見出し画像

ゲンロン大森望SF創作講座第四期第2回実作感想①

 僕、遠野よあけはゲンロン大森望SF創作講座という小説スクールに通っていまして、そこでは毎月50枚程度の作品を提出することになっています。この記事では、そこで提出された作品への感想をつらつらと書いていきます。詳しい情報は下記サイトにて。

「ゲンロン大森望SF創作講座」
https://school.genron.co.jp/sf/

「第二回提出課題一覧」
課題:読んでいて”あつい”と感じるお話を書いてください
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/subjects/2/

 僕も下記作品を提出しています。読んで頂けるとうれしいです。

00「アイトチトヒト」遠野よあけ
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/yoakero/3381/
 ちょっと変わった性格の女子高生が、人工知能探求部の仲間たちと文化祭展示を盛り上げようと頑張るお話です。原稿用紙60枚程。


 あと、感想の前に、作者の方へ。基本的に主観的意見です。気になったことをけっこう書いているのですが、書かれていることにピンと来ない場合はスルーして頂ければ幸いです。
 以下、各作品の感想です。21作品(自作含む)あるので、記事は二つにわけています。


01「炎情」ひろきち

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/89444hiroki/3373/

 書き出しから面白い! 途中は秋刀魚とか焼いてるのに、最後はけっこう話が大ごとになっていくジェットコースター感とかも好きです! でも最後のオチは、物語的な効果がよくわからなかったので要らない気もしました。
 あと、ヤクザがツンデレみたいな喋り方をしたり、「オーク」という言葉を使うでしょうか? この辺はちょっと不自然に思いました。
 蒸気が龍の形になってのぼっていくところはよいですね……!
 とにかく最初から最後まで読者を飽きさせない工夫があり、楽しく読みました!
 でもこれSFじゃないね!w
 いや……でもまず面白い小説を書いて、それ以降の課題でSFにチャレンジするというのも、一つの作戦としてはアリですね……ひろきちさんのSFも期待しています!(と思っていたら次回梗概もSFじゃなかった!w)


02「雪恋」よよ

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/happanoko/3298/

 全然わからなかった……と思って読了後にアピール文を読んだら、火星?の細菌の話なんですね。それはわからない……顔や手の描写があるので、小人か虫か小動物か地球外生命体あたりかと思っていました……(梗概もアピール文も以前に読んでいたのですが、これだけ数があると忘れているものも多いので……)
 個人的には、実作は梗概やアピール文なしでも読者に理解できることが望ましいと思います。「火星とか細菌とかを明記してほしい」ということではなくて、小説の本文だけで読者を感動させたり笑わせたりするのが望ましい、ということです。少なくとも僕は最初から最後までわけがわかりませんでした。細菌の繁殖への愛というのは面白そうなモチーフだと思うのですが、読者の僕にはそれは伝わってこなかったので、残念でした。場所がよくわからないので(森だったり砂漠だったり雪原だったりで想像が難しい……)自然の描写もなかなかぴんと来なかったです。
 人間以外の感情を描く物語でも、人間である読者との間になんらかの関係(感情移入だったり既知の情報だったり)を作らないと読者は物語世界に入っていけないのではないかと思います。
 うまく伝わっているでしょうか……登場人物が細菌であることがわからないこととかは全然別に良いのですが、文章や構成を上手くつかって作品の重要な情報を伝えてほしかった、ということなのです。
(いうて僕も、ティプトリー「愛はさだめ、さだめは死」すら未読なので、このタイプの作品について偉そうなこと言えませんが……多和田葉子「てんてんはんそく」とかも読むの苦手だし……)
 あと、誤字脱字が多いのも読んでいて気になりました。

03「熱血機関」天王丸景虎

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/10kgtr/3356/

「いつか書く」といわれたものは、大抵の場合永遠に書かれないので、いま書くのです……! 人はいま書くことしかできないのです……!


04「魔法少女 またみ・たみたみ」品川必需

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/hitujyuhin/3265/

 タイトルは梗概のほうがわかりやすかった気もします。
 文体は三人称か、一人称か、全体で統一してもらえたら読みやすかったかなと思いました(文体が変化することが、作品全体に何か寄与しているようにも読めなかったので)。あと「15.」の最後の部分の文体が、突然三人称に戻っているのも気になりました。
 全体的に構成に波がなく、「敵出現→倒す」が二回繰り返されるだけで、終盤も盛り上がりに欠けるように思います。雑な案ですが、「給料の話をされても魔法少女を断る→家賃を入れないと実家を追い出すと母親に言われる→家賃を払うためにしぶしぶ魔法少女を引き受ける→「この街の平和と家賃のために!」みたいなノリで梟像と戦う」とかのほうが戦う動機もわかりやすいし盛り上がるのではと思いました。オチはもう一捻り必要ですが。給与がituneカードで支給されて「ガチャ位しかできねえよ!」と切れるとか。いやこれはつまらないので忘れてください。
 細かいとこだと、冒頭でインクと筆立てがあるのにシャーペン使ってるのは違和感がありました(ギャグやキャラクターの性格表現にも読めなかったので)。あと五輪の塔は五輪塔のことでしょうか?(五輪の塔とも言うのでしょうか? 知らなくてすみません)
 それから、誤字脱字が多いのも読んでいて気になりました。


05「M.I.」岩森応

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/iwamori/3353/

 新しい技術によって淘汰された情動への哀悼、のような物語として読みました。面白かったです。
 読み返すと、「18日目」の場面がエモいなと感じました。ピュロウとルモルセの二人が見ている顔は、「着ぐるみの顔」「着ぐるみと同じになりつつある顔」「着ぐるみの向こう側にあるとされるの本当の顔」のように分裂していて、それらは過去や現在や未来にまたがっている。この後、着ぐるみを脱いだ時に二人の「顔」は一つに同定されるのですが、その時に交わされる愛の言葉と、「18日目」の異なる顔が重なり合っている時の愛の言葉は、何か質の違うものに思えました。
 そして失われた「18日目」の愛の言葉は、着ぐるみたちの計画によって、〈漠人たちの顔貌/生体データ〉として宇宙に放たれる。これは単なるノスタルジーではないように感じました。
 ちょっとわからなかったのは、クダウミヒ=ガがなぜ、美しいものとして着ぐるみを選んだのかです。読者の共感を呼ぶためとかでなくて、クダウミヒ=ガ自身の言葉や理論がないと、「作者が恣意的に着ぐるみを選んだ」ように感じられてしまうので、そこは何らかのロジックがほしかったです。
 あと、僕も講義で大森さんに注意されたのですが、ヤマ括弧は、<>ではなくて〈〉のほうが望ましいようです(Web小説など横書きでは使われているようですが、縦書きだと横に倒れちゃうからよくない、みたいな記事を見かけました)。


06「太陽を呑んだ男」武見倉森

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/kateiumashi24/3355/

 これから面白くなる、というところで終わっていて残念……呑む前に終わってしまった……。
 改行のない密度のある文章ですが、大学入学以前のエピソードはあまり作品全体で活きていないように思えました。いろいろ書いてはあるけれど、あまり重要な情報がないというか。寿司とか、クールジャパンとか、なくてもいいような……。
 読み終えてみるとある種のモンスター小説だと感じたので、イゾーと人類との軋轢はやはり読んでみたかったです(人類の全力の防衛を突破して、太陽を飲むイゾーとか)。
 あと、最後に「太陽系に帰ってきた」とありますが、イゾーは太陽系の外にいたのでしょうか?海のなかにいたのだと思っていたのですが……。(追記:イゾーは宇宙へでた説は、地の文で「正しかった」と書いてありましたね。失礼しました)


07「神さびた黴」村木言

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/kimkim1970/3349/

 ここから『神狩り』みたいに田村麻呂と〈高次存在〉の超常対決が始まるのだな……というところで終わってしまって残念だった……。明らかに現代編までが射程に入っていたのではないかと思うのですが、50枚で書き切るのは大変そうですね……。
 文体も語彙も丁寧なつくりで説得力あるフィクションになっていて好感しかないです。空海とかの出し方もよきです。僕は詳しくないのですが、70~80年くらい?に流行った伝奇SFとかにありそうな雰囲気、物語だと思いました。
 ただ一方で、それこそ過去の伝奇SFにありそうな感じが強く、現代の作品として読もうとするとやや物足りない気も……(「復興」の物語としても、「復興」がこれから始まるぞって感じのように思えました)伝奇詳しくないと言いながらこんなツッコミするのもアレですが……ゼロ年代以降の伝奇って、奈須きのこ以外に目立った作家がほとんどいない気がするので、きちんとアップデートできたらむしろねらい目なのかもしれませんね。
 しかしそもそも僕が細部ちゃんと読めてない可能性もある。だとしたら申し訳ないです。


08「炎鬼 太陽脱出デスゲーム」九きゅあ

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/kyua/3304/

 舞台設定や大筋のストーリーは面白かったのですが、文章が全体的にやや硬いというか、説明的で状況や話をスムーズに追うのが難しかったです。特に創造主の説明はすべて地の文ですませているため、一方的な説明感がつよく没入しにくかったです。あとは細かい部分で、説明に対して「ん?」と気になるとこが多かったように思います(設定への疑問というより、説明の仕方の問題かなと思いました)。
 アピール文にある「駆け引き」の要素も、ほとんどすべて地の文の説明で語られるのであまり駆け引きの魅力を感じられませんでした……。後半では炎鬼も案外簡単に撃退できてしまったのもよくなかったかと。
 あとできれば登場人物を少し減らして二万字に抑えてくれたら、と思いました(10人ではなく6人でもデスゲームのエンタメ性は出せたように思います)。
 あと章題の「⇒」ってなんだったのかわからなかった……勘が悪くて申し訳ないです……。


09「落下する」藤田青土

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/seido/3344/

 面白かったです。登場人物がみんな饒舌なのですが、その饒舌さはみんな生涯で一度しかめぐりあわないだろう瞬間の情動に支えられていると感じたので、不自然に思いませんでした。
 書き出しが「エリヤは、瞬きもせずに部屋の一点を見つめていた」とあり、この小説が「見る/見られる」物語であることを示唆しているのもよきです。
 でも(感想会でも話しましたけど)、やっぱり読み返しても「痛覚も自我もあるヒューマノイドを溶鉱炉に落としてまで収集しないといけないデータとは……」という疑問は尽きない気がします。あ、でも、ある種の不条理性が根底にある世界観だと思えば納得できる気がしてきました。エリヤの父親の誤ち(?)も、ある種の不条理というか理不尽によって起こっていますからね。ただ、エリヤと父親が相似的に結ばれるなら、アグロの父にも相似的な関係を作ると、エリヤとアグロの関係性も深くなったような気もします。
 でも一万字で上手く物語を書き切っているとも感じられたので、そこも好感をもちました(二万字オーバーも少なくなかったので……w)。



10「泡宇宙とセリ鍋と」泡海陽宇

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/sugar01/3337/

 イメージ豊かだしヴィジュアルも面白い作品なのですが、この講座の企画上、他の二万字の実作と比べて内容が少ないことは避けられず、相対的に物足りなさを覚えてしまいます。作風自体は割と好きなやつです。


残り10作については、明日あたりには更新予定です。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?