【～戯れ～アプリコットの献身１】

「はぁい！それじゃあ皆おつー！まったねぇー♪」

　――ポロロン。
　音声グループチャットから抜けて、両腕を高く伸ばして背伸び。
　クリスマスプレゼントに買ってもらった重たいヘッドセットを外すと、思い出したかのように肩凝りに襲われる。

「ええと？ギルド狩はこれで終わって、あとはイラスト納品かぁ。
　ああっダメだ先週配信枠をさぼったから先にやらなきゃぁ……」

　時計を見上げると２２時。１時間くらいなら怒らないでいてくれるかな。
　……大丈夫だよね。収益化しているんだから、これもれっきとした仕事。
　お皿も洗ったし、お風呂も入った。明日のお味噌汁の具だって決めてあるし、大丈夫。

「オフちゃんがイラストに目覚めたんだし、乗れるコラボはどんどん乗らないと！」

　よーし頑張るぞー！がんばれ私！オフベージュアカウントのファンも流れて見に来てくれているし、「オタクだけどカワイイ系チューバー」はもっともっと精進しないと。
　ＳＮＳにまず告知を出して……あ、画像がないから今日買ってもらったデザートのフルーツタルトにしようっと♪嬉しかったなぁサプライズ差し入れ。食器は銘入りなしのシンプル。接写で身バレ対策もバッチリ♪

　ぜーんぶ、ミコシーが教えてくれたことなんだから。

「……ちゃんと頑張ってるからね？」

　配信開始５分前。ディスプレイ前に飾られた古いぬいぐるみを撫でて、スマイルの予行演習。顔を作ってからじゃないと声って出ないんだって。

「いつもより遅くなってごめんねー！って誰もいないかな？あはは……ちょっと恥ずかしいね、うん。……あれ？ＳＮＳのほうから来てくれたの？わーありがとうー！みんな夜更かしはダメだぞ♪」

　元気よく、誰の声も顔も見えないディスプレイに向かって満面のスマイル。皆に見えているのは自作の看板娘イラスト。膝丈フリフリのゴスロリを来た女の子と、キャンディとぬいぐるみが弾けるメルヘンワールドの背景。自分の好きなものをぎゅっと詰めた看板イラストは自慢の力作。

「実はちょーっとだけ寝れなくてね？こういうときって、ちょっとお喋りしながらのほうが捗るんだー。……ほらー私だけじゃなぁい！あはは！まあちょっとだらだらお付き合いいただけたら嬉しいな？なんてね」

　自動読み上げｂｏｔが届ける皆の声と会話しながらペンタブを握ると、昼間に一人で甘いミルクティをキメて唸りながら描くより、ずっと早くて楽しい。それに、出来栄えだっていい。図書館よりファミレスのほうが勉強が捗るのと同じで、ほんのちょっとだけ気が散る環境のほうが自分を追い込まずにちょうどいい集中でやれるんだって。

　ぜーんぶ、ミコシーが教えてくれたことなんだから。

「オフベージュちゃんが黒い美魔女だったからー、私は白い天使にしよっかな！翼の描き込み大変だから、服からでもいい？ふりふりの可愛いのを着せてあげたら、ちょっとはやる気出るかも」

　♪ピロン♪
　『空瓶さん: チラリアングル期待ｗｗ』　
　♪Moeコイン５００獲得！♪

「……え？やだやだセクシーなんて描けない無理無理コイン積まれても無理！あはは！えー、だって恥ずかしいじゃん？よく皆描けるよねぇーって思うんだよ？」

　あ！もちろん尊敬って意味だよ？――ちゃんと色んな価値観の人がいることを念頭に置いて喋る。気を抜かない。

　ぜーんぶ、ミコシーが教えてくれたことなんだから。

「……描けたほうがいいのかなぁなんて、思わなくもないけど」

♪ピロン♪
『オフベージュさん: アンズちゃんの可愛い天使さんが楽しみです(⁎˃ᴗ˂⁎)』　
♪Moeコイン５００獲得！♪

「もーオフちゃんまでー！でも今の作品は頑張るからね！ありがとう！」

　アンズはオタクだけどカワイイ系チューバーとして、今日も頑張る。
　頑張る間は、ずーっと褒めてもらえる。やる気がでる。前に進める。
　そうやって明るく過ごしていれば、どんな嫌なこともいつか報われる。

　ぜーんぶ、ミコシーが教えてくれたことなんだから。

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　ゲーム・イラスト生声実況チューバー「アンズ」
　Moeコインをあげて活動を応援しませんか？
　　　　　　→萌え声は正義だからとりあえず投げとく。
　　　　　　→初見の雑談に投げてもねぇ……。

次話【献身２】