見出し画像

【戯れ~オフベージュの疼き2~】

***18歳未満の方はブラウザバックして下さい***
俯瞰視線はヒトしき傍観を願い請うた。





違うの。そこには、腕があるだけなの。
違わないの。そこには、腕に連なって手があるだけなの。
違うの。これは、不幸な偶然なの。
違わないの。これは、女性にとって可哀想な状況なの。

胸の形が歪む感覚の中で、生ぬるくも確かな接触があった。
――息を、吐いた。驚きのあまり震えた吐息。
腰の下に硬いなにかが当たる感覚に、パンプスから踵が浮きかけた。
――息を、吸った。浮き上がる記憶を腹の底に沈める呼気。

カタンタタン、カタンタタン。
ありふれた仕事のありふれた帰り道の中は、
つまらなくて、ツクリタクテ……結局、どちらも残ってしまった。
今日も捨てられない両方を抱えたまま、時間切れを待つ。

カタンタタン、カタンタタン。
偶然触れあった男女が、慣性に逆らえず触れあい続けて、
その中で震える清楚で可哀想な女性を見た別の男に魔が差すなんて。
仕方なく刺激されながら頬を赤らめる光景だなんて。

――現実では叶わないから漫画やゲームの御話になるのだ。

そう思った私は、そっと、ゆっくり、もう一度息を吐いた。
吐いたら、ドアの開閉音と共にどっと安堵が押し寄せた。
胸元から臍の下にかかっていた圧があっさりと離れる。
そのとき心臓に小さな穴が空いたような寒さは……かぶりをふる。

――少し、休もう。もう地上に出ているのだから。

人の流れに乗って、特に下りる必要のない駅のベンチに腰掛けた。
都会の地下道は時間の感覚が遠のくのに、
郊外の地上に出ると自然と今何時と周りを気にする。
視線を振って探したら、向かいホームのずっと向こうに壁はなく、
県境の広い川の上で人工天然両方の星がいくつも瞬いていた。

嗚呼、つまらないだなんて言ったらダメだ。
こんなに綺麗な景色があるのだもの。

もう少し見ていたくて、近くの自販機で甘いカフェラテの缶を買った。
プシュという音と一緒に躍り出るミルクと珈琲の香りに身を委ねるほうが、
ずっとずっと安心する。

……泣きたくなるほど、安心する。




次頁【独白】

これが白紙の値札。いつでも、もちろん0円でも構わないわ。ワタシの紡ぎに触れたあなたの価値観を知ることができたら、それで満足よ。大切なのは、戯れを愉しむこと。もしいただいたら、紡ぐ為の電気代と紙代と……そうね、珈琲代かしら。