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【wonder wonder reminisce】

 これは全ての幕間。アナタが見聞きする確かな夢。

 カラララ カラカラカラ カララララ

 その広間は、厳かな黒。遥か高い天井から吊られた豪奢なシャンデリアの煌きよりも、夜星の瞬きのほうが明るい、静かな黒。
 その広間は、冷たい石。悪戯好きの猫が寝転んで寛げると聞けば、大理石かもしれない。そう見せかけた、古い煉瓦かもしれない。
 いずれにせよ、厳かで静かで冷たい、黒の場所だ。世界にワスレられた岩の牢獄か、世界から解き放たれた自由な夢城か。そこに居る者らに尋ねてみるとしよう。

 カラララ カラカラカラ カララララ

「で?通販とラジオとたまに茶会マジックでPOPな感じに戯れ場を和ませる役はいつまでやればいいんだ?」
「不明。玉座の留守が解除されるまで」
「そりゃ気の長いことで。ま、玉座自らワスレモノにされかけているなら死活問題か」

 厳かで静かで冷たい、黒の場所。言葉を交わしているのは男と女が一人ずつ。燕尾服姿のお喋りな男と、道化帽子の無機質な女。

「『手紙屋』の報告を確認。『花』に連なる遺失種族と邂逅し、その確保に追加リソースを解放している模様」
「なんだそのチョコレートの次に美味そうな題材。呼んでくれりゃトりに行ったのによ」

 カラララ カラカラカラ カララララ
 ーーーーガチャン ゴゴゴゴ

 どこまでも重く分厚い扉が動く音に、二人は振り返った。帰還を待ちわびたのか、あるいは帰還した存在が尊いのか、恭しく膝を折って頭を垂れ、扉から玉座へ連なる真紅の絨毯を見つめた。
 どこからか鳴り響くオルガンの葬送曲。
 確かに鳴り響く金属と石の摩擦音。

 カラララ カラカラカラ カララララ

 真紅の絨毯をゆっくりと進む帰還者は雪のように美しい女性。長い純白の髪と、揃いに純白のドレスを身に纏い、その裾を蹴りながら堂々と玉座へ歩を進める。純白のあちこちが鮮血と肉片に穢れている理由は、石床を鳴らしながら後ろをついてくる黒剣と紅弓が物語る。
 そう、これは玉座の凱旋。数多のセカイを自由に渡り干渉する夢城の主が、自らの手でその名をセカイに刻んだ大戦果を祝う、盛大で荘厳なーー葬列だ。

「あら、何かしらその辛気臭い顔は。わたくしの名前がno dataに沈む心配だなんて百世紀早くてよ?」

 玉座と崇められる女性は、高慢な少女のような声音で燕尾服と道化帽子に声をかけ、クスリと笑ってみせた。
 すると、二人は顔を上げて言葉を分担した。

「白衣装が珍しいってもあるが、その前に」
「そのコが、遺失種族?」

 純白のドレスの胸元。両腕で大切に抱えられている、琴を抱いて眠る幼い子供。青い服に、青い髪。いや、極細い海洋植物の集合体という幼い繊維。不規則に浮かんでは消える淡い光は、ヒト族でない証。

「ええそうよ。深海からセカイを夢見た先で、生命を奏で歌い尽くしてなお形が残った、芸術よ」

 葬送曲の中で寝息一つ立てず、ただ永遠の夢へ達したその子に向ける玉座の眼差しに皆は驚いているのだ。口にすると首が飛ぶから言わないだけで。

「確かにこれは、迂闊にトれねぇな」
「同意。丁重な保存を要望する」
「もとよりそのつもりよ。中庭を増設してそこで眠ってもらうわ。ついでに着替えて来るけれど……」

 ーーシーン。

「……アナタたちは最後まで『戯れた』いでしょう?」

 遥か高い天井で揺れるシャンデリアを見上げながら、玉座と崇められる美しい女性は高慢な少女のような声で言った。
 その広間は、厳かな黒。遥か高い天井から吊られた豪奢なシャンデリアの煌きよりも、夜星の瞬きのほうが明るい、静かな黒。

これが白紙の値札。いつでも、もちろん0円でも構わないわ。ワタシの紡ぎに触れたあなたの価値観を知ることができたら、それで満足よ。大切なのは、戯れを愉しむこと。もしいただいたら、紡ぐ為の電気代と紙代と……そうね、珈琲代かしら。