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ゲンロン大森望SF創作講座第四期:最終課題実作感想④

 僕、遠野よあけはゲンロン大森望SF創作講座という小説スクールに通っていまして、つい先日、最終課題実作(120枚程度)の作品を提出しました。
 この記事では、そこで提出された作品への感想をつらつらと書いていきます。詳しい情報は下記サイトにて。

「ゲンロン大森望SF創作講座」
https://school.genron.co.jp/sf/

「最終課題提出作品一覧」
テーマなどの指定はなし
(各作品は50~120枚程度)
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/subjects/11/


以下、この記事では4作品について感想を書いています。
この記事ですべての実作に感想を書いたことになります。
感想の順番は適当です。
感想冒頭で、作品の簡単なあらすじを書いておきます。
また、感想ではネタバレにもふれていますのでご注意ください。

23「めめ」藍銅ツバメ

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/mimisen3434/4175/

 ――トリノメ様と呼ばれる神様を奉る神社には、「め」と書かれた奇妙な絵馬が境内に並んでいる。かつて大怪我をした妹の回復をトリノメ様に祈った荒海亨志郎は、お礼参りのためにその場所を訪れていた。神社で出会った李と名乗る少女に手を引かれ、宿泊先の旅館に導かれると、そこは何かが奇妙であり、そして亨志郎はいつの間にか妹の存在を忘れていて……

 感想会でも伝えたことですが、僕は個人的に土着の神様と人間との交流みたいな話って好きで、この小説もそういう部分を面白く読みました。とはいえこの小説は、トリノメ様と呼ばれる神様が直接現れるわけでもないのですが。そういう曖昧なコミュニケーションを含めて好きです。どうやら神様というものは、人間とは異なるルールで何かを考えている?らしく、「何を差し出せば何が得られるのか」ということも曖昧模糊としています。でも神と人の間にやりとりがないわけではない。そもそもどこからが、神様とのコミュニケーションの始まりだったのか。神様から与えられるものは、はたして当人にとって良いものなのか悪いものなのか、ぜんぜん僕はわかっていないのですが、そこが個人的にとても面白いなと思ってしまうのです。眼球抉っちゃうのは、神と交流するとそれ以前の人の形ではいられないよな、みたいな不思議な納得感があります。
 神と人のコミュニケーションを、推測で言葉にできないこともないのですが、奇妙で曖昧なこの交流は、そのまま小説ごと受け取りたいなと思ったので、野暮な言葉は書かないようにします。好みのお話でした。

24「ファントム・プロパゲーション」古川桃流

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/furukawa3/4171/

 ――新山剛志は母親が入所した老人ホームを一ヵ月に一度訪問していた。そこで新山は、大橋と名乗る老人から、老人ホームで広く使われているリハビリ機能を備えたアプリについての愚痴を聞かされる。大橋の愚痴に付き合っているうちに、新山はアプリのソース解析に着手することになり……

  面白いのだけどいまひとつ乗り切れなかったのは、僕が個人的にSEという職業が好きでないからというのが大きいです。ただ、SEの仕事が嫌いな人、興味ない人にまで届くようなフィクションになっていると、読者の間口は一気に広がるような気がしました。難しいこと言っていますが(笑)
 老人ホームという舞台設定は、細部をもうすこし掘り下げられたような気がします。いまはまだ舞台設定の表層的なところしか使っていないような印象でした(大橋のオタスケへの憤りなんかは、老人でなくても感じると思われるもので、舞台や人物の固有性があまり感じられない)。システムの細部に対して、老人ホームという舞台の細部が少ない気がしました。
 例えば、ファントムという言葉は、老人ホームでの死と繋がりそうな予感がありますが、そういう展開はなかった。あるいは、感想末尾にリンクを張っておきますが、ドイツの老人ホームでは施設を出たがる老人対策として、偽物のバス停を敷地内に用意している場所があるそうです。これなんかもファントム感があるエピソードで、僕はたまたまTwitterで見つけた記事ですが、現実に存在するけどあまり知られていなさそうなこういう設定が話のなかにあると、読者の没入度は増すし、テーマも深まる気がします。ファントムという言葉に限らないですが、総じて設定をもっと使い倒してもよかったと思いました。主人公と母親の親子関係がふわっとしたオチになってしまっているのも、二人の関係の細部に踏み込めていない印象がありました。
 古川さんの作品は丁寧に作られていて読みやすく、読みどころもわかりやすい。ただその分、拾わなかった設定がより目立ってしまうようにも思えて、それが読了後に「もう一味ほしかった」という気持ちになってしまうのかもしれません。舞台、人物、テーマをひとつずつ掘り下げていって、それらが読者の人生のどこかに響くような作品が書きあがったら、とても面白い小説になりそうな予感がしました!

 ……余談ですが、僕だったらこのお話の主人公を中学生プログラマーにして、フィクション性やハッタリ感を増す感じにした気がします。中学生にとって未知であろう老人ホームの世界を、中学生がじぶんにわかる範囲で理解していくという筋書きは面白そうだと思うからです。でもこの話を感想会でしたら、「この小説はくたびれたオッサンが主人公だから良いと思う」という意見が多数でてきたので、くたびれたオッサン主人公の需要の前に僕の案はかき消えました(笑)


25「ある証言たち」武見倉森

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/kateiumashi24/4198/

 ――プロスポーツ選手の健康負荷がテクノロジーによって管理・規制されるようになった近未来の時代。スポーツ記者のコウイチは、友人のニーチェから、サッカー界のスター選手アーノルド・リトヴィネンコが抱える問題を、記者として聞いてやってほしいという奇妙な依頼を受けて……

 サッカーにほぼ関心のない僕でも面白く読ませる小説でした!うつ病のスター選手が試合に参加していることを、数名の登場人物と読者だけが知っているという状況をつくると、読者はこんなにハラハラするとは。スローインに5秒かけてしまう描写なども、わかりやすく「やばいやばい!」と伝わる書き方でうまいなと感じました。主人公のような提灯記事を書く記者とかふつうに考えて嫌いになりそうなものですけど、彼の葛藤がきちんと書かれているので嫌な感じもなく、むしろ彼の立場に自分がいたらどうするだろう、みたいな想像をするくらいに引きこまれました。タバコ文化の終焉の延長にプロスポーツの終焉があるという視点もとても面白かったです!武見さんがサッカーという題材の見せ方をうまく工夫しているなあと思いながら読んでいました。
 他方で、大森さんがTwitterに書いていた通り、外連味はやや足りないと思いました。どうすりゃ良くなるのかパッと思いつかないし、これはこれで読み味ある小説で好きなんですけど、SFというジャンル小説として読んだ場合にはやはり物足りなさはぬぐえないなと思いました。SFよりも大衆小説の媒体のほうが相性がよい気もします。スポーツと社会問題とか、多くの人が読みやすそうですし。
 上記の外連味問題から、最終候補作に選ばれるのは難しい作品だったかもと思いますが、とても面白かったので、こうした題材の切り口の工夫を今後も活かした小説を読んでみたいと思いました!

26「晴れの海から、泡宇宙へ」泡海陽宇

https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/sugar01/4196/

 SF的想像力を感じさせる断片が並んでいて、書きたいイメージというのが泡海さんの中にあることは感じとれました。ただ、お話というものがないので、もし「SF小説」を今後も書くのであれば、まずは「主人公」や「解決すべき問題」など、お話としての基本設定を最初につくってから書き始めるのが良い気がしました。で、書き始めたら、出来とか関係なしに最後まで書き切ってしまう。それでなんとかお話を書く体力がついてから、ここにある断片をいかに小説に落とし込むかということに挑戦してみるのが良い気がしました。書きたい設定やアイデアを広げる前に、ともかくまずは「主人公」(や登場人物)から作っていく感じです。すぐにできるものでもないですけど、面白い小説が完成することを祈っています!


 感想、全部書いた!
 改めて、一年間お疲れ様でした!!

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