見出し画像

魔法少女になれなかった

私は魔法少女になりたかった。

小さい頃、魔法少女アニメのキャラクターに憧れていた。
キラキラした容姿、笑顔、幸せなストーリー。
困ったことがあっても、すべて魔法で解決する。

「魔法少女になりたい」
ステッキや変身アイテムを親にねだった。
手に入れた時には、ステッキを振り回し、魔法をかける呪文を唱えた。
もちろん、何も起きなかった。

もしも魔法が使えたら、友達や家族を幸せにできる。
もしも魔法が使えたら、ほうきで空も飛べる。 
もしも魔法が使えたら、宿題も一瞬で終わらせる。
もしも魔法が使えたら、困ったことがあってもすぐ解決できる。
もしも魔法が使えたら、勇気を持つことができる。

魔法が使えたら便利なのに!
と思っていた。

でも、いつしか私は変わってしまった。
いや、現実に気づいてしまったのだ。

キラキラした容姿、笑顔、幸せなストーリー?

それらを手に入れていない、現実の、醜い自分。
見下され、バカにされ、「醜い」と指をさされ笑われる。
人の笑い声が、悪魔の笑い声に聴こえる。

もしも魔法が使えたら、私をバカにする人たちに制裁を加える。
もしも魔法が使えたら、私を見下している人たちを蹴落とし、絶望させる。
もしも魔法が使えたら、憎いあの子よりも美人になれる。
もしも魔法が使えたら、好きな人の心を奪える。
もしも魔法が使えたら、みんなが私を尊敬するかもしれない。
もしも魔法が使えたら、……自分なんて……

醜い感情を常に抱えていた。

自分に自信が無い。
いつしか、自分には特別な能力も、才能もないことに気付かされていた。
私は魔法を持っていなかった。

なら努力するしかないのかも。
けど、勉強も運動も、何をするにしても中途半端だった。
努力が続けられない自分にも嫌気がさした。

時は流れ、私は少女ではなくなった。
今では普通の社会人になっている。
醜い感情はある程度忘れ、ある程度残っているままだ。
あるいは、忘れているのではなく、頑丈な鎖でがんじがらめに閉ざされた引き出しの中で、それは未だにぐるぐると邪悪な渦を巻いているのかもしれない。
鎖が頑丈なほど、大人だということだろうか。

魔法が使えなくてよかった。
心からそう思う。
邪悪な魔法が使えなくてよかった。
邪悪な魔女にならずに済んだ。
大きすぎる力は持っていなくても良い。

キラキラした容姿、笑顔、幸せなストーリー。

魔法少女アニメのような魔法が使えないので、別の方法で試してみることにしよう。

私には、別の魔法がある。

ボルドー色の魔法の粉を瞼に塗り、キラキラを加える。
切なげな、寂しげな、それでいて情熱的で煌めきのある色。

今が夜明けなのか、それとも夕暮れ時なのか、
朝なのか昼なのか夜なのか。
わからない。
これからどうなるのか、わからない。
進んでゆくしかない。

瞼の魔法に勇気づけられ、鏡の中の私はキリッとした表情をしてみせた。
さて、出かけようか。
それとも。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?