんのような底なし胃袋をお持ちならともかく、それほど自分たちは売り上げ貢献はしていない、と思って暖簾をくぐるべきなのであります。
「スミマセンオッサンですが、ちょいと飲ませてもらってよろしいでっか」の姿勢で、腹が満たされたらすぐにお会計、というのがマナーです。

「生まれてスミマセン」の精神が、立ち飲み屋では活かされる、というものなのですね。

・大人数で入店しない
……立ち飲み屋のほとんどは、狭いスペースでワンオペ、あるいは2、3人くらいの少人数でお店を回しているものです。
 ですから、「5人なんですけど入れますかあ」なんてのはNGです。
 店からしたら真珠湾攻撃に遭ったような気分になること間違いないのです。

 それに、一人でこぢんまりとお酒を楽しもうとしているお一人様にとっても、ぎゃあぎゃあわめき散らすのが必至な大人数の客は、ただただ迷惑な話、というものなのです。

 大人数で酒を飲むのならオオバコ居酒屋に直行、これが鉄則です。

・周りの客と交わらない
……だいたい、立ち飲み屋に集うお客の80%は、一人酒を楽しみたくて来店しているのです。
 時々、誰かと話したくてたまらない、「ねえ、オヂさんの話を聞いてよ」的な輩が立ち飲み屋のカウンターで網を張っているというケースが見られますが、これは全くもっての邪道です。

 だいたい、そういう輩の話の90%は、自分の自慢話だったりするのです。決して話に耳を傾けてはいけません。

 それに、そういう輩には、どのあたりに「やる気スイッチ」かあるかは分かりません。
 ヘタにそのスイッチを押したばっかりにしつこくされ、せっかくの楽しい一人飲みの時間が台無しになってしまう恐れもあるのです。
 立ち飲み屋では寡黙に、スマホあるいは店のテレビに熱中することがマナーと言えましょう。

 ……と、お客からの「立ち飲み道」というものを述べさせていただいたのですが、人生いろいろ、立ち飲み屋さんもいろいろありまして、これってどうなのよ! せっかくの楽しい立ち飲みの時間なのに、どうしてそんな振る舞いをするのであるか! というお店に、たまーにではありますが遭遇してしまい、これは黙っておられるか、という感じでおる昨今なのであります。

 まず、新宿にある串揚げメインの立ち飲み屋に行った時の話。

 外から見て、おっ、空いてるじゃん、ゆったりできそうだなこれは、と思い入店したのですが。

 カウンター席には誰もおらず、二人飲みのテーブルに二組のお客がいる、という状態。

 私は一人なので、当然カウンター席の端っこに誘導されました。まあ、別にそれはそれで構いません。

 しかし、店主曰く、「これから客がどんどん来るので、あまり幅を取らないで、隅っこにいやがれこのヤロー!」(口調はフィクション)とのことなのです。

 まあ、別にカウンター席に寝転ぼうなどと企んでいるわけでもありませんから、「ああそうですか」とばかりに、私はカウンターの隅っこでホッピーなどいただいていたのですが、そのうち、ちょっとスマホを自分が与えられたエリアからはみ出させてしまった途端、
「ち、ちょっと、他のお客さんが来たら邪魔でしょ、そんなに広がらないで!」
 と、店主に怒られてしまったのでした。

 その時隣には、というか、カウンター席には私以外一人もお客はいなかったのにもかかわらず。

 カウンター席にギッシギシのお客さんでわんさかわんさかなら、「あっスミマセン、オッサン広がりすぎちゃったな」と謝りもしますがね、オレは今誰に迷惑をかけて、誰に謝らなくちゃならないのか、全くもって分かりませんでした。

 最終的に、自分がこのお店を出るまで、カウンター席には他の客は誰も来ませんでしたがね(苦笑)。

 お店側からしたら、一人でも多くのお客さんに入ってほしい、というのも分かるのですがね、それはお客さんが来てから考えればいいじゃないか、と思うのです。
「他のお客さんが来られたんで、ちょっと横にズレてもらえませんか」と言ってくれればいいのになあと、なんだか居心地が悪くて、すぐに退散した私でした。

 もうひとつ、今度は高田馬場にある立ち飲み屋さんのお話。

 せんべろnetなるサイトで「いいお店だった」とか何とか書かれてあったので、期待度100%状態で暖簾をくぐったお店でした。

 お客さんは善良なサラリーマン一人、という状況。
 大衆酒場メッカと言えるような馬場の歓楽街でこんなに暇とは……外から見て、んー、これは違うかも、とその時点で思えばよかったのですがね。鈍いんだよなあオレ、その辺りが。

 どこに陣取ろうかなと店内をウロウロしているうちから、「お飲み物は?」という店主の鋭い声。

「あっ、はい、生ビールで」とオドオドしながら席に着き(立ち飲み屋ですけど)、まあいいか、あんまり良くなかったらすぐに退散しようとメニューを見ていたら。

「オーダーは一度に、一回きりでお願いします」という文字が。

 つまり、初めてこのお店に入り、美味しいのかまずいのかが分からないから、とりあえずおっかなびっくりで何か一品をオーダー、というスタイルは許されないらしいのです。

 ああそうなんだ、と思って当たり障りのないメニューを3品ほど紙に書いて店主に渡し、ちょっと余裕が出てきて店内を見回すと、数多くの店主からのメッセージ。

・食べ終わったお皿、グラスはこちらに!
 グラスは奥の方に!
 同じお皿は重ねて!

・店主のスマイルは5000円(常連さん以外)

 など、お客にどういう思いで接しているのか、今ひとつ分からない貼り紙が施してあり、なんだか居心地悪いなあ、とっとと飲んで、次の店探しちゃおうと、この時点で決心したのでありました。

 オーダーした料理はどれも美味しく、値段もまあまあリーズナブルだっただけに、ちょっと残念なお店でした。

 まあ、多分、マナーのなってないモンスター客にそうとう苦しめられたんだろうなとは思いますがね、だからって最初から喧嘩越しなのもいかがなものかと思うわけであります。
 嫌なら辞めればいいじゃん、うん、そうだよねえ。

 と、長々と書かせていただきましたが、まあつまりは、お酒を楽しむという、1日の中で最も楽しい、貴重な時間を、より楽しく過ごしたい、ただそれだけなのであります。

 あっ、こちらの写真は、本当に素晴らしい、美味しくて安くて居心地のいいお店でいただいた酒のつまみたちです。
 これらのお店には、これからもずっとご愛顧させていただくつもりです。

老後の楽しみになればと、というか、ボケ防止に、コツコツ始めてます。