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予備試験合格に必要なこと


0 自己紹介

はじめまして。
 私は、令和4年度の司法試験予備試験に合格した者です。このように自慢げに書いていますが、実際には全く自慢できるような状態ではなく、むしろどん底の状態から何とか合格することができた、といった感じです。しかも、予備試験に合格するに至った経緯もそれはそれは酷いものです。
 
 というのも、私は令和3年にとあるロースクールを卒業して、その年の司法試験を受験したのですが、当然のように落ち、速攻で令和4年度の司法試験を目指すべく勉強を再開することになりました。
 しかし、気づかないうちに令和4年度の司法試験の願書の提出期限を過ぎてしまって、令和4年度の司法試験を受験することができませんでした。正直、出願期間すら知らないなんてもはや弁護士になる資格すらないのではないかと思って今後司法試験を受験するのはやめようとも考えたぐらいに落ち込みました。
 ただ、そのとき、予備試験の出願期間はまだ先だということを知って、自分の学力の現状を確認する、及び予備試験の短答、論文、口述が5月から2ヶ月おきにあるのをペースメーカーにする、という目的を込め、合格すれば儲けものぐらいの気持ちで、とりあえず令和4年度の予備試験に申し込みました。
 そして、令和4年度の予備試験に何とか合格することができ、令和5年度の司法試験をついこの間受験して、今は結果待ちでバイトや就活などをしている状況です。

 このように、一般的に予備試験を受験する方とはだいぶ状況が異なるため、多くの方にとって、メンタル面についての私の話は何も参考にならないと思います。しかし、予備試験ではどのような能力が求められているのか、といったことについてはどのような境遇に置かれている人であっても同じだと思いますので、このブログでは、私が予備試験を受験して感じた、司法試験委員会が何を求めているのか、という点を重視した記述をしていきたいと考えています。

1 予備試験合格までの道のり

(1) 合格までの流れ

 まずは、予備試験を合格するまでにどのような道のりがあるのか、という点を知っておく必要があります。

 予備試験に合格するためには、3つの試験に合格する必要があります。
 それは、短答式試験、論文式試験、口述式試験の3つです。
 短答式試験に合格すれば論文式試験を受験することができ、論文式試験に合格すれば口述式試験を受けることができます。

(2) 短答式試験の合格率

 (1)で述べたように、予備試験に合格するためには、まず短答式試験に合格する必要があります。
 正直、個人的にはこの短答式試験が最難関だと思っています。これは、同じことが司法試験の短答にも言えると思いますが、短答式試験は各選択肢の記述が正しいのか正しくないのかという結論しかなく、論文式試験のように正しさの程度を見てもらえないという点にあると感じています。そのため、特に本番で短答の問題に解答しているときには、信じられないくらい緊張します。私は予備試験も司法試験も短答が一番緊張しました。

 では、そんな短答式試験はどれくらいの合格率なのでしょうか。

 短答式試験では、令和3年度までの各年の合格率はだいたい22〜24%くらいの間で推移してきました。これに対し、令和4年度以降、予備試験の受験者数が増えているのに対して合格者数はそこまで増えていないことで、若干合格率が下がっています。令和4年ではこれまで23%前後を推移していた合格率が1%強下がって21%台に突入し、令和5年はさらに1.5%程度一気に下がり、とうとう20.1%となりました。
 令和4年に合格率が下がったのは、単純に受験者数が増えたことにあると思いますが、令和5年についてはそれに加えてもう一つの要因があると思います。すなわち、令和5年度から法曹コースの最終学年の法科大学院生が司法試験を受験することができることになったため、今までの既修2年目・未修3年目の法科大学院生に当たる人たちが予備試験を受験しなくなったことで若干受験者全体の平均レベルが下がった、と考えられることです。やはり、ロースクールの最終学年の受験生は予備試験においてもある程度の成績を残してくるはずなので、この層が抜けたことによる平均レベルの低下は無視できないと思います。  
 このように考えると、短答式試験の合格率は今後は毎年20%前後になると考えておく必要があると思います。

(3) 合格に必要な点数

 そして、短答式試験の合格点は毎年だいたい160点〜170点の間で推移しており、これは令和5年まででそこまで変化はしていません。
 予備試験の短答式試験は、各法律科目30点×7科目=210点に一般教養科目60点を加えた270点が満点となっていることから、だいたい6割がボーダーラインとなっています。
 
 ただ、一般教養科目でどれだけの点数が取れるのかは不確実であるため、一般教養科目に勉強時間を割くことは正直おすすめしません。
 私は法律科目だけで合格点を取れていた(←これは絶対にたまたま)にもかかわらず、一般教養科目の点数が15点と極めて低くかなりの人に追い越されて悔しい気持ちにはなりました。
 しかし、法律科目で7割以上取れている人と、法律科目は6割程度にとどまるものの一般教養で大逆転して短答合格した人とでは、その後の論文式試験の突破の可能性には天と地ほどの差があると思います。これは、予備試験短答の法律科目で問われる知識が論文試験で問われる知識との重なりが結構大きいからです。
 司法試験では民法については範囲が広すぎることもあって、いわゆる「短答プロパー」というような論文試験で問われないような部分が問われることも多いのに対して、予備試験の場合には論文でも必要になる判例知識が問われていることが多いためです。そのため、予備試験の短答の法律科目でしっかりと得点できている人は、論文においてもしっかり得点することができると考えられます。

 したがって、短答試験では、法律科目で160点を取って選択科目ではサイコロを振って解答しても合格できるというのを目標にするのが目安としてはオススメです。
 ただし、目標が160点というだけで、仮に法律科目が140点にとどまったとしても一般教養科目によって十分に挽回の可能性はありますから、そこまで160点にこだわる必要はありません。私が言いたいのは、最初から一般教養科目をアテにして法律科目の勉強をおろそかにすることだけはやってはいけない、ということです。

2 論文合格に偶然はない

(1) 論文式試験の合格率

 さて、めでたく短答式試験に合格すると、法務省から短答式試験の合格通知と一緒に論文式試験の受験票が送られてきます。
 ただ、受験票が送られてくるのは論文式試験の直前期なので、受験票が来てから論文対策に本腰を入れていたのでは間違いなく落ちます。論文対策は短答試験の自己採点が終わって160点以上あった場合には直ちに始めましょう

 論文式試験の合格率は、令和5年度まで17%〜20%の間を推移しています。したがって、論文式試験は受験者の5人に1人が合格する試験であるといえます。
 しかし、短答式試験も5人に1人が合格するといったのとは若干性質が異なります。論文式試験の受験者はあくまで短答式試験を突破した5人に1人の実力者に限られるからです。予備試験短答式試験を受験してそれを突破した5人に1人の実力者が論文式試験を突破できる確率がまた20%しかないのです。

 このように考えると、論文式試験についてまず言えることは、「実力があったが運が悪くて落ちた」という事態はあり得ても、「実力はなかったが運が良くて受かった」という事態はまずあり得ない、ということです。つまり、論文式試験に合格するためには、司法試験委員会が要求している最低限の「実力」は絶対に備えておく必要があります。

(2) 論文式試験で必要とされる力

 論文式試験では、短答と違ってどれぐらいの点数を取ればいいのか、ということは細かく意識する必要はありません。むしろ、相対評価であることを常に頭の片隅に置いておかなければなりません
 これは司法試験の論文式試験にもいえることですが、そもそも論文式試験において求められているのは、特定の論点について深く掘り下げて解答することではなく、設問に対して結論を導き出して答えることです。

 したがって、素点で高得点を取ることを狙って、自分が得意な論点について大展開して、重要な要件検討を落としてしまうことは非常に危険であるといえます。
 例えば、民法の設問において、債権者が売買契約締結後に目的物を受領しないときに債務者が債務不履行解除をすることができるか、と問われた場合、多くの受験生は、「あ!受領遅滞だ!!知ってる!!!」と思って、「受領遅滞」と呼ばれる論点について検討をすることになると思います。もちろん、このように論点を発見してその点について論じる能力は絶対に必要とされている能力であるといえます。
 そして、ほとんどの受験生は、少なくとも「債権者は権利を有するのみで義務を負担するものではないから受領義務は認められない。」という点を言及するはずです。もう少し勉強が進んでいる受験生であれば、「信義則上受領義務が認められる場合がある。」と言及し、さらに勉強が進んでいる受験生であれば、「信義則上受領義務が認められる場合として、全量購入契約を結んでいる場合が挙げられる。」などとして具体的な規範を挙げた上で当てはめまでスムーズに行うことができるでしょう。
 
 たしかに、この問題において最も重要となるポイントが「受領義務が認められるか」であることに間違いはありません。しかし、ここで「受領義務が認められる」→「よって債務不履行が認められる」→「よって解除できる」、と書いてしまうと最悪です。せっかく論点について十分な理解を示すことができたとしても、極めて印象が悪くなります。
 なぜなら、この段階では、まだ債務不履行解除の要件のたった一つにすぎない「債務不履行」の事実についてしか認定できていないためです。債務不履行解除をするためには、さらに催告や解除の意思表示なども必要になるため、これらの要件検討をクリアして初めて解除が認められるからです。しかも、その過程において、受領遅滞ほど大展開する必要はないものの、「付遅滞の催告と解除の催告を同時に行うことはできるか?」といった論点や「条件付き催告があれば改めて解除の意思表示をする必要はないのではないか?」といった論点も現れるため、これらの論点に触れることもできなくなります。
 例年の採点実感を見ていると、このような一見配点が低いように見える点についても司法試験委員会はかなり重視しているように思いますし、このような点に触れることで真の論点抽出能力を司法試験委員会に対してアピールすることができると思います。

 むしろ、重要な論点については多くの受験生が一応の論述をすることができるため、そこまで差はつかず、むしろ要件検討の過程で論点が自然に抽出され、それらの点を踏まえながら丁寧に要件検討ができているのかという点で差がつく可能性の方が大きいと考えられます。

 これに対して、予備試験では、司法試験ほどは当てはめの能力は求められていないと考えられます。これは、予備試験の試験時間が短いことからも明らかだと思います。
 私は、司法試験では上で示したように要件検討→論点抽出→当てはめ、という過程で答案を書くように心がけていましたが、予備試験の論文式試験においては、これをフルスケールで書くと確実に時間が足りなくなるからです。司法試験委員会として司法試験と全く同じスケールで書くことを要求しているとすれば、試験時間として当てはめをする時間が足りなくなるということはあり得ないはずです。
 また、問題を解いている最中に「どちらの結論もあり得る」というような問題もそこまで多くありません。
 そのように考えると、予備試験では、現場思考で結論がどちらもあり得るというような難しい当てはめではなく、条文・判例・通説の知識を前提に法的三段論法を展開して問題を解決する能力を披露することがメインであると考えるべきです。
 もちろん、予備試験合格後の司法試験においては当てはめ力がしっかりと問われますから、予備論文試験の勉強において当てはめの力もしっかりと身につけておく必要はあります。

 以上の内容を総合すると、予備試験の論文式試験に合格するためには、まず基本書などで重要分野の内容を理解し、問題集などでその分野についてどのように論述するかについて自身の立場を固め、試験の現場において条文に則して要件検討を漏れなく行う、ということが最も重要であるといえます。

3 口述式試験について

(1) まずは短答式、論文式の突破のみを考える

 最後に、論文式試験に合格すると、その後に口述式試験を受けることができます。

 この口述式試験は、論文式試験に合格した人が受験することができますが、合格率は95%もあります。そのため、とりあえずは短答式試験、論文式試験に合格することが重要です。

 口述式試験では、民事系科目と刑事系科目が各1日ずつ行われ、民事系科目では民法・要件事実、民事訴訟法・民事執行法・民事保全法、法曹倫理が問われ、刑事系科目では刑法、刑事訴訟法、法曹倫理が問われます。基本的に論文式試験の内容と被るので、論文式試験の勉強とは別に特別な内容の勉強をする必要はありません。
 そのため、短答式試験、論文式試験の段階で口述式試験について不安になったりする必要は一切ありません。

(2) 要件事実は紛争類型別問題集だけ

 要件事実については、かなり難しい問題(?)が出題されますので、必ず「紛争類型別問題集」はマスターしておいてください(余裕があれば「新問題研究」)。

 要件事実以外については出題ポイントが絞られますので、予備校の口述過去問を入手するなどして3週間ほど対策をすることで口述試験に合格することは十分可能だと思います。

 これに対し、注意してほしいのは、要件事実については、「紛争類型別問題集」だけ集中的に勉強してほしい、ということです。特に、事前に情報をしっかり収集している受験生の方であればあるほど、名前は挙げませんが分厚い要件事実の本を購入していると思いますが、これらの参考書について暗記をすることは極めて有害であると考えます。そもそも分厚い要件事実の本は辞書として使用されることを想定して書かれたものです。
 私は、予備試験の口述式試験で要求されているのは、「紛争類型別問題集」の理解のみであると確信しています。このことは、司法試験合格後の修習ですら「紛争類型別問題集」を用いて講義がされていることからも自明です。司法研修所が修習生に対して要求しているレベルが「紛争類型別問題集」のレベルであるとすれば、司法試験受験の資格もまだ取得する前の予備試験受験生にそれ以上のレベルを要求しているとは到底考えられません。
 実際、私が受験した口述式試験では「質権に基づく占有権原の抗弁事実」が問われました。この問題に答えるためには、「質権が担保物権であること」、「質権が約定担保物権であること」、「質権設定契約が物権契約であること」などを踏まえれば、抗弁事実として①被担保債権の発生原因や②質権設定契約の締結や③質権設定者に所有権があること、などの主張立証が必要であることを導くことができます。「担保物権→被担保債権」、「約定担保物権→設定契約」、「物権契約→処分権限」といった点はすべて「紛争類型別問題集」をマスターすれば問題なく導くことができるはずです。
 むしろ、未知の問題が出た場合には暗記では全く対応できず、結局分厚い要件事実の本を暗記していても、「紛争類型別問題集」をマスターした人に勝てない、という可能性があります。しかもここ2年ぐらいは未知の問題が選ばれて出題されているとも言われています。

 以上から、まず短答式試験、論文式試験のことだけを考えて、論文式試験が終わった後に初めて口述式試験のことを考えることになりますが、その対策にあたっては、要件事実論は「紛争類型別問題集」を完璧にマスターし、要件事実以外の分野については予備校などから過去問を入手するなどして対策をすれば、口述式試験には合格できそうです。

4 最後に

 予備試験に向けてどのような勉強をすればいいのか、簡単にまとめてきましたが、予備試験が合格率20%の試験を2つもクリアしてさらに口述というストレスの溜まる試験を突破しなければならない超難関試験であることに変わりはありません。

 ですが、合格したときの喜びや達成感は形容しがたいものであり、またそれに向けて行った勉強はすごい力になると思います。
 なので、皆さんも予備試験合格に向けて頑張ってください。


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