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夢のあと

ピピピピ。
しつこく鳴るアラームを何度かスヌーズしてようやく布団から出る気になります。時刻は9:30。アラームは5:00。早起きして桜を見に行こうと言っていたのにこの体たらくです。

締め切られたカーテンの隙間から細くなった日が差し込んで部屋の隅に積まれた本の山を照らしています。

歯を磨いて何か作ろうと流しに立つと、シンクの上にいくつもの紅色の軌跡。

昨日の夜桜を観に行った帰りにお土産に買ったりんご飴。見た目はかわいいけれど、いかんせん食べづらい。それなら家で食べようと妻が切って出してくれました。

あら、おいしい。

久しぶりに食べたりんご飴は甘くて酸っぱくてパリパリして下の方の飴が固まったところはガリゴリして、楽しくて、なんかとてもよかった。
雰囲気だけだと思っていてごめんね。

昨晩、流しにそのままにしたまな板と包丁。その周りに散らばったキラキラひかるルビーのようなりんご飴の破片。水に濡れて溶けたそれが排水溝に向かっていくつものスジを描いています。

少し眺めた後、ケトルでお湯を沸かしてシンクに回しかけます。ステンレスに張り付いた赤い透明な破片は少しずつ小さくなって排水溝に吸い込まれていきました。

そして洗剤をスポンジに突き立てて、ギュッと。

…………。


あれだけ咲かない咲かないと言っていた桜は一瞬で咲き誇り、もう散り始めています。

通勤路に敷かれた桜の絨毯は日に日に濃くなり、雨で土によごれ、そして今日、なくなりました。

桜の花で膨らんだゴミ袋を想像してみると、その隣には深紅の宝石が詰まったゴミ袋がありました。

夢のあと。

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